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デジタル時代に不可欠!傷つきやすい目の「角膜」をセルフケアで守りましょう

眼科

杏林大学医学部眼科学教授 山田 昌和
伊藤医院眼科副院長 有田 玲子

目の表面にある「角膜」は、外からの刺激で傷つきやすい

※写真は有田玲子先生。
[やまだ・まさかず]——1986年、慶應義塾大学医学部眼科研修医・専修医。米国デューク大学アイセンター研究員、慶應義塾大学医学部眼科助手、同大学専任講師、国立病院機構東京医療センター感覚器センター部長を経て、2013年から現職。医学博士。ドライアイなどの角膜疾患を対象に、涙液や角膜試料の生化学的分析のほか、疾患や病態の探索が専門。日本角膜学会理事長、日本コンタクトレンズ学会理事、日本眼科学会認定眼科専門医・指導医。
[ありた・れいこ]——1994年、京都府立医科大学卒業。大阪大学細胞生体工学センター(染色体機能構造分野)、京都府立医科大学大学院博士課程修了。慶應義塾大学眼科助手を経て、2005年から現職。医学博士。ドライアイの中でも「あぶらの専門家」として、各メディアでも活動。油不足によるドライアイ関連の論文を70本以上執筆。YouTubeチャンネル『眼科医 有田玲子先生のドライアイ診察室』も好評。日本角膜学会評議員。

世代を問わず、毎日の生活に欠かせないアイテムとなっているのがデジタル関連の機器です(VDT機器)。仕事や勉強時間にパソコンやタブレットを使いながら、プライベートではスマートフォンを使って友人や家族間のコミュニケーションを楽しんでいる人も多いことでしょう。

VDT機器の普及によって生活の便利さや楽しさが増した一方で、深刻になっているのが目の酷使の問題です。パソコンやタブレット、スマートフォンを使う時間が増えている現代社会は、大人のみならず、子どもたちの目にも悪影響を及ぼすおそれがあります。杏林大学医学部眼科学教授の山田昌和先生に、目の酷使による角膜への影響について伺いました。

眼科の専門医として、VDT機器の普及に伴って起こりやすくなる目の健康問題について、多くの方々に知っていただきたいと思っています。中でも、気づかないうちに傷つきやすい「角膜」をケアする大切さを提唱しています。近年では、VDT機器の普及に伴い、大人のみならず、子どもたちの角膜に関する健康問題が深刻になりつつあります。そこで、「現代人の角膜ケア研究室」を情報発信母体とし、専門家としての視点で角膜ケアに関する啓発活動を始めています。私たちの体で角膜がどのような働きをしているのかを分かりやすく解説しながら、角膜に起こりやすい健康リスクについて解説します。

まずは、角膜の構造と役割について触れます。角膜をひと言でいうと、「目の表面にある透明の膜」です。厚さが0.5㍉前後の小さな組織である角膜は、カメラでいえばレンズのフィルターに例えられます。さらに、眼球に沿ってカーブしていることから、目のレンズの役割も果たしています。

私たちがものを見る際は、外から入ってきた情報が、まずは角膜を通じて目の中へと導かれます。角膜から入った情報は、同じくレンズの役目を持つ水晶体を通り、網膜の上に光が集まることで初めて像を結ぶのです。

つまり角膜は、私たちがものを見る際に、目の組織として最初に情報が入る器官といえます。そのため、角膜は情報を透過しやすくするために、限りなく透明の組織となっています。血管は通っておらず、角膜を保護するために他の細胞が表面を覆っていることもありません。唯一、角膜を守っているのは、角膜の上で膜を張っている涙の層です。

外部に対して、いわば「むき出し」になっている角膜は、外からの刺激に対して傷つきやすい器官といえます。角膜は層になって構成されていて、最も外側の角膜上皮は5層からなる、わずか0.05㍉の組織です。外部からの刺激を受けやすく、剥がれやすいものの、高い自己修復力を持っています。角膜の上に膜を張っている涙の層は、角膜を保護するために重要な役割を果たしています。涙は目を潤すだけでなく、目の細胞に栄養を届けたり、細菌や異物を排除したりする働きがあります。さらに、涙が目の表面を均一に覆うことで、レンズとなる角膜が正確に像をとらえられるようになるのです。

角膜を守るには適切な涙の量が必要でドライアイに注意

角膜を守るうえで大きな問題となるのが、ドライアイです。多くの方がご存じのように、ドライアイはさまざまな原因によって涙の分泌量が減少したり、涙の質が低下したりすることで、本来の涙が担っている役割を果たせなくなる症状です。日本眼科医会が行った調査によると、ドライアイの患者数は、約2200万人にも上ります。これは、日本人の6人に1人の割合でドライアイが起こっていることになります。ドライアイは、まさに国民病といっても過言ではありません。さらに、ドライアイの治療を受けていない人も含めると、実際の人数はさらに多くなると推測されます。学術団体のドライアイ研究会が、2011年に働き盛り世代の男女を対象に行った「大阪スタディ」によると、男性は60%、女性は76%もの人が、ドライアイもしくはドライアイの疑いがあることが分かっています。同じく山田昌和先生に、VDT機器の利用がなぜドライアイを引き起こし、角膜の傷リスクを高めるのかを解説いただきました。

ドライアイを招く原因には、室内の空調に伴う空気の乾燥やコンタクトレンズの使用など、さまざまな理由が挙げられます。そのほか、パソコンやタブレット、スマートフォンといったVDT機器の過度な使用も、ドライアイを引き起こす原因となります。

一般的に、私たちがパソコンを使っている時は、瞬きをする回数が通常時の4分の1程度まで減るといわれています。涙はまばたきによって角膜に補充されるため、VDT機器を使っている時は、涙が蒸発しやすくなります。さらに、長時間にわたってVDT機器を使うと、涙の分泌量そのものが減少するともいわれています。空調が整った室内でコンタクトレンズを装用しながらパソコンで仕事や勉強をする機会が多い人は、ドライアイを引き起こして角膜が傷つきやすい環境で過ごしているといえるでしょう。

VDT機器を利用する際には、まばたきを意識的に行って角膜に涙を補給したり、エアコンの送風による角膜の乾燥を防いだりすることが大切です。また、ディスプレイから受ける目の負担を軽減するために、VDT機器を適切に使うことを心がけましょう。

子ども・大人の約4人に1人が「角膜の傷」のリスクを抱えている

次に、伊藤医院眼科副院長の有田玲子先生に、最近実施された「親子の目の酷使・実態調査」(有田玲子先生監修)により明らかになった「角膜の傷」リスクへのケア方法について伺いました。

実際に、私たちは日常生活でどのくらい目を酷使しているのでしょうか。私たちが2022年7月に行った調査結果をご紹介しましょう。

「親子の目の酷使・実態調査」と題したこの調査の対象者は、小学校高学年(5~6年)のお子さんを持つ、30~50代の親御さん500人です。調査の結果、82%の子どもが、学習でパソコンやタブレットなどのVDT機器を使用していました。使用時間は、大人が平均5時間、子どもが平均2.5時間です。そして、大人の74%、子どもの36%が日常的に目の疲れを感じていることが分かりました。また、この調査では大人500人と子ども500人それぞれに「まばたきテスト」 を実施してもらいました。このテストでは、まばたきをせずに目を開けていられる秒数を計測し、10秒以下で目を閉じた人はドライアイの可能性が高く、角膜に傷がつくリスクも高くなります。結果は、大人も子どもも約4人に1人は目が乾きやすく、どちらの世代でも角膜に傷がつくリスクが高いことが分かりました。先に挙げたように、ドライアイは角膜が傷つきやすくなる原因の1つです。VDT機器を使う生活によって、大人はもちろん、子どもたちも角膜が傷つきやすい状態で過ごしていることが判明したのです。

角膜にとって厳しい環境といえる現代のデジタル社会ですが、毎日の生活に定着したVDT機器を手放すのは難しいものです。有田先生におすすめの角膜ケア法を教えていただきました。

角膜を守るために、①角膜上皮細胞そのものの増殖力を高めて傷の修復力を高める。②角膜が乾かないようにして、角膜上皮細胞の欠損を防ぐ。といった、「攻めと守り」の2つのアプローチが必要です。角膜を守るための具体的な方法として、以下の「角膜セルフケア」をおすすめします。

●目を温める
電子レンジを使って適温のおしぼりを作り、ポリ袋に入れて直接触れないように工夫しながら、目の周辺を温めましょう。血流が改善されるだけでなく、涙の蒸発を防ぐ油層が適切に作られます。

●点眼薬の使用
適切な治療薬(点眼薬)の使用は、角膜を守るうえで効果的です。点眼薬は、角膜修復機能があるビタミンAを含む、防腐剤無添加の製品を選びましょう。

なお、基本的に点眼薬は1回につき1滴の点眼で十分です。点眼のしすぎにしましょう。

●まばたきエクササイズ
涙を適切に出して角膜の乾燥を防ぐ目的で行います。ポイントは、意識してまばたきをすることです。5回を1セットとして、1時間ごとに実践してみましょう。毎日の決まった時間帯に行うなど、習慣づけることが大切です。まばたきエクササイズの方法は、下の動画やイラストを参考にしてください。

目の健康は視覚のみならず、全身の健康状態を保つうえで欠かせないものです。目の疲れや不調が長引くと、頭痛や肩こり、ストレス、不眠の原因になることもあります。先に挙げた角膜のセルフケアをはじめ、専門医のもとで定期的に検査を受けながら、大切な角膜を守りましょう。

※「まばたきテスト」は、目を開けた状態から時間を計測し、次にまばたきするまでの時間を確認するテスト。10秒以下で目を閉じた場合、涙が蒸発しやすくドライアイの可能性が疑われる。