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お殿様が持ち帰った青森県南部の妙丹柿には強力な抗酸化力があった!

ご当地研究最前線
弘前大学農学生命科学部食料資源学科准教授 前多 隼人

青森県の妙丹柿は200年前から存在

妙丹柿は、干し柿に加工されることが一般的

秋は多くの農作物が収穫を迎える、実りの季節です。秋に旬を迎える食物の中でも、柿は日本人になじみが深く、縄文時代の遺跡でも種が発見されています。

現在、食されている柿は甘柿がほとんどですが、鎌倉時代までは柿といえば渋柿を指していたそうです。柿が持つ独特の渋みの正体は、タンニンという成分です。タンニンには、抗炎症作用、抗菌作用、血糖値の上昇を抑える作用があるといわれています。

柿に含まれるタンニンの抗菌作用を防腐剤として活用しているのが、柿渋です。渋柿を未熟な状態で搾汁して発酵熟成させた柿渋は、塗料や染料など、広い用途で使用されています。

タンニンの他、柿にはβ‐クリプトキサンチンという成分も含まれています。柿の果皮や果肉に豊富に含まれているβ‐クリプトキサンチンには、骨粗鬆症の予防、糖尿病の進行抑制、免疫力の増強、美肌などの効果があることが分かっています。

現在、1000品種以上あるといわれる柿の中で、青森県の南部で生産されているものが「妙丹柿」です。 渋柿の一種である妙丹柿は、大きさが約6㌢、重さが約80㌘と小さく、種がほとんどできないのが特徴です。果肉が粘質で繊維質が少なく、滑らかな形であることも、干し柿として非常に適した品種です。

かつて甘味料が乏しかった時代、妙丹柿の産地は活況を呈し、干し柿も大正時代頃からすでに商品化されていました。妙丹柿の干し柿には、地域特有の加工方法があります。干し柿専用の竹串に刺して干すのが昔から伝わる方法です。

皮をむいた妙丹柿を1尺8寸(約55㌢)の竹串に横から10個刺し、それを10列並べてすだれのようにつなげます。本格的に寒くなる12月から、日の当たるところで1ヵ月以上も自然乾燥させます。

妙丹柿は、1948年に発行された『果樹園芸学』の上巻に「二百年前後の老木も少なくない」という記載があります。江戸時代のお殿様が参勤交代の帰り道に、福島県から苗木を持ち帰ったという説がある、たいへん歴史のある特産物です。

私が勤務する弘前大学では、妙丹柿の話題性と機能性に注目しました。歴史ある特産物の有効活用と付加価値の向上を目指し、健康に関する機能性の解明や魅力的な商品開発のため、青森県の民間企業と共同研究を進めています。

妙丹柿酢には抜群の抗酸化力があった

妙丹柿酢に含まれるポリフェノールの量は、穀物酢やリンゴ酢よりも格段に豊富で、抗酸化作用も強力

妙丹柿は収穫後に長期間保存できないことから、加工食品として利用されることがほとんどです。これまでに妙丹柿を使ってドライフルーツやチョコレート菓子、冷凍柿、柿の葉茶などの製品が商品化されてきました。さらに、高度な加工食品が望まれる中、私たちが新たに開発を進めた加工食品が妙丹柿酢です。お酢(酢酸)の健康に対する機能性としては、内臓脂肪低下作用や血圧低下作用が報告されています。

青森県では県の特産のリンゴを使った加工食品会社が多く存在し、中でもリンゴ酢の生産が盛んです。私たちは創業100年以上の歴史を誇る青森県の醸造会社と協力し、青森産妙丹柿を原料とした柿酢の開発を進めることになりました。

この醸造会社は、以前から弘前大学と共同研究を進めています。ユネスコの世界自然遺産に認定されている白神山地で取れる酵母「弘前大学白神酵母」を使ったリンゴ酢の生産も行っています。

妙丹柿酢の開発にあたっては、色の悪さや加工の過程で渋みが出る「渋戻り」の問題などがありましたが、2年間試行錯誤を重ねた結果、おいしくて風味豊かな柿酢を安定的に製造できるようになりました。柿の鮮やかなだいだい色、まろやかな甘味の両方を残したすばらしい果実酢として完成したのです。

私たちの研究から、妙丹柿酢は穀物酢よりもポリフェノールが多く含まれていることが分かりました。柿ポリフェノールの中心的な成分は、先ほど解説したタンニンです。醸造過程において、これらのポリフェノール成分は分解されないと考えられます。

ポリフェノールには強力な抗酸化作用があるため、活性酸素による害を減らすことが期待できます。活性酸素は、酸化力が強い酸素で、体を酸化させて老化を促進し、さまざまな疾患を引き起こします。

妙丹柿酢が持つ活性酸素の消去能を調べた結果、穀物酢よりも強い効果を示しました。健康な食生活を送るための優れた食材として、広く活用できます。津軽地方の寒い気候の中で熟成された妙丹柿酢を、ぜひお試しください。