プレゼント

脳の誤作動が生み出す「6匹のサルの見えない線」

Dr.朝田のブレインエクササイズ!

メモリークリニックお茶の水理事長 朝田 隆

私たちの脳はとても高度な機能を持っていますが、一方で怠け者だったりおっちょこちょいだったりする側面もあります。脳の機能が高すぎるせいで、判断ミスや間違いを引き起こすことも少なくないのです。今回は、そんな脳の問題点を突いています。脳の誤作動に惑わされないよう、がんばってみてください。

「カニッツァの三角形」のように脳が起こす視覚の誤作動を使った問題に挑戦

今回のテーマは、脳の勘違いを利用したクイズです。まずは、下のイラストをご覧ください。6匹のサルが描かれていますが、実は一部の線が不足しています。さて、どの線が足りないでしょうか。今回はどれぐらいで見つけられたか、時間も計ってみましょう。

6匹のサル

6匹のサルが描かれています。不足している線はどこでしょうか?

[あさだ・たかし]——筑波大学名誉教授。1982年、東京医科歯科大学医学部卒業。同大学神経科、山梨医科大学精神神経科講師、筑波大学精神神経科学教授などを経て現職。数々の認知症の実態調査に関わった経験をもとに、認知症の前段階からの予防・治療を提案している。著書に『その症状って、本当に認知症?』(法研)など多数。

私たちの脳は、日常生活を円滑に送るためにさまざまな情報を管理しています。特に視覚からの情報は複雑で、奥行きや見えない部分まで含めて認識されるようになっています。

さて、今回のテーマは「脳の判断ミス」を引き起こす錯視です。「目の錯覚」という言葉があるように、錯視というと目で起こっていると考えられがちです。ところが、脳科学の研究が進むにつれて、錯覚の多くは脳で起こっていると考えられるようになりました。今回の問題は、錯視を引き起こすために二つの技術を使っています。

まず正解をお教えしましょう。正面下のサルの両前脚が描かれていないのです。パッと見た時には、中央の「白いサル」の左の前脚と後ろ脚が、まるでこの色つきサルの両前脚のように見えてしまうかもしれません。時間を計ったのは、皆さんに焦ってもらいたかったからです。

脳には実際にはないものを補完して認識する機能が存在します。有名なものとして下に示す「カニッツァの三角形」という錯視図形があります。実際にはない三角形があるかのように見える不思議な図形です。

なぜ、ないはずの線が見えてしまうのでしょうか。錯視の背景には、今まで積み重ねてきた経験があるようです。人間は記憶にある情報、あるいは常識だと思われる知識を判断基準にして「三辺はないけどほんとうはあるはずだ」と思い込み、脳が補ってしまうのです。

今回の問題について考えてみましょう。6匹のサルというイラストが、「サルはこういうもの」というイメージを想起させます。また、図形が複雑で数も多くなっているため、脳の処理機能が情報を簡略化しようとして誤作動が引き起こされやすくなってしまうのです。

カニッツァの三角形の一例

もう一つのしかけが、以前ご紹介した「図と地」の現象です。私たち人間には、白い絵と黒い絵が同時にあった時、どちらかにしか注目できないという特性があります。今回の問題では、多くの人は最初に中央で目立っている白いサルに注目したのではないでしょうか。すると、色のついたサルの細かな点まで注意が行き届きにくくなってしまいます。視線が白いサルから外れた時も、下のサルの両前脚があるかのように脳が補ってしまうのかもしれません。

私は長年にわたって脳についての研究を行ってきました。そんな私でも慌てて探し物をすると、目の前にあるのに視界に入らず、「いつもの場所にない!」とパニックを起こすことがあります。焦っているせいか、決めつけてしまっているせいか、視界の情報を正確に脳が制御できていないのでしょう。

脳は、私たちが思っているよりも怠け者でおっちょこちょいです。「焦らない」「決めつけない」と意識すると、脳の間違いが減るのではないでしょうか。

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