アスリートゴリラ鍼灸接骨院院長 高林 孝光
ひざ関節の痛みには伸ばすストレッチと鍛えるトレーニングの2つのアプローチが適切
私が院長を務めるアスリートゴリラ鍼灸接骨院は、その名のとおり、プロのスポーツ選手やアマチュアスポーツの学生さんなど、競技のジャンルを問わず、日本のスポーツ界を代表するアスリートの皆さんが多く来院されています。
柔道整復師と鍼灸師の国家資格を持つ私の専門は「痛みを取ること」です。ケガなどによって痛みを抱えたアスリートの方が整形外科などの西洋医学で治療を受けても治癒が見られなかったものの、私のもとで治療を受けることで復帰できたり好成績を残せたりするようになった例は少なくありません。
アスリートを含め、西洋医学でさじを投げられた患者さんが私のもとを訪れた際、整形外科や痛みを抑える麻酔科(ペインクリニック)の医師と同じ治療をしては整復師としての存在意義がありません。私は西洋医学の常識を疑いながら、体のしくみを正すことを考えた高林式メソッドを考案し、『健康365』を含むさまざまなメディアで発表しています。
西洋医学の常識を疑うという意味でいえば、今回のテーマである変形性ひざ関節症の痛みは「加齢によってすり減ったひざ軟骨どうしがぶつかって起こる」と思っている人が多いのではないでしょうか。実際に、変形性ひざ関節症の痛みを引き起こしているのは、関節軟骨が削られることで生じる「摩耗粉」です。軟骨のカスといってもいい摩耗紛が生じると、ひざ全体を包んでいる関節包の内側にある滑膜を刺激します。刺激を起こした摩耗粉を異物ととらえた私たちの体は、排除するための免疫反応として炎症性サイトカインを発生させてほかの細胞に知らせるのです。ひざを動かした時に「キュッキュッ」「ギュッギュッ」と音がしたら、摩耗紛によって炎症が起こっていると疑いましょう。
変形性ひざ関節症の痛みを和らげるには、「伸ばす」「鍛える」という二つのアプローチが大切です。ストレッチによって硬くなった筋肉をほぐし、続けて筋力強化を図って鍛えることで、ひざ周辺が安定するようになるのです。
●ひざを伸ばすストレッチ
ひざ周辺の筋肉は、ひざが伸びている時にしか働きません。そのため、高齢者や変形性ひざ関節症の患者さんに見られる「ひざを曲げたままの姿勢」を取りつづけていると、筋肉や靭帯がどんどん衰えていきます。その結果、ひざ関節が不安定になり、軟骨のすり減りに拍車がかかってしまうのです。
ひざ痛の改善には「ひざを伸ばす」ことが不可欠です。ひざが痛いからといって安静にしていてはいけません。私には「ひざ関節症の多くは手術不要。最良の治療は保存療法」という持論がありますが、保存療法とは動かずに安静にすることではなく、運動療法という名の保存療法と考えてください。
ストレッチには、硬くなった下半身の筋肉を伸ばし、ひざ関節の周辺を動かしやすくする効果があります。ひざ関節の痛みを和らげるために伸ばしてほぐすべき部位は複数ありますが、今回ご紹介するのは「膝蓋下脂肪体」という組織です。膝蓋下脂肪体を分かりやすくいうと、ひざのお皿の下にある柔らかい脂肪の塊です。ひざのお皿は専門的には「膝蓋骨」と呼ばれ、ひざの曲げ伸ばしをスムーズに行ううえで欠かせない骨の1つです。アスリートが疾走する際、体重の10倍の負荷がひざにかかります。膝蓋骨はその負荷を4分の1に減らす、ひざの動きのポイントとなる骨といえます。
膝蓋下脂肪体は、ひざを曲げ伸ばしする際、ひざ関節の動きに合わせて形状を変え、ひざ関節への衝撃を和らげる役割を果たしています。膝蓋下脂肪体は、脂肪の塊でありながら、細い血管や神経も通っています。そのため、痛みを敏感に感じやすい組織でもあるのです。
私は変形性ひざ関節症をはじめ、ひざの痛みに悩まされている人には、膝蓋下脂肪体をほぐす「ひざストレッチ」をすすめています。ひざのお皿を指で持ちながら関節を伸ばすことで、硬くなった膝蓋下脂肪体をほぐしていきます。その結果、柔らかくなった膝蓋下脂肪体の中を通る血管や神経が圧迫から解放され、血流の改善や過敏な神経の反応が和らいでいきます。
●ひざを鍛えるトレーニング
トレーニングは、下半身の筋肉を使ってひざ関節周辺の筋肉を鍛えることで、ひざにかかる負荷を軽減させて痛みを和らげる効果を引き出す目的で行います。
変形性ひざ関節症の痛み対策として鍛えるべき部位は「大腿四頭筋」です。いわゆる太ももの筋肉である大腿四頭筋を鍛える「ひざトレーニング」をすると、太ももの後ろが伸びます。このトレーニングによってひざのお皿周辺の筋肉を鍛えると、お皿が安定するようになります。
ひざストレッチ&トレーニングは、血流がよくなっている入浴後に実践することを推奨します。体が柔らかくなっているので、リラックスしながらできる範囲で始めてみてください。