フェニックス加古川記念病院院長 楊 鴻生
ひざ関節症の患者は骨粗鬆症にも要注意で外出不足によって症状悪化の危険大
新型コロナウイルス感染症の収束が見られないまま、夏の暑さがこたえる毎日が続いています。今年の夏は暑さのみならず、ウイルスの感染リスクを避けるために外出を控えている人も多いことでしょう。しかしながら、家に引きこもりがちの生活は、変形性ひざ関節症や骨粗鬆症の悪化を招くおそれがあるので注意が必要です。
変形性ひざ関節症は、加齢などが原因でひざの関節軟骨がすり減ることで発症します。ひざ関節の炎症や変形が生じることで、多くの患者さんは痛みに悩まされます。座っている状態から急に立ち上がった際に“ズキッ”とした痛みを感じる人は、すでに変形性ひざ関節症を発症しているかもしれません。
高齢者に多い骨粗鬆症も、多くは加齢によって起こります。骨粗鬆症の患者さんは、骨の強さを示す骨密度が低下し、進行するとちょっとしたことで骨折しやすくなります。特に高齢者の場合、大腿骨を骨折すると回復が長期間にわたることもあります。
私たちの骨は、全身に存在するほかの組織と同様に新陳代謝を繰り返しています。骨が古くなったり血液中のカルシウム濃度が低くなったりすると、破骨細胞が骨を壊す「骨吸収」が行われます。骨吸収によって壊された骨は、骨芽細胞が新しい骨を作る「骨形成」が行われます。通常は骨吸収と骨形成のバランスが保たれていますが、新陳代謝がくずれて骨吸収が過剰になると骨量の減少を招きます。その結果、骨がもろくなり、骨折しやすくなってしまうのです。
骨粗鬆症は変形性ひざ関節症の直接的な原因とはいえませんが、骨がもろくなると姿勢が乱れてひざ関節に負荷がかかりやすくなります。変形性ひざ関節症の進行を防ぐには、骨粗鬆症にならないことも大切といえるでしょう。
変形性ひざ関節症や骨粗鬆症を悪化させる原因として、運動不足が挙げられます。運動不足になると、体重の増加やひざを支える筋力の低下が顕著になります。その結果、ひざ関節に対する負荷が増え、痛みの増幅につながるという悪循環に陥ってしまうのです。
骨の強さと筋力を維持するために定期的な運動は欠かせません。運動によって骨に適度な負荷がかかると、骨にカルシウムが沈着しやすくなります。さらに、体を動かして血流をよくすると、骨芽細胞の働きが活発になって骨密度を高めることができるのです。
骨を強化するには運動のみならず、栄養の補給も大切です。骨粗鬆症を防ぐうえで大切な栄養素の1つにビタミンDがあります。ビタミンDはサケやサンマ、ウナギなどの魚類をはじめ、シイタケやキクラゲなどに含まれていますが、日光浴によって皮膚でも作られるという、ほかのビタミンにはない特徴を持っています。また、ビタミンDは食事でとるよりも日光浴で生成するほうが、効率よく体の中に取り入れることができます。
1日5~15分の日光浴でビタミンDが体の中で作られて免疫力も高められる
骨を作るビタミンという印象が強いビタミンDですが、ほかにも免疫細胞の生成や働きにも深く関わっていることが、世界中で進んでいる最近の研究から分かってきています。例えば、ビタミンDは、がんや炎症性腸疾患、1型糖尿病、多発性硬化症に対する有効性も報告されているのです。
先に解説したように、ビタミンDは食事でとるだけでなく、日光を浴びることにより、皮膚で生成することができます。家に閉じこもりがちの高齢者や、夜間勤務で昼夜逆転の生活を送っている人は、皮膚で作られるビタミンDが不足しているおそれがあるのです。
いまの時期にビタミンDを皮膚で作るには、午前10時~午後3時の時間帯に5~15分ほど、全身で日光を浴びればいいでしょう。長時間にわたる日光浴は、ビタミンDを壊す物質を作ってしまうだけでなく、皮膚を傷める紫外線の浴びすぎにもつながります。
ビタミンDをサプリメントで補給する場合は、過剰摂取に気をつけましょう。ビタミンDをとりすぎると体内のカルシウム量が過剰になり(高カルシウム血症)、血管壁や腎臓、心筋、肺などに大量のカルシウムが沈着するおそれがあります。
暑い日が続きますが、変形性ひざ関節症の患者さんは、適度な日光浴を心がけましょう。新型コロナウイルスへの対策をしっかりとしながら、外出の頻度を増やすようにしてください。