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ほんとうの豊かさを教えてくれたオーストリアでの思い出

クマ先生の免疫学的なお酒と料理の楽しみ方

熊沢 義雄

[くまざわ・よしお]——医学博士(京都大学)。元北里大学教授。山梨大学大学院発酵生産学修了後、北里研究所、北里大学薬学部・理学部に40年間在職。順天堂大学医学部非常勤講師。専門は生体防御学(免疫学)。日本細菌学会名誉会員。現在は北里大学発のベンチャー企業の代表として奮闘中。

いまから30年ほど前、ヨーロッパピクニック事件(ドイツ・ベルリンの壁崩壊の発端となった市民集会)が起こる数ヵ月前のことでした。オーストリアの片田舎にある村の集会所といった酒場で、夏から冬時間に変わることで12時が一時間続く、(もう)けもののような時間を過ごしました。

満天の星が降ってくるような夜空のもと、同席した国境警備員の案内で彼の小屋を訪れました。国境警備員の収入は多いとはいえないでしょうが、彼の趣味であるワインとハチミツ作りにたっぷり時間をかけられる生活はすばらしいと思いました。酒場の料理とワインは質素でしたし、彼の趣味の小屋もりっぱなものではありませんでしたが、毎日を楽しんでいる姿に人生の豊かさを感じました。

グルメに関する情報があふれる現代社会では、いろいろな料理を楽しむことができます。ミシュランの三ツ星レストランの料理や、ワインの評点として知られるパーカーポイントが高いワインが話題になります。バイキング(食べ放題)を見ると、多くの人は元を取りたいと意地汚くなり、おなかいっぱい食べてしまいます。満腹信号のレプチンが脳に伝えられても、ケーキなどを別腹状態で食べるときは「おなかいっぱいだよ!」という信号に脳が反応しないレプチン耐性、あるいは自発性過食状態になっています。こうした食生活が続くとメタボになり、高血圧や糖尿病、脂質異常症や動脈硬化も起こりやすくなるのです。非アルコール性脂肪肝炎や、最終的には肝がんのリスクも高まるでしょう。

多くの人は、バイキング方式で料理を食べるときは、自分が好きな料理を選びます。自分が好む味とは、子ども時代に育まれた味です。生活環境が遺伝子に影響を与えることを「エピゲノム」といいます。エピゲノムによってがん抑制遺伝子が働かなくなったり、食物アレルギーになったりする場合もあります。子どものときの食事は、とても大切なのです。

現在の日本において、食物の自給力はとても低いものです。世界中から食材を輸入し、料理を作っています。「お金を出せば」の話ではありますが、世界中のおいしい料理を日本で味わうことができます。その一方で、食材や料理を捨てる「フードロス」が問題となっています。まさに飽食の時代を象徴する光景です。食べすぎは、肥満のみならずアルツハイマー病やがんの発症リスクも高めます。

昔の日本人は、日の光を浴び、野山を動き回っていました。筋肉を育て、里山で育った穀物や野菜、果実、自然の環境で育った動物・魚介類などを糧にしていました。経済的には苦しかったかもしれませんが、心が豊かな生活を送っていたと思います。

適度な日光浴と運動を行い、さまざまな食材で作った料理を腹八分目で食べる。バランスのよい体を作り、基礎代謝をアップする。加えて、さまざまな分野の人たちと交流し、社会貢献ができれば最高です。食だけでなく、心も豊かになれる生活を送りたいものです。