日本の変形性股関節症は股関節の形状異常が圧倒的に多く、中高年以降の女性は要警戒
歩き出すときやイスから立ち上がるときなどに腰やお尻、太ももの前面からひざのあたりに違和感や痛みを覚えたことはありませんか。違和感や痛みの出る部分がはっきりと特定できず、整形外科で検査を受けてもひざや腰などに異常が見られない場合、変形性股関節症の疑いがあります。
股関節は、骨盤の左右にあり、骨盤にあるおわん状の臼蓋(寛骨臼)と呼ばれる受け皿に、太ももの骨の先端にある球状の大腿骨頭がはまり込む構造になっています。臼蓋と大腿骨頭の表面は、関節軟骨という弾力性のある組織で覆われ、関節液で満たされた関節包に包まれています。股関節の滑らかな動きは、関節軟骨というクッションと、関節液という潤滑油のおかげで可能となるのです。
股関節にさまざまな理由で負荷がかかりつづけて関節軟骨がすり減ってくると、レントゲン写真で骨盤側のくぼみである臼蓋と、太ももの骨の先端にある丸い部分の大腿骨頭の間隔が狭くなってきます。そのような状態になると、関節軟骨のクッション作用が低下し、臼蓋と大腿骨頭に過度の力がかかって痛みが出てきます。これを変形性股関節症と呼んでいます。
変形性股関節症は4つの病期に分けられ、「①前股関節症→②初期→③進行期→④末期」と徐々に症状が悪化していきます(「変形性股関節症の4つの病期」図参照)。関節軟骨の破壊が進むと、骨と骨が直接ぶつかるようになり、股関節が変形していきます。治療をせずに放置しておくと症状が不可逆的に進行し、慢性的な痛みのために歩行が困難になったり、股関節の可動域(動かすことができる範囲)が制限されたりして、生活の質が著しく低下してしまう場合もあります。
変形性股関節症の原因は大きく2つに分けられます。股関節の形状に異常がなく、特別な病気を伴わないものを「一次性」と呼びます。老化や肥満などで発症し、欧米ではほとんどが一次性といわれています。
一方、股関節の形状異常や何らかの病気を伴って二次的に発症するものを「二次性」と呼びます。乳児期に股関節が外れた状態(発育性股関節脱臼)だったり、部分的に外れた状態(亜脱臼)だったり、外れやすい状態(寛骨臼形成不全)だったりするなど、骨・関節の異常や外傷が原因で発症します。日本では圧倒的に二次性が多く、中高年以降の女性が発症しやすいと考えられています。
変形性股関節症の症状は気づきにくいのが特徴です。初めのうちは運動後や長く歩いた後などに、股関節に限らず、腰やお尻、ひざの上などに鈍痛が出ることが多く、数日すると治まります。
私の専門はひざ関節ですので、ひざの痛みを訴えて来院される患者さんを診察する機会が多くあります。ところが、X線写真などの検査の結果、ひざに何の異常も確認できないことがあります。そのような場合は変形性股関節症の疑いがあるため、「足のつけ根の前部を押して痛くないか」「あぐらなどがかきにくくないか」といった股関節の異常の有無を問診でたずねるようにしています。
実際に問題のある患部以外に感じる痛みを「関連痛」といいます。変形性股関節症では、腰やお尻、ひざの上などに関連痛を起こすケースが多く見られます。
股関節は、上半身と下半身をつなぐ、体のかなめともいえる中心部分です。変形性股関節症の場合、衰えた股関節の働きを補おうとする骨盤やひざに過剰な負担がかかるため、関連痛が生じやすいと考えられます。
変形性股関節症では腰やお尻、ひざの上の関連痛が多く安静時に痛む場合は受診が必要
『変形性股関節症診療ガイドライン』(日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/変形性股関節症ガイドライン策定委員会編集)では、変形性股関節症の患者さんのうち44%が背骨の異常(脊椎病変)として治療を受けていたと述べられています。また、千葉大学が変形性股関節症の患者さん369名を対象に行った調査では、痛みを訴える部分は太ももの前面が33%、ひざが29%、腰が17%と報告されています。
厚生労働省の調査によると、股関節やひざなどの関節の慢性的な痛みは、骨粗鬆症や腰部脊柱管狭窄症と並んで、高齢者から自立した生活を奪い、要支援・要介護になる主要原因の1つとされています。変形性股関節症は、早期発見できれば、進行を抑える治療や指導を受けることができます。足のつけ根はもちろん、腰やお尻、ひざの上の痛みで検査を受けて「異常なし」と診断されたとしても、安静時に痛みが続くような場合は我慢をせず、医療機関を受診するようにしましょう。