あらなみクリニック総院長 荒浪 暁彦
アトピーは体の内側から治療する必要があり腸内環境の改善で皮膚の状態も軽快
「皮膚は内臓の鏡」という言葉があります。アトピー性皮膚炎(以下、アトピーと略す)を含め、皮膚に起こるさまざまな症状は、内臓をはじめとする体の内側に生じている問題を如実に表しているといえます。
アトピーの原因をひと言で表すと「免疫の暴走」です。通常、アトピーの治療は免疫の働きを抑えるステロイド外用剤(以下、ステロイドと略す)が使用されます。ステロイドは正しく使えばとても安全で、優れた成果を出す医薬品です。現在は、アトピーの重症度によって使用するステロイドの種類や塗る方法がそろっているため、以前より治療効果が高まっていると実感できます。
とはいうものの、ステロイドの使用だけでは完治できないアトピーの患者さんがいるのも現実です。そういった患者さんには、私が得意とする漢方薬を用いて、体の内側からアトピーの改善を目指しています。
難治のアトピーを改善させるには、内臓、特に腸内の環境を良好に保つことが大切です。小腸や大腸は、体に必要な栄養素と不要な物質をより分け、吸収したり排出したりする働きを担っています。一方で、口から入ってきた食物には、有害物質や雑菌類が含まれている可能性があります。こうした侵入する有害物質から体を守るためにも、私たちの腸には全身の5割以上の免疫細胞が存在しているといわれています。
免疫細胞の状態を左右するのが、腸内環境です。人間の腸内には数百兆個もの細菌がすみついています。かつて、腸内細菌は「善玉菌」「悪玉菌」が勢力争いを繰り広げており、善玉菌の勢力が優勢になると腸内環境が改善すると考えられていました。近年の研究では、腸内細菌が簡単に「善玉と悪玉」という2つの勢力に分けられるものではないことも明らかになりつつあります。この記事では分かりやすさを重視し、善玉菌と悪玉菌、そして善玉菌と悪玉菌の強いほうに味方する「日和見菌」の3種類に分けて解説しましょう。
腸内で善玉菌が優勢だと日和見菌が善玉菌に味方して、腸内環境が良好になります。便秘が改善して免疫力も高まり、老化物質も生まれにくくなるという、いいことずくめの状態になります。もちろん、善玉菌が優勢の腸内は肌にもいい影響を与えます。そのため、老化を防いでシワやシミが作られないようにするには腸内環境を良好に保つことが大切です。
腸内環境の改善には伝統的な日本食がよく『養生訓』の教えがアトピー改善に有効
アトピーは免疫の異常によって起こります。腸内環境は免疫力とも密接に関わっているため、アトピー患者さんにとって腸内環境の改善は必要不可欠といえるでしょう。
漢方薬以外に腸内環境を改善するのにおすすめなのが、日本人に適した生活を送ることです。さらにいえば〝先人の知恵〟を踏まえた生活を送ることでアトピーの改善が期待できます。食生活を挙げてみれば、日本人には日本人の、フランス人にはフランス人の最適な食生活があります。私たちの腸は、古くから土地の食事を通じて健康でいられる状態に進化しています。腸内細菌も、その土地の食文化に適したものに選別されていると考えられます。つまり、私たち日本人は、和食を中心とした食生活を送ることで、腸内環境が自然と改善すると考えています。
和食を中心とした食生活のほかに、患者さんにおすすめする〝先人の知恵〟が『養生訓』です。『養生訓』は、江戸時代の儒学者である貝原益軒が、中国や日本などで伝承されていた健康法をまとめた書籍です。衣食住にわたって健康的な生活を送るための知恵が細かく記されている「元祖健康本」で、作者である貝原益軒は80歳以上まで生き、当時としては超長寿を実現した人物と伝えられています。
『養生訓』に記されている内容は、いわゆる流行の健康法ではなく、数百年にわたって淘汰されずに愛読されつづけている、真の健康法です。『養生訓』が時を経ても風化されないのは、その内容が人間の体の原理原則に基づいているだけでなく、私たち日本人の体に適している健康法だからといえるでしょう。『養生訓』の内容を、上に私なりに噛み砕いて一部を抜粋しました。取り組めるものから実践してみてください。
肌に厳しい夏の季節こそ、腸内環境を良好に保ってアトピーに負けないようにしましょう。『養生訓』の教えや和食を中心とした食生活を送り、症状によっては漢方薬の助けを借りてもいいでしょう。