スキルス胃がんは進行が速く診断も困難で早期発見が難しく情報も極端に少ない
近年の医学の進歩に伴って、胃がんの5年生存率は向上しています。しかし、胃がんの中でも「スキルス胃がん」は別物です。普通の胃がんは増殖中のがん細胞が胃壁に塊を形成して盛り上がるため、内視鏡などで発見しやすいといえます。ところが、スキルス胃がんは砂地に水がしみ込むように、胃壁の中でがん細胞が急速に広がっていきます。最終的には胃壁全体が、がんによって硬くなります。
スキルス胃がんは、胃の組織を採取してもがん細胞が発見されにくいがんです。スキルス胃がんは早期発見が難しいうえに進行が速く、発見されたときには手遅れになっている場合も少なくありません。
患者数が少ないせいか、スキルス胃がんに関する情報はあまり整備されていないのが現状です。関連書籍はほとんどなく、インターネットで検索しても、具体的な治療法に関する情報など、患者さんに役立つものはほとんどないように感じます。みずから納得した治療法を選択することが極めて難しい状況にあるのです。これは、夫と私の実体験でもありました。
私の夫(轟哲也さん・当時51歳)は、2013年1月に内視鏡検査を受け、胃炎と診断されてピロリ菌の除去を行いました。治療後も体調不良が続いたため、11月に精密検査を受けたところ、スキルス胃がんと診断されたのです。
診断後、初めに行った内視鏡検査の映像を先入観なしにほかの医師に見せたところ、スキルス胃がんと指摘されました。医師にとっても、スキルス胃がんは診断が難しいのです。
医師も対応を誤るほど情報が乏しいため、患者さんはどうすればいいのかわからなくなります。ワラをもすがる気持ちになり、効果が実証されていない治療法に走って、死期を早めてしまう患者さんも少なくありません。
スキルス胃がんの現状を打破しようと、私たち夫婦と数人の有志で立ち上げたのが「希望の会」です。
スキルス胃がんを恐れる必要がなくなり希望の会が不要になることが私の夢です
希望の会を設立した当初は、インターネット上で患者さんたちが語り合う情報交換の場でした。同じスキルス胃がんに苦しんでいる方とのやり取りを通じて強く感じたのは、実体験に勝る情報はないということです。
実際に会って話をしたいという声が増え、会員の交流会を開催。患者さんや家族が集まって懇談し、お互いに励まし合うことができるようになりました。私たちの集まりは患者会として成長し、希望の会は2015年3月に東京都からNPO法人として認められました。
NPO法人となって最初に行ったのは、チャリティーイベントなどで資金を集め、『もしかしたらスキルス胃がん~治療開始前に知りたかったこと』という冊子を作ったことです。この冊子は、専門医の先生方からもほめていただきました。スキルス胃がんの治療を開始するうえで必要になる情報を、網羅できていると自負しています。冊子は希望の会のホームページ(https://npokibounokaihp.wixsite.com/kibounokai)から無料でダウンロードすることができます。
希望の会の理事長となった夫は、認知度の低いスキルス胃がんを広く知ってもらうために講演をするようになりました。さらに、2016年のがん対策基本法の改正のさい、スキルス胃がんを含む「難治性がん」という言葉を盛り込むため、複数の国会議員に陳情をくり返しました。奔走する中で、夫は2016年の夏に他界しました。
多くの方の助けがあって、がん対策基本法に「難治性がんの研究促進に配慮する」という言葉が入り、夫の悲願は1つかないました。夫が亡くなった後の希望の会は、私が理事長を引き継ぎました。参加した患者さんは300人を超え、スキルス胃がんに関する勉強会を開くほか、医師の講演会も企画し、患者さんや家族によるシンポジウムを開催しています。
希望の会の活動は、スキルス胃がんの認知と正しい知識の普及によって救える命を助ける社会を作るために、現在も活発に行っています。いつの日か、スキルス胃がんの存在が一般的になり、研究も進んで恐れる心配のない病気になって、希望の会が自然と必要なくなるのが私の夢です。
スキルス胃がんと孤独に向き合っている方が、世の中にたくさんいると思います。1人で悩まずに、希望の会のホームページをご覧ください。
スキルス胃がんの患者会「希望の会」の連絡先は、https://npokibounokaihp.wixsite.com/kibounokai
Tel 070-5019-1234 npokibounokai@yahoo.co.jpです。