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頻尿は腎臓病・糖尿病・脳血管障害や睡眠時無呼吸の疑いもあり!

泌尿器科

木村泌尿器皮膚科院長 木村 明

1日8回以上の排尿は頻尿と診断され循環器の能力や筋力の低下が大きく影響

[きむら・あきら]——1953年生まれ。医学博士。1978年、東京大学医学部卒業後、東芝中央病院泌尿器科医長、東京大学医学部泌尿器科学教室講師、東京都職員共済組合青山病院泌尿器科医長、東京共済病院泌尿器科部長などを経て、2005年より現職。日本泌尿器科学会専門医、日本超音波医学会認定超音波専門医・指導医、横浜市身体障害者福祉法指定医。

「最近、トイレに行く回数が増えた」「尿の勢いが弱い」「トイレに行った後に尿もれがある」「急にトイレに行きたくなる」といった症状に心当たりはありませんか? 私は泌尿器(ひ にょう き)専門医として多くの患者さんを診察してきましたが、これらの排尿トラブルの症状があっても治療を受けずに放置している方が少なくないと感じています。

排尿トラブルを抱える人にとって問題になるのが、移動時に生じる尿意です。自宅ではすぐにトイレに駆け込めますが、バスや電車内では用を足すことができません。私のクリニックを受診される患者さんの中にも、「定年退職後に旅行を楽しむようになったものの、バスや電車の移動中に尿意をもよおすのではないかと心配になる」という方が多くいらっしゃいます。

私が所属する日本泌尿器科学会では、頻尿の定義を「朝起きてから就寝するまでの排尿回数が8回以上」としています。(ぼう)(こう)にためられる尿の容量は一般的に300~500㍉㍑で、200㍉㍑を超えると尿意をもよおしやすくなります。個人差はありますが、1日の排尿量は平均1500㍉㍑前後。1回の尿量が200㍉㍑とすると、8回排尿すれば1日の平均尿量を超えることから、頻尿の基準を8回以上と定めています。ただし、これは絶対的な基準ではありません。頻尿を判断するうえで重要なのは、過去の排尿習慣と比べた変化の度合いなので、患者さんごとに異なると考えています。

例えば、若い頃に1日に8回排尿していた人が年を取り、排尿回数が9回になっても、自分が頻尿とは感じないでしょう。その一方で、日中に4回ほどの排尿回数だった人が6~7回と増え、さらに夜にも2~3回と尿意をもよおすようになれば違和感を覚えるはずです。つまり、頻尿を診断するうえで大切なのは、患者さん本人が排尿について困っているかどうかなのです。

頻尿の原因はさまざまですが、第一に挙げられるのが加齢による身体機能の低下です。人間は加齢に伴って、血液を全身に届ける心臓などの循環器機能が低下します。下半身の筋力も落ちるため、血液を循環させる筋肉のポンプ作用が働きづらくなり、体内の水分が重力によって下半身にたまりやすくなってしまいます。

下半身にたまった水分は、就寝時に体を横にすると上半身に移動して血管や心臓に戻ります。すると、夜間の尿量を制御している利尿ホルモンの(ぶん)(ぴつ)が誘発されて尿意をもよおすようになります。その結果、夜間の尿量が増えてトイレの回数が多くなってしまうのです。

頻尿を招く原因は、加齢だけではありません。原因となる代表的な病気として、多くの女性が発症する細菌性の膀胱炎をはじめ、過活動膀胱や(かん)(しつ)性膀胱炎、男性特有の(ぜん)(りつ)(せん)()(だい)などが挙げられます。

一般的な膀胱炎は、細菌やウイルスが感染することで起こります。特に多いのは、細菌性の急性膀胱炎です。「女性は一生に一度は経験する」といわれるほどかかりやすい病気で、肛門(こうもん)の周辺に存在する大腸菌などの細菌が尿道を経由して膀胱に入ることで起こります。

女性が細菌性の急性膀胱炎にかかりやすいのは、男性と比べて肛門と尿道の距離が短いからです。急性の膀胱炎には抗菌薬の服用が有効です。多くの患者さんは、適切な治療を受けることで痛みや頻尿、残尿感などの症状が3日ほどで解消もしくは軽快します。

また、細菌性の急性膀胱炎以外で女性に多いのが「間質性膀胱炎」です。原因不明で起こる間質性膀胱炎の大きな特徴は、尿がたまると痛みが起こり、ほかの泌尿器の病気に比べて診断が容易ではない点です。

間質性膀胱炎は、2006年に診療ガイドラインが定められてから、医師の間での認知度が高まりました。さらに先端的な情報が加えられ、ガイドラインは2019年の3月に改訂されています。間質性膀胱炎は男性に比べて女性が五倍ほどかかりやすいといわれています。

男性の頻尿の原因として最も多いのが、前立腺肥大です。前立腺とは、男性の膀胱の下にあるクリの実ほどの大きさの器官で、中を尿道が通っています。前立腺の機能についてはすべてが解明されているわけではないものの、精液を構成する成分を分泌することが主な働きと考えられています。

男性の頻尿に多い前立腺肥大の病期は3つに分けることができ末期は導尿が必要

前立腺肥大とはその名のとおり、前立腺が大きくなることで起こる排尿障害です。前立腺肥大の病期は大きく「膀胱刺激期」「残尿発生期」「慢性尿閉期」の3つに分けることができます。

膀胱刺激期(第一期)
前立腺の肥大に伴って、尿道が圧迫されるようになります。膀胱を通常よりも収縮させて排尿するため、残尿はほとんどありません。しかし、尿道や膀胱への刺激や圧迫が起こり、日中の頻尿や夜間頻尿を招く場合が少なくありません。

残尿発生期(第二期)
前立腺が徐々に肥大し、膀胱が疲弊しはじめます。そのため、膀胱の収縮力が低下して十分に排尿することができなくなり、残尿が起こるようになります。頻尿感から何度もトイレに行くものの、残尿感を覚える場合が多くなります。残尿が増加することによって、膀胱炎などの尿路感染症が起こりやすくなるので注意が必要です。

慢性尿閉期(第三期)
前立腺がさらに肥大した結果、膀胱の出口が塞がってしまって尿が出せなくなる尿閉の状態になります。尿閉によって残尿量が急激に増加すると、緊急処置として尿道にカテーテルを入れる(どう)尿(にょう)が必要になることもあります。尿閉の状態が続くと(じん)(ぞう)から尿が流れにくくなり、腎機能が低下するおそれもあります。

前立腺肥大による排尿障害の評価は「国際前立腺肥大症状スコア(IPSS)」で判断でき、質問項目は7つあります。質問項目を大別すると「蓄尿障害」「排尿障害」「排尿後障害」の3つに分けられます。

前立腺肥大が起こる正確な理由は明らかになっていません。しかし、前立腺は加齢に伴って自然に大きくなりやすいことが分かっています。加齢に加えて、遺伝や肥満、高血圧、高血糖、男性ホルモンの分泌量の減少などの要因が重なることで起こると考えられています。

前立腺肥大の患者さんには高齢の方が多く、50代を超えると発症しやすくなるといわれています。厚生労働省が2011年に行った患者調査では、患者数が41万8000人と推計されています。

頻尿の原因となる疾患として、過活動膀胱も患者数が増えています。頻尿のほか、尿もれや尿意切迫感が主症状です。過活動膀胱は、主に脳や(せき)(ずい)などに問題が生じて起こる神経性と、骨盤底筋の筋力減少などによって起こる非神経性に分けられます。過活動膀胱は原因によって治療法が異なるため、専門医に相談するようにしましょう。

泌尿器に起こる病気のほかにも、頻尿の原因として水分の過剰摂取や糖尿病、利尿剤の服用によっても起こる場合もあるため注意が必要です。かつて、テレビ番組が発信していた健康情報の中に「水をたくさん飲むと血液がサラサラになる」「(のう)(こう)(そく)を予防できる」というものがありました。現在、水を多く飲むことによる循環器疾患の予防効果は、医学的に否定されています。頻尿が気になるという人は水分摂取量を見直すといいでしょう。

糖尿病・慢性腎臓病・睡眠時無呼吸症候群も頻尿を招く原因で体からの危険サイン

頻尿が起こる原因になる病気としては、糖尿病、慢性腎臓病、脳血管障害(脳卒中)、睡眠時無呼吸症候群(SAS)もあります。

糖尿病になると高血糖のためにのどが渇きやすくなり、水分を多くとりすぎるようになります。また、糖尿病が進行すると排尿をコントロールする(まっ)(しょう)神経に障害が起こり、排尿筋の活動が低下して頻尿になることもあります。

慢性腎臓病は、腎機能が低下している状態のことをいいます。腎機能が低下すると、血液中の物質を尿へ排泄(はい せつ)して必要な水分を血中に戻す働きである尿濃縮能が弱くなります。尿濃縮能は年齢とともに低下しやすいため、頻尿を招きやすくなるのです。

さらに、腎臓は血液中のナトリウム量を調節する重要な働きがあります。腎臓の機能が低下すると、摂取したナトリウムを日中に排泄しきれず、体内にナトリウムが貯留します。その結果、体は夜に血圧を高くして、夜間にナトリウムを排泄しようとするため、夜間多尿の原因となります。

脳血管障害は、血管の老化である動脈硬化が進行することで起こります。動脈硬化が進んで脳の血管が詰まる脳梗塞(こう そく)や脳の血管が破れる脳出血、脳血管の一部が破裂するクモ膜下出血で起こる神経因性膀胱も、頻尿を引き起こす原因です。

膀胱・尿道の機能、すなわち蓄尿と排尿は、脳から末梢神経までの神経の働きによってコントロールされています。そのため、脳血管障害によって脳神経に異常が起こると、膀胱・尿道の機能に影響が現れて頻尿を招くのです。

睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間に無呼吸状態(呼吸が止まっている状態)が繰り返される病気です。医学的には10秒以上の呼吸停止状態を「無呼吸」と定義し、無呼吸が1時間当たり5回以上、または一晩(7時間の睡眠中)に30回以上あれば、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。

睡眠時無呼吸症候群では気道が舌根で塞がれているため、肺に空気が入らずに胸腔内が陰圧になると心臓が外側に強く引っ張られるようになります。その結果、心臓に下半身からの血液が多く吸い込まれることで利尿ホルモンが分泌され、夜間多尿になるのです。

頻尿に悩まされている人は、日常的に服用している薬にも目を向けてみましょう。高血圧の治療薬として服用する利尿剤は尿量を増やす効能があるため、頻尿が起こりやすくなります。しかし、頻尿が起こったとしても、薬の種類によっては血圧の降下を優先して服用すべきものもあります。薬の選択や優先順位については主治医に相談するようにしてください。

加齢によって起こる老化現象は避けがたいものですが、頻尿の原因を老化現象と決めつけて放置していると、生活の質を大きく損ねたり、背景にある重大な疾患を見逃してしまったりします。頻尿の原因はさまざまで治療法もそれぞれ異なります。明らかに尿の回数が増えたと思ったときは、早めに医療機関を受診するようにしましょう。