東京大学大学院医学系研究科呼吸器内科学教授 長瀬 隆英
間質性肺炎は肺胞を取り囲む組織の炎症によって起こる肺疾患で喫煙者は要注意
肺は私たちの体に欠かせない酸素と、体内で不要になった二酸化炭素を交換する働きを担う大切な臓器です。肺はブドウの房のように肺胞という小さな袋状の器官が集まってできています。肺胞の直径は約300㍃㍍で、左右の肺を合わせると約三億個もあると考えられています。肺胞を取り囲んでいる組織を間質といいます。
間質性肺炎とは、肺の間質を中心に炎症が起こる肺疾患の総称です。さまざまな原因によって薄い肺胞の壁(肺胞壁)に炎症や損傷が起こり、壁が厚く硬くなると(線維化)、ガス交換がうまくできなくなります。肺の最小単位である小葉を囲む小葉間隔壁や肺を包む胸膜が線維化すると、肺が膨らみにくくなります。さらに線維化が進んで肺が硬く縮むと、胸部CT(コンピュータ断層撮影)検査で蜂巣肺といわれる穴(嚢胞)を確認することができます。
間質性肺炎の特徴的な症状としては、安静時には感じない息切れが、坂道や階段の昇り降りだけでなく、平地の歩行中や入浴・排便といった日常生活の動作の中でも感じるようになります(労作時呼吸困難)。患者さんによっては季節に関係なく現れるタンを伴わないセキ(乾性セキ)に悩まされる人もいます。間質性肺炎は長年かけて徐々に進行するため、自覚症状が出る頃には病状がかなり悪化している人も少なくないのです。
間質性肺炎の原因として、関節リウマチや多発性皮膚筋炎などの膠原病(自己免疫疾患)、職業上や生活上でのほこりやカビ・ペットの毛・羽毛などの慢性的な吸入(じん肺や慢性過敏性肺炎)、病院で処方される薬剤・漢方薬(薬剤性肺炎)、特殊な感染症などが挙げられます。その中で原因を特定できない間質性肺炎を「特発性間質性肺炎」といいます。特発性間質性肺炎は病態の異なる6つの疾患からなりますが、頻度からすると「特発性肺線維症」「特発性器質化肺炎」「特発性非特異性間質性肺炎」の3つの疾患のいずれかに診断されることがほとんどです。
労作時の息切れなどの自覚症状を伴って医療機関を受診される間質性肺炎の患者さんは、10万人当たり10~20人といわれています。しかし、診断されるに至っていない早期の患者さんはその10倍以上はいると指摘されています。わが国における特発性肺線維症の発症率と有病率については、「厚生労働科学研究難治性疾患研究事業びまん性肺疾患に関する調査研究班」で報告されています。具体的な数字をご紹介しましょう。
2003年から2007年における北海道での全例調査では、特発性肺線維症の発症率は10万人当たり2.23人、有病率は10万人当たり10.0人でした。国内における特発性間質性肺炎の患者数の内訳は、特発性肺線維症の患者さんが80~90%と最も多く、次いで特発性非特異性間質性肺炎が5~10%、特発性器質化肺炎が1~2%ほどです。
特発性間質性肺炎のうち最も治療が難しい特発性肺線維症は50歳以上の男性に多く、ほとんどが喫煙者といわれています。間質性肺炎の発症には、喫煙が関わっていると指摘されています。肺が壊れて肺胞が広がっていく肺気腫と肺線維症が合併した「気腫合併肺線維症」は、喫煙歴があって息切れを自覚する患者さんに多く発症することが分かっています。
間質性肺炎の治療は対症療法しかなく薬物・酸素療法で生活の質を高めることが大切
現在の医療では間質性肺炎を根治させる治療法がないため、患者さんは対症療法を中心に受けることになります。適切な対症療法に正しく取り組むことで、生活の質が向上して予後がよくなることが少なくありません。
● 薬物療法
間質性肺炎の治療効果が認められている薬剤として、副腎皮質ステロイド剤と免疫抑制剤があります。また、特発性肺線維症に対しては、抗線維化剤(ピルフェニドン、ニンテダニブ)が使用されます。薬剤によって期待できる治療効果は間質性肺炎の種類によって異なるため、これらの薬剤が間質性肺炎のすべてに有効というわけではありません。
いずれの薬剤も副作用のおそれがあるため、病状の進行によっては薬物療法を行わずに経過を見ることもあります。これらの薬剤のほかに、セキやタンが多い患者さんには、鎮咳剤や去痰剤を処方する場合があります。
● 酸素療法
血液中の酸素が不足して日常生活に支障が出る患者さんを中心に行われます。自宅に酸素濃縮器または液体酸素のタンクを設置して、鼻から酸素を吸入します。外出時には小型の酸素ボンベを携行します。血液中の酸素濃度などが基準値を満たせば、健康保険の対象となります。
間質性肺炎を悪化させないためにも、喫煙者は直ちに禁煙することをおすすめします。禁煙以外は、特に生活面で注意することはありません。最近では、漢方薬などの薬剤や健康食品が原因で間質性肺炎の発症や悪化が疑われる例が報告されています。
間質性肺炎はカゼなどの感染症をきっかけとして、急激に進行・悪化しやすくなります。急性増悪と呼ばれる症状としては、発熱や呼吸困難、セキ、タンなどがあります。特に冬は、カゼを引かないように細心の注意を払って生活することが大切です。不調を感じたときは、すぐに呼吸器内科を受診するようにしましょう。