はるみクリニック院長 中山 晴美
神経ブロック療法の二大作用は鎮痛と血流の改善で組織の回復も期待できる
私が専門とする麻酔科はペインクリニックとも呼ばれ、“痛み”を対象とする治療を行っています。慢性的な痛みは、体はもちろん心にも影響を及ぼします。できるだけ副作用のない方法で患者さんの痛みを和らげ、QOL(生活の質)を落とさないようにすることが、私たち麻酔科専門医の役割といえます。
私のクリニックには、さまざまな原因による痛みを抱えた患者さんが来られますが、帯状疱疹もその1つです。水ぼうそうのウイルス(水痘・帯状疱疹ウイルス)が原因で起こる帯状疱疹は、主に体の片側に疱疹や水ぶくれといった皮膚症状が現れ、ピリピリとした痛みも伴います。
帯状疱疹は早期に適切な治療を受ければ治癒できますが、治療が遅れると、皮膚症状が治まった後に神経痛(帯状疱疹後神経痛)が残ることがあります。また、高齢者や免疫力が低下している人は、ウイルスの活動を抑えることができず、後遺症の神経痛が残りやすくなります。
帯状疱疹を発症した患者さんの治療法として挙げられるのが薬物療法です。私のクリニックでは、最初の1週間はウイルスの増殖を抑えるために、抗ウイルス薬を服用していただきます。ただし、抗ウイルス薬の服用は1週間と決まっているため、治療効果が得られなくても1週間以上の服用はできません。
帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛の痛みに対しては、ロキソニンなどの非ステロイド性抗炎症薬のほか、最近ではプレガバリンやミロガバリンといった「神経障害性疼痛」に対する薬が使われます。ただし、これらの薬には副作用の心配があるため、服用できない患者さんには抗うつ薬や弱いオピオイド製剤を使ったり、抗けいれん薬や漢方薬などを用いたりすることもあります。投薬治療は薬の種類によって副作用があるだけでなく、必ずしも即効性が期待できるわけではありません。体調を見ながら医師と相談することが大切です。
後遺症の帯状疱疹後神経痛が残ってしまった患者さんに行われるのが、麻酔薬を使って痛みを感じる神経の経路をブロック(遮断)する「神経ブロック療法」です。神経ブロック療法の特徴は、以下の2つです。
● 血流改善作用
神経ブロック療法は、痛みを感じる神経をマヒさせるだけでなく、患部周辺の血流を改善する作用もあります。慢性的な痛みに悩む患者さんは、自律神経のうちの交感神経が過剰に緊張しています。交感神経の緊張は筋肉の収縮や血流の悪化を招くため、痛み物質が排出されにくくなって痛みの増幅を招きます。
神経ブロック療法には、交感神経の過剰な緊張を緩める作用があります。硬くなっていた筋肉がほぐれて血流がよくなると、全身の細胞に酸素が行き渡るようになり、組織の回復を促すことが期待できます。
● 鎮痛作用
神経ブロック療法の効果には個人差があるものの、多くの患者さんが実感するのが鎮痛作用です。痛みの伝達を遮断して、神経に沿って広がった痛みを防ぐことができます。
痛みの伝達を遮断するといっても、痛みの部位や程度は患者さんによって異なります。また、帯状疱疹は腹部や胸部に現れやすいものの、顔面や頸部、腕、下肢など、発症する場所はさまざまです。そのため、神経ブロック療法は、痛みの部位や範囲によって治療の選択肢が異なります。基本的には、顔や頸部~上肢に現れた帯状疱疹には「星状神経節ブロック」(頸部にある神経節に麻酔薬を注入する治療法)を行い、頸部から下の体幹や下肢には「硬膜外ブロック」(脊髄を包む硬膜の外側に麻酔薬を注入する治療法)を行うことが多くなります。
神経ブロック療法の効果には個人差があります。神経ブロック療法で用いる麻酔薬の持続時間は、理論的には1~3時間ですが、患者さんによっては1週間以上の長期間にわたって効果が続く場合もあります。また、糖尿病などで免疫力が低下して感染症にかかりやすい患者さんは、神経ブロック療法を受けられないこともあります。
帯状疱疹の痛みは急性期の痛みのため、まずは安静とストレスを減らすことが大切です。慢性化した帯状疱疹後神経痛の痛みについても、ストレス対策は欠かせません。精神的なストレスはもちろん、寒さや空腹、疲労、睡眠不足といった身体的なストレスも痛みを増幅させる要因となります。
帯状疱疹後神経痛は、体を温めると緩和することが多いので、患部を冷やさないことも大切です。お風呂にゆっくり浸かったり、温泉やスパ施設などに行ったりするのもいいでしょう。冬の寒い日はカイロを使って患部を温めるのも効果的です。食事面では、過度な糖質の摂取は体を冷やすので注意しましょう。