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帯状疱疹後神経痛を含む帯状疱疹関連痛は完治が難しく薬物・神経ブロック注射が選択肢

皮膚科

 順天堂大学医学部麻酔科学・ペインクリニック講座教授 井関 雅子

帯状疱疹関連痛は急性期と慢性期で疼痛の種類が異なり治療法も要変更

[いせき・まさこ]——1984年、近畿大学医学部卒業後、京都大学附属病院医員、東京女子医科大学附属病院麻酔科助手、順天堂大学医学部麻酔科学講座助手、同大学麻酔科学・ペインクリニック講座講師・助教授・臨床教授などを経て、2013年より現職。日本麻酔科学会指導医、日本専門医機構麻酔科専門医、日本ペインクリニック学会専門医、日本頭痛学会指導医・専門医。

帯状疱疹関連痛(ZAP)は、皮疹発症前に生じる痛み(前駆痛または先行痛)や帯状疱疹の急性期の痛み(帯状疱疹痛)、慢性期の神経痛(帯状疱疹後神経痛)を合わせたものです。その中で、高齢者において最も問題となるのは、帯状疱疹後神経痛です。

帯状疱疹関連痛は、時間の経過とともに病態・症状が変化します。帯状疱疹の急性期には皮膚組織の炎症を伴った「侵害受容性疼痛」、その後に「神経障害性疼痛」が出現します。この移行期には両方の痛みが混在することもあります。

侵害受容性疼痛は、ウイルス感染や炎症などによって健常な組織が傷害されることに伴う痛みであり、帯状疱疹の発症を知らせるサインととらえられます。それに対して、神経障害性疼痛は、急性期の炎症に起因した末梢あるいは中枢神経系の機能異常による病的な痛みで、痛みそのものが病気であるといえます。

帯状疱疹に罹患した症例のうち、80歳以上では30%、60~65歳では20%が帯状疱疹後神経痛を発症すると報告されています。帯状疱疹後神経痛への移行の主な危険因子には、次の5点が挙げられます。

高齢
疾患や薬剤による免疫抑制状態
前駆痛(先行痛)の存在
強い急性期痛
重症皮疹

帯状疱疹関連痛では病態の異なる二つの痛みが存在し、時間の経過とともに変化することが大きな特徴です。急性期の帯状疱疹痛と慢性期の帯状疱疹後神経痛とでは痛みのメカニズムが異なるため、発症からの期間を考慮した治療を受ける必要があります。

急性期の帯状疱疹痛

前駆痛や帯状疱疹痛などの急性期の痛みには、その性質が主に侵害受容性疼痛であることから、多くの場合で非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンが処方されます。ただし、高齢者に対するNSAIDsの長期使用は、胃腸障害や腎障害、心血管系の合併症などが危惧されるため、安全性を考慮するとアセトアミノフェンの使用が推奨されます。

一部の症例では、急性期の時点で薬物抵抗性の痛みや電気が走るような痛み、しびれるような痛みが認められる場合があります。そのような場合は、神経障害性疼痛への移行が生じていると考え、より早期に帯状疱疹後神経痛の薬物療法を開始し、神経ブロック療法などを含めた痛みの治療を積極的に行うことが大切です。また、強い痛みは日常生活に大きな支障をきたすため、速やかに痛みを軽減することも重要です。

慢性期の帯状疱疹後神経痛

慢性期の神経障害性疼痛は、痛みの重症度が高く、睡眠障害や活力の低下、抑うつなど、さまざまな併存症を伴うため、生活の質(QOL)に大きく影響します。そのため、痛みだけではなく、生活の質の改善にも着目して治療する必要があります。

第一選択薬は、複数の神経障害性疼痛疾患に対して有効性が確認されているCa2+チャネルα2δリガンドのプレガバリン(商品名・リリカ)やガバペンチン(商品名・ガバペン)、三環系抗うつ薬であるアミトリプチリン(商品名・トリプタノール)、ノルトリプチリン(商品名・ノリトレン)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)であるデュロキセチン(商品名・サインバルタ)などです。

第二選択薬は、一つの神経障害性疼痛疾患に対して有効性が確認されている薬物のワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(商品名・ノイロトロピン)、オピオイド鎮痛薬の一つであるトラマドール(商品名・トラムセット)などです。そして、第三選択薬はトラマドール以外のオピオイド鎮痛薬です。

薬を服用するうえで注目すべき点は「治療必要数」と「害必要数」の二点

薬を服用するうえで注目すべきことは二つあります。一つ目は、薬でも効果を得られる可能性は100%ではないということです。薬には治療必要数(NNT)といわれる考え方があり、望ましい治療効果の患者を一人得るために必要な人数のことを指します。例えば、NNTが「三」の場合は、三人に一人しか望ましい治療効果を得られないということです。

二つ目は、薬による有害作用が起こりやすいことです。薬には害必要数(NNH)という考え方があり、有害作用の確認に必要な患者数のことをいいます。例えば、NNHが「16」の場合は、16人に1人の割合で有害作用が起こるということです。

最新の医学でも、痛みを完治させることは困難を極めます。そのため、帯状疱疹関連痛で悩んでいる患者さんに伝えたいのは、痛みとうまく付き合う方法を見つけてほしいということです。痛みに悩まされて日々の生活を楽しめなくなると、外出が減って引きこもりになる人も少なくありません。

現在の治療で痛みが治まらない場合は、一度ペインクリニックを受診することをおすすめします。ペインクリニックには麻酔科医がいて、薬の作用機序に精通しているため、百人百様の痛みに合った処置ができます。患者さんの全身状態を確認しながら薬やブロック注射、リドカインクリーム(局所麻酔薬)などの治療を行い、痛みとうまく付き合う方法を一緒に見つけることで、生活の質の向上が期待できます。