股関節のセルフケア法のポイントは「悪化させないこと」と「改善させること」
この連載を通じてご紹介する冨澤式[股関節温存療法]は、変形性股関節症の患者さんが自宅で行えるセルフケア法です。私がセルフケア法の必要性を強く訴えている理由は、変形性股関節症と診断された後、進行を抑制したり症状を改善したりする可能性があるにもかかわらず、1年も2年も放置されて症状の悪化を招いている悪循環を断ち切りたいからです。
専門知識がない患者さんは、医師にいわれるがまま処方された痛み止めの薬や湿布薬などを使いながら、「少しでもよくなる」と信じて痛みを我慢して生活しています。年々、股関節の状態が悪くなる一方なのにもかかわらず、どうすればいいかが分からないがために苦しんでいるのです。
股関節症の分類で【重度の場合】のセルフケア法は軽度・中等度にも適応
自分の体は自分で治す――あなたの痛みはあなたしか分からないのです。「どうすればよいか」「何に気をつければよいか」を知り、日々実践していくことが大切です。何もしないでいるよりも、少しでも改善が見込めるセルフケア法をコツコツと行っていくことをおすすめします。
今回は【重度の場合】の冨澤式[股関節温存療法]を指導します。ただし、軽度や中等度の場合にも共通するセルフケア法ですので、いずれの分類に当てはまる方も入念に行うようにしてください。しっかり行っていただければ、股関節の痛みから解放されることでしょう。
まず、マッサージの目的とポイントを説明します。変形性股関節症でいちばん困るのは痛みが続くことです。変形性股関節症で痛みが出る部位は腰骨(「痛みが出る部位とマッサージのポイント」の図の①参照)と足のつけ根(鼠蹊部)(「痛みが出る部位とマッサージのポイント」の図の②参照)です。
変形性股関節症の痛みを改善するためには、痛みの原因として考えられる筋肉の凝りをほぐすことが重要です。具体的には、過剰な緊張状態で硬くなっている大腿部の外側の大腿筋膜張筋と腸脛靭帯、大腿直筋(「痛みが出る部位とマッサージのポイント」の図の③参照)をほぐすことが最優先されます。
その他、お尻の部分(臀部)(「痛みが出る部位とマッサージのポイント」の図の④参照)やひざ付近にも痛みを訴える方がいますが、緊張している大腿部の筋肉がひざ関節を動かす筋肉のため、悪影響を受けていると考えられます。
痛みを訴える本人も大腿部の外側(大腿筋膜張筋・腸脛靭帯・大腿直筋)が硬くなっていることを感じているようで、マッサージをすると「よくそこを自分でももんだり、たたいたりしていました」などといわれます。人間は本能的に自分の体を癒やすことを知っているのだと感心します。
適切な部位と手の使い方で効果的・効率的に〝ほぐす〟
マッサージの圧のかけ方と場所が大切なため、やりやすいあおむけの姿勢から練習するのがおすすめです。慣れてきたらイスに座りながらでも立ちながらでもできます。ひざの裏に座布団を1~2枚置いてひざ頭を少し高くして行うとよりやりやすくなります(「マッサージのやり方」Ⅰ参照)。
1つ目のポイントは腰骨です。腰骨の出っ張った骨(上前腸骨棘)から指3本分下で、股関節を曲げるとへこむところ(上の図の①参照)です。両手の3本の指(人さし指・中指・薬指)を当てて少し強く圧をかけて上下または左右に30回程度マッサージします。
2つ目のポイントは鼠蹊部です。ちょうど足のつけ根の溝(鼠蹊溝)のほぼ中央で、触れると脈拍を感じるところ(上の図の②参照)です。足に流れる血管やリンパ液が通るところでもあり、ほぐすことで血流がよくなります。この場所も両手の3本の指(人さし指・中指・薬指)で30回程度マッサージします。
3つ目のポイントは、太ももの側面(大腿筋膜張筋・腸脛靭帯・大腿直筋)です(「痛みが出る部位とマッサージのポイント」の図の③参照)。この筋肉は緊張して硬く縮まっているため、しっかりほぐしていきます。上体を起こしてマッサージするほうの足を伸ばし、筋肉の力が抜けた状態で行います(「マッサージのやり方」Ⅱ参照)。手のひらの手根(手のひらの下の部分)を使って上から下へ、下から上へとアイロンでシワを伸ばすようなイメージで30回程度往復させます。
少し痛いくらいがちょうどよく、ほぐれてくると痛みでなく心地よさに変わります。臀部に痛みが出る人は最後に「お尻えくぼ」(お尻に力を入れるとへこむところ)といわれる部位もマッサージしましょう。うつ伏せになり、お尻の筋肉の力が抜けた状態で指3本(人さし指・中指・薬指)を使って30回程度マッサージしましょう。
マッサージでほぐした後はストレッチでさらに柔らかくしていこう
マッサージでほぐした後は、ストレッチで筋肉を伸ばして柔らかくしていきます。伸ばすほうの足が上に来るように横向きになります。図の「ストレッチのやり方」のようにひざを曲げて手で足先を持ち、少し後ろに引っ張ります。
そのときのポイントは、かかとをお尻に付けるようにすることです。そうすると、大腿四頭筋(太ももの前面)が突っ張るように伸ばされます。引っ張り方は、まず足を後ろに引っ張って緩める動作(動的ストレッチ)を5回行った後で、足を後ろに引っ張った状態(静的ストレッチ)を10秒保つようにします。動的ストレッチと静的ストレッチの組み合わせは経験的に生み出されたものですが、ストレッチの効果を実感しやすい方法です。
マッサージとストレッチを行う効果的なタイミングと1日の回数は?
マッサージとストレッチを行うタイミングは、お風呂上がりがいちばん効果的です。お風呂上がりは、体が柔らかくなっていて、マッサージやストレッチがしやすいからです。湯船にゆっくりつかって体を温め、体が冷えないうちに行いましょう。あとはよく歩いた日やよく歩く日の前日などは、お風呂上がりに入念に行うようにしてください。
マッサージやストレッチを1日何回行えばいいかといえば、原則としてマッサージはお風呂上がりに3ヵ所を行い、ストレッチは3回を1セットとして2セット繰り返すといいでしょう。時間に余裕がある人は、朝・昼・晩と1日3回行うことをおすすめします。1回の時間は15~20分程度(両足だと30~40分程度)です。
決して無理をしない範囲内でリラックスして行うようにしてください。三日坊主では効果が出ません。コツコツと継続することがとても重要です。その他の注意点としては、痛みが強く出ているときは決して我慢せず、なるべく休養するようにしてください。
〒338-0013 埼玉県さいたま市中央区鈴谷4-17-13 ☎048-789-7743