中部大学教授、愛知医科大学客員教授 佐藤 純
耳鳴りやめまい、頭痛の原因が〝天気痛〟の場合もあり慢性痛で悩む人の4人に1人が該当
天気がくずれる時に、耳鳴りやめまい、頭痛などの症状が悪化するという経験はありませんか。特に、夏から秋にかけて迎える台風の季節に症状が悪化する場合は、〝天気痛〟であることが少なくありません。天気痛は、気象の影響を受ける〝気象病〟の1つで、天気の悪化によって生じる体調不良のことです。天気痛の代表的な症状には、耳鳴りやめまい、関節痛・頭痛などの慢性痛、気分の落ち込みがあり、天気と自分の体の関係を把握することが緩和の第一歩となります。
私たちの研究グループが調べたところ、慢性痛に悩まされている人の4人に1人が天気痛になっていることが分かりました。日本の人口に換算すると、なんと1000万人以上の人が天気痛に悩まされていることになるのです。
では、どのようにして天気痛は起こるのでしょうか。天気痛を引き起こす要因には、主に「気圧」と「気温」の2つがあります。
ラットを使った実験で気圧を下げて低気圧の状態にしたところ、血圧と心拍数が上昇することが分かりました。血圧と心拍数の上昇は、自律神経(意思とは無関係に内臓や血管の働きを支配する神経)の交感神経(心身の状態を活発にする神経)の働きが活発化したことを示しています。
自律神経は外部環境の変化に対応しながら、交感神経と副交感神経(心身の状態を休息させる神経)がバランスを取り合っています。ところが、気圧や気温の変化などのストレスにさらされると、交感神経が優位になります。交感神経は心拍数を上げたり、筋肉を硬直させたり、血管を収縮させたりして緊張状態をもたらします。
天気痛の原因は、気圧や気温の変化などのストレスで優位になった交感神経が知覚神経や痛みのネットワークを興奮させてしまうことだと考えられます。その結果、耳鳴りやめまい、古傷の痛み、頭痛などの不快な天気痛の症状が悪化してしまうのです。
さらに研究を進めたところ、気温の変化による天気痛は肌が感じる刺激で引き起こされるのに対し、気圧の変化による天気痛は耳のいちばん奥にある内耳がセンサーとなって引き起こされることが分かりました。台風や梅雨などで低気圧が来ると内耳のリンパ液に変化が生じ、内耳が敏感な人ほど天気痛は起こりやすくなります。
天気痛外来で指導している「特効ツボ刺激」で耳鳴りやめまいなどの天気痛の症状が改善
私は、耳鳴りやめまいなど、気圧や気温の変化で悪化する天気痛の症状を治療するため、愛知医科大学病院疼痛緩和外科・いたみセンターで気象病外来・天気痛外来を開設しました。日本初となる気象病外来・天気痛外来では、治療の一環として、自律神経を整える方法を指導しています。その1つが、自宅でも簡単にできる「特効ツボ刺激」です。
今回は、耳鳴りやめまい、頭痛の改善が期待できる、代表的な特効ツボをご紹介します。特効ツボを刺激する時は、親指や人さし指などの指の腹で気持ちいいと感じる程度の強さで押しましょう。ずっと押しつづけると体が刺激に慣れてしまうため、家事や仕事の合間にこまめに押すようにしてください。
特効ツボ刺激は、疲れない程度にリラックスして行うのが基本です。刺激する回数の目安としては1ヵ所を3〜5秒かけて5回程度、朝・昼・晩など1日に何度かに分けて行うといいでしょう。私がおすすめしている時間帯は就寝前です。寝ている間に気圧や気温が変動した場合でも、天気痛の予防になるからです。また、特効ツボには左右差があるため、特に痛みや重だるさを感じるほうを主に刺激しましょう。
また、私とウェザーニュースが共同開発した「天気痛予報®」で発症リスクを事前に把握することも大切です。「天気痛予報®」では、気圧変化のズレに着目し、微小な気圧変化パターンを独自に数値化しています。7日先までの天気痛の発症リスクを予報しているため、天気痛への心構えや対策に役立ちます。
繰り返し起こる耳鳴りやめまい、頭痛などの症状の背景には天気痛が潜んでいるかもしれません。これまで原因が分からなかった耳鳴りやめまい、頭痛などの症状でお困りの人は、特効ツボ刺激を実践するといいでしょう。特効ツボ刺激を実践すれば、耳鳴りやめまい、頭痛などの天気痛の予防・改善は十分に期待できます。一人でも多くの人が天気痛の苦しみから解放され、心地よい生活を送れるようになることを願っています。