365調査隊
熱中症対策のために推奨されている塩分補給。汗をかいて失われた塩分を補給したほうがいいと思いがちですが、果たしてどうなのでしょうか……。塩分補給に関するウソ・ホントについて、調査隊が真相に迫ります。
過剰摂取になるため塩分の補給は不要
いくらか残暑が落ち着いてきたとはいえ、それでもまだまだ汗を拭うハンカチが手放せません。それとあわせて忘れてはいけないのが塩分補給。大量の汗をかいた時は、特に水分だけではなく塩分もしっかりと補わなければ、人の体は熱中症などで健康を維持できないとよくいわれます。
でも、いったいどの程度の量を補給するのが適切なのでしょうか? もともと塩分を過剰摂取しがちな人は、汗で塩分を放出したほうがかえって健康的な気がするのですが……。東京農業大学名誉教授の田中越郎先生に聞いてみました。
「体の中の液体(体液)は、総量も濃度も一定に保たれています。そのため、体液から水分や塩分が失われたら補給する必要があります。しかし、水分が主に減っているところに塩分を入れると、塩分の過剰摂取になってしまうので注意が必要です」
田中先生によれば、人の汗の塩分濃度はおよそ0.3%程度。つまり、1㍑の汗のうち塩分は3㌘に相当します。
それに対して、日本人男性の1日の平均塩分摂取量は約11㌘。一般的に推奨される摂取量の6㌘未満に対して、毎日約5㌘も過剰摂取が続いていることになります。
「つまり、もし1㍑の汗(塩分3㌘)を出しても、まだ体内では2㌘ほど塩分を過剰摂取している状態になっているわけです。そのため、あえて食塩を補給する必要はないといえます」
現実問題として、実際に1㍑もの汗をかくことはなかなかないでしょう。空調の効いた室内での運動や日常生活の範囲であれば、失われた水分を補給するだけで十分なのです。
逆に、激しい運動を行うなど、明らかに大量の発汗を伴う時は、スポーツ飲料などで効率的に水分や塩分、そのほかの栄養分を補うのがおすすめです。
「経口補水液は本来、病気で口から水や食事を十分に摂取できない人に向けたもの。要するに病人用で、スポーツ飲料よりも塩分が濃いめに作られています。口から早めにちゃんと水分補給ができる人は、スポーツ飲料のほうが適しています」
また、発汗によって塩分が不足すると、足がつるなどの症状が起こりやすくなりますが、実際には「塩分不足だけでなくほかの要因も重なっていると思います」と田中先生は話します。軽い運動の場合には、塩分不足の弊害は、あまり気にしすぎないほうがいいのかもしれません。
特に外食の多い生活をしている人は、どうしても塩分をとりすぎてしまうもの。気持ちよく汗をかいて塩分を排出するのは、むしろ体にいいことなのです。