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腸内の善玉菌に “おもてなし”をしていますか?

クマ先生の免疫学的なお酒と料理の楽しみ方
熊沢 義雄

[くまざわ・よしお]——医学博士(京都大学)。元北里大学教授。山梨大学大学院発酵生産学修了後、北里研究所、北里大学薬学部・理学部に40年間在職。順天堂大学医学部非常勤講師。専門は生体防御学(免疫学)。日本細菌学会名誉会員。現在は北里大学発のベンチャー企業の代表として奮闘中。

東京オリンピック誘致のスピーチで「お・も・て・な・し」のひと言が脚光を浴びました。ラグビーのワールドカップでも、外国人選手や海外から来た観客といっしょに国歌を斉唱したり、ハカのダンスを踊ったりするなど、いろいろなおもてなしの光景が見られました。

四国の遍路は、88ヵ所を巡る旅で、その長さは1100㌔㍍以上もあります。「歩き遍路」は荷を背負って険しい山を歩いて巡る旅。道中にはお接待という文化があり、おもてなしがお遍路の旅を支えています。こういったもてなしの文化は、いまでは少なくなりました。

夏の強い日ざしの中を歩いていると、木陰で休みたくなります。冷たい水で渇いたのどを潤したくなります。北風が吹く寒い中を歩くと、暖かな火や温かい飲み物が欲しくなります。夏であれ冬であれ、つらい状態を和らげる気の利いたおもてなしには感謝しかありません。

おもてなしは、無意識に思っていることをさりげなくされたときにうれしく感じるものです。無償の行為であればなおさらでしょう。たとえ有償であっても、心から満足できれば、それもおもてなしの1つ。例えば、北アルプスの燕岳つばくろだけの急な登り道を喘いで登り、小屋にたどりついたときにいただく冷えたスイカ。重いスイカを小屋まで運び、冷やして提供するおもてなしを受けると、おいしさだけでなく、記憶に残る思い出になります。

私はこの連載の中で、腸内細菌そうの重要性を取り上げてきました。「何を食べるか?」は自分の好みですが、健康を考えるうえでは、その食べ物が健康に役立つ腸内細菌叢に対するおもてなしになるか、悪玉菌へのおもてなしになるかが重要です。

私たちの腸内には1~1.5㌔もの細菌がすみ、その種類は食べ物によって異なります。最近、糖質制限で炭水化物を極端に制限している人がいます。当然ながら腸内の善玉菌に必要な食べ物は提供されず、嫌がらせをしている状態といえます。こういった、おもてなしがない腸内環境では、悪玉菌が増え、善玉菌が減っていきます。

中高年になって病気になるのは、生活習慣、特に食習慣が悪いためです。健康によくない食生活を送っていると腸内細菌叢が悪くなり、健康を損ねます。がん細胞が増えないように働く抑制遺伝子が働かない環境では、がんになりやすくなるのも不思議ではありません。腸内の善玉菌をおもてなしする食生活を実践すれば、腸内環境が整えられて、がんや病気にかかりにくくなります。

おもてなしは他人に対する心配りですが、自分と共生している細菌に対する心配りも大切です。ウイルス性疾患にかかったとき、「念のため」と称して抗生物質を服用することもありますが、腸内細菌、特に善玉菌を減らしていることを忘れてはいけません。善玉菌がすみやすい環境を作る食事をとることが、健康への切符となるでしょう。