腰部脊柱管狭窄症の患者数は580万人で坐骨神経が圧迫され痛みやしびれを発症
2012年に行われた厚生労働省の調査によると、日本国内にはおよそ2800万人もの腰痛患者さんがいると推測されています。日本人の成人のうち、80%以上が一生に一度経験するといわれる腰痛は、もはや「国民病」といっても過言ではありません。
腰痛の原因は、腰の骨や筋肉、神経の障害、ストレス、内臓疾患などさまざまです。腰痛全体の約85%は、レントゲンやMRI(磁気共鳴断層撮影装置)などの検査で明らかな異常が見つからない「非特異的腰痛」といわれています。
それに対し、「特異的腰痛」は、はっきりと原因が特定できる腰痛のことで、腰痛全体の約15%を占めています。腰部脊柱管狭窄症(以下、脊柱管狭窄症と略す)と腰椎椎間板ヘルニア(以下、椎間板ヘルニアと略す)が合わせて約10%、内臓疾患が約1%、その他が約4%の割合となっています。
脊柱管狭窄症は、高齢者に多い疾患です。50代以降に急増し、推定患者数は580万人といわれています。脊柱管狭窄症と椎間板ヘルニアを併発している人は、私の診療経験からすると全体の2~3割程度という感触があります。
まずは、「腰部脊柱管狭窄症チェックリスト」を試してみてください。あてはまる項目の合計が13点以上の場合は、脊柱管狭窄症のおそれがあります。13点に満たない場合でも、心配なようであれば専門医の診断を受けましょう。脊柱管狭窄症と椎間板ヘルニアは、上体を反らすことで判別が可能です。痛みが悪化する場合は脊柱管狭窄症、軽減する場合は椎間板ヘルニアと考えられます。
脊柱管狭窄症と椎間板ヘルニアに伴う、神経の圧迫によって発生する足腰の痛みやしびれといった症状を「坐骨神経痛」といいます。坐骨神経は、人体でいちばん長くて太い末梢神経で、腰から骨盤、お尻、太もも、ひざの裏辺りを通って、足先まで伸びています。
椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛は、腰椎の神経の出入り口の部分が圧迫されるため、圧迫されている側の足腰だけに出るのが特徴です。一方、脊柱管狭窄症による坐骨神経痛は、神経が全体的に圧迫されるため、左右どちらかの足腰に出る場合もあれば、左右同時に出る場合もあります。
手術をしたさいに患者さんの脊椎の神経を見ると、椎間板ヘルニアの場合は炎症物質によって神経が赤く腫れ上がっています。一方、脊柱管狭窄症の患者さんの神経は、脊椎の狭くなった部分の血流が時間の経過とともに乏しくなります。そのため、神経が酸素不足でやせ細り、白くなっています。
脊柱管狭窄症は加齢が主な原因で骨の変形や黄色靭帯の肥大によって発症
椎間板ヘルニアは、背骨の椎骨と椎骨の間でクッションの役割を果たしている椎間板が外にはみ出し、神経を刺激する疾患です。脊柱管狭窄症と異なり、症状が突然現れることがほとんどです。椎間板はとても繊細な組織で、老化は20代から始まるといわれています。
椎間板に大きな負担がかかると、周辺部分の薄い軟骨が層になった「線維輪」と呼ばれる、丈夫で柔軟性のある組織が壊れて、中心部から軟らかい「髄核」が飛び出します。すると、髄核から炎症物質が漏れ出し、腰椎を通る神経に炎症を引き起こして椎間板ヘルニアを発症するのです。
脊柱管狭窄症は、背骨の中を通る脊柱管が狭くなり、神経を圧迫するために起こる疾患です。主な原因は加齢で、脊柱管周辺の骨が変形したり、椎間板がつぶれたりすることで起こります。
背骨は24個の椎骨が首から腰まで積み重なって構成されています。椎骨の中央には穴が開いており、管状になっていることから脊柱管と呼ばれています。脊柱管には、脳からつながる神経の束(脊髄や馬尾神経)、椎骨と椎骨をつなぐ黄色靭帯が通っています。
変形した背骨のゆがみに対して、体は修復・補強を試みます。すると、背骨が変形したり黄色靭帯が肥大したりして、脊柱管が狭くなってしまうのです。脊柱管が狭くなると、脊柱管の内部を通る神経の圧迫や神経周辺の血流障害による酸素不足が起こり、痛みやしびれなどの症状が引き起こされます。
脊柱管狭窄症で起こる症状の中でも、歩行時に足腰が痛くなったりしびれたりして、歩きが休み休みになる症状を「間欠性跛行」と呼びます。連続して歩くことが困難になる間欠性跛行は、日常の動作を制限して生活の質(QOL)を低下させます。足腰に痛みやしびれを感じる人は、必ず医療機関を受診してください。