米沢藩主の上杉家が救荒食品として普及
山形県米沢市は、江戸時代から廃藩置県が行われた明治時代まで、上杉氏の城下町として栄えていました。米沢市の特産品の一つ「ウコギ」は、上杉家と縁の深い食品として知られています。
ウコギは中国東北部原産で、ウコギ科ウコギ属の落葉小低木です。ウコギ科の代表的な植物には、生薬の一つとして知られる朝鮮ニンジンがあります。日本には、ヒメウコギ、ヤマウコギ、ケヤマウコギ、エゾウコギなどが生育しています。米沢で栽培されているウコギのほとんどはヒメウコギです。
日本最古の薬草図鑑といえる『本草和名』にも記されているウコギは当時、根の皮が滋養強壮作用のある漢方薬と考えられていたようです。
ウコギが米沢の町に持ち込まれたのは戦国時代のこと。持ち込んだのは、米沢藩の初代藩主・上杉景勝を支えた智将・直江兼続といわれています。ウコギを米沢の特産品まで育て上げたのは、9代藩主の上杉鷹山です。
鷹山は、疲弊していた米沢藩を再生させた、江戸時代屈指の名君です。江戸時代中期に大飢饉が続けて起こったとき、鷹山は救荒食品の栽培を大いに奨励したといいます。救荒食品とは、飢餓や災害、戦に備えて備蓄・利用される食物のこと。救荒食品の一つとして鷹山が奨励したのがウコギです。
鷹山は、救荒食品の利用法を、1783年に記した『飯粮集』と、1802年に記した『かてもの』の2冊にまとめています。『かてもの』には82種の救荒食品が掲載されています。そのうち65種が『飯粮集』と重複していますが、ウコギは『かてもの』に記されていません。2つの書物の刊行時期は20年しか離れていませんが、その間にウコギは紹介する必要もないほど普及したと思われます。
鷹山は、城下にある家々の垣根にウコギを植えることを奨励しました。鋭いトゲを持つウコギは、防犯を兼ねた生け垣としても有用だったのです。米沢で見られるウコギの生け垣は、総延長20㌔にも及びます。ウコギは、米沢で春から夏を彩る野菜として食されています。
ウコギの葉が持つ強力な抗酸化力に注目
米沢で伝統的に食されてきたウコギは、近年になって科学的な分析が行われるようになりました。研究の結果、ウコギの葉は優れた抗酸化作用を有し、コレステロールを低下させる作用や血糖値の上昇を抑制する作用のあることがわかったのです。
ウコギの葉にはポリフェノールやビタミン、ミネラル、食物繊維、アミノ酸などの成分が、多くの野菜よりも豊富に含まれています。ウコギの乾燥葉を緑茶と比べてみると、食物繊維とポリフェノールはほぼ同量で、ビタミンCはより多く含まれていることもわかったのです。
必須ミネラルの一つであるカルシウムはモロヘイヤやダイコンの葉などの1.5倍、ビタミンCは豊富に含まれているといわれるパセリとほぼ同量です。食物繊維にいたっては、ゴボウよりも多いことがわかっています。
最も注目したいのは、ポリフェノールです。ウコギには、ポリフェノールの中でも抗酸化作用の強いクロロゲン酸が豊富に含まれています。優れた抗酸化作用によって、体内に生じた過剰な活性酸素の害を減らすことが期待できます。活性酸素は、酸化力が強い酸素です。体を酸化させて老化の原因になり、さまざまな疾患を引き起こします。
ウコギのポリフェノールが持つ活性酸素の除去作用は、大豆やレタス、シソ、ピーマンなどと比べても抜群に強いことがわかっています。さらに、抗酸化力が強いといわれている、紅茶やレモン汁、緑茶と比べても劣らないことも明らかになりました(「ウコギが持つ抗酸化力」のグラフ参照)。
人間に対する試験でも血糖値抑制作用を実証
ポリフェノールには、抗酸化作用のほかにも、糖質の吸収を抑える働きがあります。さらに、ウコギに含まれる食物繊維は、腸で糖をからめ取って、吸収を緩やかにします。ウコギは糖質の吸収を抑える優秀な食品と考えられるのです。
ウコギのさまざまな機能性成分を研究した山形県立米沢女子短期大学の山田則子名誉教授(医学博士)は、ウコギが持つ血糖値の上昇抑制作用を実験や試験で確かめ、結果を発表されています。
動物実験では、糖尿病を発症させたラットを2つのグループに分け、一方には従来のエサだけ、もう一方には10%のウコギ葉粉末を混ぜたエサを食べさせました。4週間後と8週間後の血液中の血糖値を測定すると、ウコギ葉粉末を与えたグループは、血糖値が明らかに低下していました(「ウコギの血糖値抑制作用(動物実験)」のグラフ参照)。
健康な40人を対象にした試験では、ウコギの乾燥葉のお茶300㍉㍑(ウコギが2%の割合)を、朝・昼・晩の食事とともに飲み、3ヵ月間の経過を測定しました。その結果、食後血糖値の低下や、血液中の中性脂肪の低下が認められました。もちろん、副作用を起こした人は一人もいませんでした。
山田名誉教授は試験の結果を見て、「食後血糖値が低い人にはあまり変化が見られず、食後血糖値が高めの人に大きな変化が見られることは、大変すばらしい結果だ」と述べられています。
ウコギのさまざまな研究が進むなか、2003年には山形県の産官学連携事業の一つとして「うこぎ食品研究会」が組織化されました。現在では「米沢うこぎ振興協議会」が活動を引き継ぎ、大学・県・民間企業が参加し、ウコギの研究が本格的に行われるようになっています。
最近では、ウコギの葉に含まれるポリフェノールや食物繊維を活用した商品の開発も進んでいます。上杉鷹山が米沢に普及させたウコギが、現代になって全国的に注目されるようになっているのです。