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脊柱管狭窄症の症状は“モヤモヤ血管”が原因でも起こり[鴨井式押圧]が有効

整形外科

なごやEVTクリニック院長 鴨井 大典

画像所見と臨床症状の不一致の謎を解くカギを握る病的な新生血管である〝モヤモヤ血管〟

[かもい・だいすけ]——2003年、香川大学医学部卒業。国立国際医療センターを経て、 2005年、日本有数の心臓血管治療施設である小倉記念病院にて循環器科研修。2008~2018年、名古屋共立病院にて心臓・末梢血管カテーテル治療に従事。治療最難関とされる透析症例の経験数は日本トップクラスであり、以後長年にわたり国内外で活躍。済寧医学院附属病院客員教授、全医会伊藤整形・内科あいち腰痛オペクリニック非常勤兼務、大垣徳洲会病院循環器内科非常勤・非常勤顧問(現在も兼務)、名古屋大学血管外科非常勤講師(現在も兼務)、Okuno Clinic勤務を経て、2019年、なごやEVTクリニックを開院。

腰部脊(ようぶせき)(ちゅう)(かん)(きょう)(さく)(しょう)(以下、脊柱管狭窄症と略す)は、腰椎(ようつい)(腰の背骨)の「脊柱管」という管が狭くなり、中を通る神経が圧迫されて足腰の痛みやしびれを引き起こす病気です。50代以降に急増し、患者数は580万人にも及ぶといわれています。

加齢による腰椎の変化は脊柱管が狭くなる方向に進行します。椎間板(ついかんばん)の中に収まっている「髄核(ずいかく)」という軟らかい組織は加齢とともに水分の含有量が少なくなって弾力性が低下し、椎間板の外側にある「線維輪(せんいりん)」という薄い軟骨の層の肥大も進んで脊柱管内にせり出すようになります。また、脊柱管の後方にある(おう)(しょく)靭帯(じんたい)もたわんだり肥大したりして脊柱管内にせり出します。さらに、脊柱管の後方側面にある椎間関節も過重負荷から(こつ)(きょく)(トゲ状の骨)の形成や骨増殖をきたし、脊柱管を圧迫するようになります。このように腰椎を構成する多くの組織の加齢変化が脊柱管の狭窄状態を形成する原因となるのです。

興味深いことに、脊柱管狭窄症はレントゲンやMRI(磁気共鳴断層撮影装置)などの画像所見と臨床症状(患者さんの自覚症状)が一致しないケースも多く見られます。例えば、画像所見では脊柱管の狭窄という異常が認められるにもかかわらず無症状であったり、画像所見では脊柱管の狭窄が軽度なのにもかかわらず臨床症状は重度であったりするケースです。手術によって画像所見上の異常の原因を取り除いたのにもかかわらず、足腰の痛みやしびれなどの症状が治らない患者さんも少なくありません。

肩こりを引き起こしていたモヤモヤ血管の画像。治療後、モヤモヤ血管は速やかに消失し、正常血管が太く末梢まではっきりと確認できる

整形外科の分野では、長い間、画像所見と臨床症状の不一致は原因不明とされてきました。いま、その謎を解き明かす新たな原因として注目されているのが、私の専門領域である〝モヤモヤ血管〟です。

人間には、毛細血管が各組織の(まっ)(しょう)まで張り巡らされていますが、痛みを起こしている組織の周辺には病的な血管ができていることが分かってきました。損傷を受けたり、繰り返しストレスを受けたりすることによって炎症が起こっている部位には、修復の過程で「新生血管」という新しい血管の増生が起こります。

通常、新生血管はできては消え、できては消えということを繰り返しています。しかし、なんらかの原因で消えなくなると悪さをするようになり、 〝病的新生血管〟になってしまうのです。慢性的な痛みの原因となる病的新生血管が血管造影画像ではかすんでぼやけて見えることから、分かりやすいように〝モヤモヤ血管〟と呼ばれています。

モヤモヤ血管は非常にもろい構造をしているため、血管内から発痛物質が漏れ出してしまうことがあります。また、血管と神経は隣り合うように発達することが知られていますが、モヤモヤ血管のそばには病的な神経も増殖していることが分かっています。これらの病的な神経が痛みの信号を発するほか、病的な血流の増加に伴って局所の組織圧が高まることも指摘されています。

加えて、モヤモヤ血管によって動脈と静脈との間にできた異常な連結部分((どう)(じょう)(みゃく)(ろう))が作られることで、血液が末端の毛細血管を経ずに動脈から静脈に流れ込んでしまい、患部組織に血液が十分に行き渡らずに虚血(きょけつ)状態に陥ってしまうことも問題です。患部組織の虚血状態を改善するためにモヤモヤ血管を含む新生血管がさらに増生し、血流不足を悪化させるという悪循環まで形成されてしまいます。

一般的に、40歳以上になるとモヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えてくるため、慢性的な痛みが生じやすくなります。次の項目に当てはまるという人は、モヤモヤ血管が原因かもしれません。

運動器カテーテル療法中の鴨井医師。血管造影画像を見ながら行う手術には熟練の手技が求められるという

3ヵ月以上の長引く痛み(慢性疼痛(まんせいとうつう))がある

医療機関で「手術を行わない方針」となっているが、痛みが改善しない

医療機関で手術を含む治療を受けたが、痛みが残っている

医療機関で「原因不明の痛み」といわれている

(はり)やマッサージ、リハビリテーションなどに通いつづけても痛みが取れない

鎮痛薬をやめられない

スポーツや仕事などでの繰り返し動作で痛みが生じるようになった

明るく清潔感あふれるなごやEVTクリニック(愛知県名古屋市)の室内

3ヵ月以上経過したモヤモヤ血管はなかなか消えないため、当院では症状の程度によって注射療法と運動器カテーテル療法を組み合わせて治療を行っています。特に、運動器カテーテル療法は非常に強力で、広範囲に及ぶモヤモヤ血管の治療に有効です。運動器カテーテル療法は血管の分布に沿って治療ができるため、注射などでは届かない体の深部にまで届くという利点もあります。

ただし、脊柱管狭窄の中でも、骨が物理的に神経を強く圧迫しているような場合は、原因となっている部位の骨を削ったり切除したりすることで神経の圧迫を取り除き、根本的な原因の解消が期待できる手術療法などの局所治療が望ましいといえます。つまり、モヤモヤ血管の治療は、人体の構造的な異常を改善するものではなく、手術療法を代替することはできません。

しかし、前述のとおり、脊柱管狭窄症に起因するとされる足腰の痛みやしびれは、複数の要因が重なり合って起こる複合病変であることがほとんどです。

モヤモヤ血管の治療で脊柱管狭窄症に伴う足腰の激痛が消失し階段の昇降も問題なし

他院で椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症を合併していると診断されていたAさんの腰部のレントゲン画像。腰椎の直線化に加えて、側弯(背骨が左右に弯曲した状態)や椎間腔の狭小化(椎間板が潰れた状態)、骨棘(トゲ状の骨)の形成、骨硬化像(骨が硬くなって黒く見える部分)などの高度な腰椎の変形が認められる

次に、脊柱管狭窄症の代表的な改善例をご紹介しましょう。

Aさん(80代・女性)は以前から腰痛があり、ほかの病院で腰椎椎間板ヘルニア(以下、椎間板ヘルニアと略す)と脊柱管狭窄症と診断されていましたが、いずれも手術の適応ではなく、整形外科では保存療法の方針で鎮痛薬の服用のほかに電気治療や理学療法を受けていました。しかし、腰痛が改善することはなく、4ヵ月前に重い物を運んだのがきっかけで腰痛が悪化し、右腰からお(しり)、さらに右太ももの前側面にかけて焼けるような痛みを伴うようになりました。

鎮痛薬も効かなくなり、困り果てて当院を受診したAさん。問診をすると、腰の痛みが3割で、右太ももの痛みが7割ということでした。

診察時の所見では、Aさんの腰の動きが悪く、可動域(動かすことができる範囲)が著しく制限されていました。腰やお尻の筋肉がかなり硬く、触診時の反射性の緊張も強く生じていました。痛む部位は右の腰骨や(ちゅう)殿筋(でんきん)坐骨(ざこつ)の周辺などが主体でしたが、仙腸関節に近い(じょう)(こう)(ちょう)(こつ)(きょく)()(じょう)(きん)にも圧痛が認められました。

レントゲン画像では、前弯(ぜんわん)しているはずの腰椎が直線化していることに加えて、側弯(そくわん)(背骨が左右に弯曲した状態)や椎間腔(ついかんくう)の狭小化(椎間板が潰れた状態)、骨棘の形成、骨硬化像などの高度な腰椎の変形が認められました。椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症を合併した変形性腰椎症(腰椎が変形して腰痛などを引き起こす病気)ですが、高度の神経障害はなく、筋肉・筋膜性の疼痛(とうつう)のほか、仙腸関節の障害や梨状筋症候群(梨状筋によって坐骨神経が圧迫され、痛みやしびれを引き起こす病態)の要素も含んだ状態と判断しました。

Aさんにはかなり高度な腰椎の変形があり、一定の症状が残る可能性があることをご理解いただいたうえで、運動器カテーテル療法を受けていただきました。Aさんの場合、左右あわせて20ヵ所以上の骨盤部位のモヤモヤ血管を治療しました。

治療後、翌日から腰痛がかなり改善し、「まるで魔法にかかったようだ」と驚かれていたAさん。2週間後の診察時までの間にあまりにも腰痛がよくなったため、周囲の人や整形外科の医師、リハビリセンターのスタッフにも驚かれたことなどを教えてくれました。

とはいえ、Aさんの腰の痛みはまだ残っており、1ヵ月後の時点では植木鉢の移動や枝切りの作業後などに強い痛みを感じるときもありました。それでも、横になると30分くらいで腰の痛みが治まるようになったそうです。

その後、徐々に階段も一段ずつ昇れるようになったAさん。2ヵ月が過ぎる頃には腰の痛みが完全に消失し、100%改善したとたいへん喜んでいました。

80代で重度の腰椎の変形があって日常の動作が困難になっていると、「もうどうしようもないのではないか」「年のせいだからしかたがない」と思い込んでしまいがちです。すべての方がAさんのように劇的に改善するわけではありませんが、諦める必要はありません。Aさんの改善例は多くの方々を勇気づけてくれる、とても印象的なものでした。

脊柱管狭窄症以外にも、モヤモヤ血管は頸椎(けいつい)(しょう)や首・肩のこり、肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)、ヘバーデン結節(けっせつ)・ブシャール結節、ひざ・股関節(こかんせつ)などの変形性関節症、アキレス腱炎(けんえん)など、体のあらゆる部位で起こる症状や疾患に関わっている可能性があります。また、〝炎症体質〟とでもいうべき体質があり、がんや糖尿病、関節リウマチなどの膠原(こうげん)(びょう)、アレルギー体質の方はモヤモヤ血管ができやすいことが知られています。

今回は、モヤモヤ血管を自分で減らして慢性的な痛みの改善が期待できる[鴨井(かもい)式20秒押圧]をご紹介します。モヤモヤ血管は血流がとだえると死滅する傾向があります。その性質を利用して、外部から圧迫することで血管を減らすのが[鴨井式20秒押圧]です。

まず、痛みを感じる部位を手の親指の腹で押していき、痛かったり痛気持いいと感じたりするポイントを探します。痛むポイントが見つかったら、1ヵ所につき20秒ずつ押していきます。押す強さは(つめ)の色が白くなる程度でけっこうです。もみほぐすのではなく、グーッと押しつづけてください。

腰やお尻など、痛むポイントが手の届きにくいところにあり、うまく押すことができないということもあるかもしれません。そのようなときは、ご家族の誰かにお願いしてもいいですし、あおむけの姿勢で気になる部位に硬式テニスボールなどを当てることでも代用できます。

20秒押したら、その部位の押圧はそれで終了です。ほかの部位も気になるようであれば、同様に押していきます。1ヵ所につき間隔を置いて1日2回くらい押す程度でじゅうぶんで、体が温まった入浴後などに行うといいでしょう。

早い人で数日、遅くても2~3週間で効果を感じる可能性があります。もし痛みが強くなってしまうようであれば、無理は禁物です。[鴨井式20秒押圧]を試しても効果が感じられない場合は、モヤモヤ血管の治療を専門とする医療機関を早めに受診することをおすすめします。

鴨井大典先生が診療されているなごやETVクリニックの連絡先は、
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