愛媛大学大学院医学系研究科脳神経内科・老年医学講座教授 伊賀瀬 道也
腎臓の糸球体は毛細血管の塊で血管の老化現象である〝ゴースト化〟に要注意
腎臓は、体の左右に一つずつある臓器です。一つの腎臓には、ネフロン(腎小体)と呼ばれる小器官が、約100万個も集まっています。ネフロンは糸球体と尿細管から構成されています。毛細血管が網目状に絡まっている糸球体は、細かい目のふるいのような構造をしており、心臓から腎臓に流れてきた血液をろ過しています。
毛細血管の塊といえる糸球体の機能が低下すると、血液を十分にろ過できなくなります。すると、体の外に排泄されるべき老廃物が体内にとどまってしまい、尿毒症を引き起こす危険性が高まります。糸球体を構成する毛細血管の健康維持こそ、腎機能を維持する秘訣といえるでしょう。
毛細血管の老化現象として、近年注目を集めているのが血管の〝ゴースト化〟です。血管がまるで幽霊のように消えてしまうことから名づけられ、ゴースト化した毛細血管が「ゴースト血管」と呼ばれるようになりました。では、ゴースト血管について解説する前に、まずは毛細血管について分かりやすく説明しましょう。
毛細血管は、腎臓だけでなく全身に存在しています。全身の血管の約99%を占め、動脈や静脈の末端に位置して網の目状になっています。毛細血管は「内皮細胞」という細胞がつながって管の形になっています。内皮細胞の繋ぎ目には小さな隙間があり、動脈を通ってきた血液成分が漏れ出ることで細胞に酸素と栄養素を供給しています。
ところが、さまざまな理由によって内皮細胞にダメージが蓄積されると、細胞どうしの結合が緩くなって血液成分が余分にもれ出るようになります。その結果、本来は毛細血管の先端まで流れるはずの血液成分が早くもれ出て、血管の先端部分に血液が届かなくなるのです。
血液が通っていない毛細血管は役目を果たせなくなり、しだいに消滅していきます。これが毛細血管のゴースト化です。毛細血管がゴースト化すると、酸素や栄養を受け取れなくなった細胞は壊死してしまいます。それだけでなく、血液成分が多めに漏れた部分は、慢性的に炎症反応が起こってしまうのです。
毛細血管のゴースト化回避には血流の改善が大切でふくらはぎの筋力強化がおすすめ
毛細血管のゴースト化は、40代の頃から増えていきます。60~70代になると、20代と比べて約4割の毛細血管がゴースト化しているといわれています。
ゴースト血管が増える最大の原因は加齢で、高血糖と高血圧による血管の老化も原因となります。ほかには、女性ホルモンの一つであるエストロゲンの減少、内臓脂肪の蓄積、喫煙、運動不足、過度なストレスなども挙げられます。
血管のゴースト化を抑えるには、血流を改善することが大切です。毛細血管の内皮細胞も血液によって供給される酸素と栄養によって養われているため、健全な毛細血管のために血流の改善は大切な要素です。
血流の改善に欠かせないのが下半身の筋力です。心臓のポンプ機能によって押し出された血液は、動脈を通って全身を巡り、静脈を通って再び心臓へと戻ってきます。血液が下半身から上半身に戻る際に必要となるのが、「第二の心臓」とも呼ばれるふくらはぎの筋肉です。ふくらはぎの筋力が低下すると、ポンプ機能が低下して血流の循環が滞ります。特に、血流が悪いサインといえる冷えやむくみがある人こそ、ふくらはぎの筋肉を鍛えることが大切です。
ふくらはぎの筋肉を鍛える方法としておすすめしたいのが、ウォーキングや水泳、ジョギング、サイクリングなどの有酸素運動です。負荷の強さは〝会話はできるものの、息が切れる程度〟が理想的で、私は「ニコニコ運動」と呼んでいます。運動時間は、脂肪が燃える20~30分程度が望ましいものの、無理のない範囲で行いましょう。
運動が苦手という方は、上に紹介している「1分かかと上げ下げ運動」に取り組んでみてください。短時間でふくらはぎを効率的に鍛えることができます。家事の最中や通勤の途中などで〝ながら運動〟として取り組むのもいいでしょう。
かかとを上げる時だけでなく、下ろす時も体重をかけながら戻すように意識しましょう。背すじをまっすぐ伸ばし、ひざを曲げないようにすることもポイントです。回数の上限はありませんが、1分間に30回を1セットとして無理のない範囲で取り組むようにしましょう。
近年の研究によって、ヒハツやシナモンといったスパイスや、ルイボスティーに血管を構成する細胞どうしの接着力を強化する働きのあることが明らかになっています。手軽に摂取できるという利点がある一方、過剰摂取には副作用が伴うおそれがあります。それぞれ一日0.6㌘、小さじ半分程度にとどめるようにしましょう。妊娠中の方は、シナモンとヒハツの摂取を避けてください。
全身の血流の改善が、毛細血管の健康維持、ひいては腎機能の維持につながります。まずは食事制限を含めた治療に取り組みながら、運動も実践することで腎臓の健康維持に努めましょう。