内臓脂肪を燃焼させ血糖値を抑えると判明
日本一の面積を誇り、四方を太平洋や日本海、オホーツク海に囲まれている北海道は、農産物や海産物が多く取れることで有名です。農産物では、ジャガイモや小麦、カボチャ、タマネギなどが国内生産量第1位です。海産物では、サケやスケトウダラ、ホッケ、コンブなどが全国生産量の多くを占めています。近年の研究で、栄養が豊富に含まれていると判明したアカモクは北海道の南部に生育しており、機能性食品の原料になっています。
アカモクは、コンブやワカメなどと同じ褐藻類に分類される海藻です。アカモクはホンダワラ科に属し、形が稲穂に似ているため縁起のいい海藻として各地域で親しまれています。例えば、宮城県塩釜市では、塩の神事のさいにアカモクを使ってお供えするための藻塩を作ります。アカモクは食用としても重宝され、秋田県では「ギバサ」、山形県では「ギバンソウ」、新潟県では「ナガモ」と呼ばれています。
近年研究が進み、世界中で海藻が栄養価の高い食品として注目されるようになっています。海藻類には、ナトリウムの排出作用のあるカリウムや食物繊維、機能性に優れた脂質の1つであるEPA(エイコサペンタエン酸)が多く含まれています。特にコンブやワカメ、アカモクなどの褐藻類に含まれる脂質には、フコキサンチンという成分が含有されていることがわかりました。
フコキサンチンはカロテノイドという色素成分の一種で、仲間としてリコピンやルテイン、アスタキサンチンなどが知られています。フコキサンチンは、がん細胞の増殖抑制作用や強い抗炎症作用、抗酸化作用などが確かめられています。
私は、褐藻類の中でもフコキサンチンを特に多く含むアカモクに注目し、研究を始めました。研究の結果、世界で初めて抽出されたアカモクのフコキサンチンには、抗肥満作用や抗糖尿病作用があることがわかったのです。
アカモク粉末の食品は少ない塩分で味も満足
研究では、高脂肪食のエサ中にアカモクのフコキサンチンを混ぜてマウスにとらせるという動物実験を行いました。その結果、精巣周辺の内臓脂肪を燃焼させることを確認。また、肥満で糖尿病の状態にしたマウスにフコキサンチンを混ぜたエサをとらせる実験も行いました。フコキサンチンを混ぜないエサをとったマウスの血糖値は500㍉㌘を超えていました。ところが、フコキサンチンを混ぜたエサを食べたマウスは、100㍉㌘前後と血糖値の上昇を抑えることがわかったのです。
人間でも試験が行われており、肥満の白人女性にアカモクから抽出したフコキサンチンを1日2.4㍉㌘とってもらったところ、体重や脂肪が有意に減少したのです。
私は北海道函館産のアカモクから抽出したフコキサンチンを使い、健康食品の開発に成功しました。フコキサンチンの抗肥満作用がメタボリックシンドローム(内臓脂肪型肥満)対策に役立つと考えています。
函館産のアカモクと同等にフコキサンチンを含む岩手県山田産のアカモク粉末を食品に混ぜる研究も行っています。アカモク粉末をパスタに混ぜ込むことで、カリウムが塩味を強め、少ない塩分で味の満足度の高いパスタができました。また、ドーナツにアカモク粉末を混ぜ込むと調理油の吸収率が少なくなり、カロリーの少ないドーナツの開発にも成功したのです。そのほかにも、アカモク粉末を利用したアカモクバターやアカモクソバなどがあります。
アカモク粉末は食品の水分を保ち、硬さを高めるとわかってきました。食品の水分を保ち、硬さを高めることは、口の中で咀嚼するさいにパサパサになりにくいという利点があります。嚥下補助食品としてアカモク粉末の活用が期待されています。
アカモクは、塩味を強める素材として非常に適しています。秋田県の郷土料理にあるギバサのように副食として食べることもできれば、みそ汁の中に入れて味わうこともできます。栄養素も豊富に含んでいるため、ふだんからアカモクを食べることで健康維持につながるでしょう。