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糖尿病対策の切り札!捨てられていた〝果皮〟に肥満を防ぐ力があると注目

ご当地研究最前線
徳島県立工業技術センター 新居 佳孝

深刻な糖尿病の問題を解決するため皮に着目

スダチの果皮に含まれる成分には抗肥満作用がある

徳島県は糖尿病の問題が深刻な県です。糖尿病による県民の死亡率が1993年から14年連続でワースト1位を記録し、2008年以降も6年連続で最下位になったのです。危機感を抱いた県が糖尿病関連の研究を推進する中で取り上げたものの1つに、徳島県の特産品であるスダチがあります。

一般的なスダチは果皮が緑色をしている未熟な状態で流通していますが、熟すとミカンのように黄色くなります。スダチの旬は8〜10月ごろですが、ハウス栽培の技術が進み、最近は1年を通じて入手することができるようになっています。

スダチの主な生産地は、徳島県の神山町や佐那河内村です。年間約5000㌧収穫され、全国に流通するスダチのほぼ100%を徳島県産が占めています。名実ともに徳島県を代表する特産品です。

スダチの歴史は古く、1706年には書物の中で「リマン」という名称で記載されていることが確認されています。名前は「酢橘」に由来し、酸味のある調味料として使われていたことから名づけられたそうです。

スダチの風味は料理の味を高めるばかりでなく、食欲増進や疲労回復などに高い効果があるといわれてきました。

スダチの果皮には、スダチチンという成分が含まれています。徳島県が一丸となってスダチチンの研究を進めた結果、糖尿病に対して有効な働きをすることが明らかになってきました。

今回は、スダチチンの研究にたずさわった、徳島県立工業技術センターの新居佳孝さんにお話を伺いました。

「料理の名わき役として知られているスダチですが、使われるのはほとんどが果汁で、果皮は大半が利用されていません。スダチの果汁は調味料としてだけでなく、ジュースやお酒にも使用されています。スダチを搾ると、果皮を中心とした廃棄物が年間2000㌧以上も出ます。長年、十分に利用されてこなかった果皮に含まれている機能性成分が、スダチチンです」

柑橘類の果皮には、植物の色素成分であるポリフェノールが含まれていることが知られています。柑橘類の種類によっては、発がんの抑制、糖尿病や脂質異常症といった生活習慣病の改善効果などの働きが報告されています。

「スダチの果皮に含まれるスダチチンもポリフェノールの一種です。スダチチンは、1962年に徳島大学が行った研究によって発見された成分ですが、機能性の調査は十分に進んでいませんでした。そこで、徳島県の2つの大きな問題である糖尿病とスダチ廃棄物の解決を図るために、県と大学、地元の企業が連携して研究を行うことになったのです」

スダチチンを与えるとエネルギー消費量も増加

スダチチンを、高脂肪食を与えて育てたマウスに投与した実験。スダチチンを与えなかった群に比べ、皮下脂肪・内臓脂肪の量が有意に低下していることが判明。さらに、エネルギー消費量が、日中・夜間ともに向上していることもわかった
参考文献「Nutrition&Metabolism,11,32(2014)」

徳島大学医学部で行われた実験では、高脂肪食を与えているマウスに、体重1㌔あたり5㍉㌘のスダチチンを12週間与えて、スダチチンを与えなかったグループと比較しました。

すると、実験開始から8週間めには、スダチチンを与えたマウスは体重の増加が明らかに抑制されていました。スダチチンを与えなかったマウスと比べ、総脂肪量、皮下脂肪量、内臓脂肪量が有意に減少していたうえ、血液中の中性脂肪も低い値を示していたのです。

「実験後にマウスの肝臓から抽出した遺伝子を分析したところ、スダチチンを与えたグループでは肝臓の脂肪を分解する働きに関係する遺伝子が増加しているとわかりました。一方で、脂肪細胞から抽出した遺伝子を調べたところ、脂質の合成に関係する遺伝子の発生が抑制されていたのです。エネルギー消費量が高まったことも確認されています」

研究結果から、スダチチンには脂肪の蓄積を抑制し、エネルギーの消費量を高める作用があることがわかりました。糖尿病の予防・改善には、うってつけの素材といえるスダチの果皮は、地元の食品・製薬企業が健康食品の素材として開発に成功し、一般に流通しています。

「スダチチンには、抗酸化作用があることもわかっています。生活習慣病を招く体の酸化を抑え、がんの発症を防ぐ働きも期待されています。スダチの研究がさらに進むことで、徳島県の糖尿病問題が解決し、地域振興にも役立つことを願っています」