倉敷中央病院副院長 石田 直
今冬はインフルエンザと新型コロナウイルス感染症の同時流行に最大限の警戒が必要
2019年12月に中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。急速に世界中に広がったCOVID-19は世界中を震撼させ、2020年10月上旬の段階で全世界での感染者数が約3800万人、死亡者数が108万人と報告されています。
日本においても、2020年1月15日に最初の患者が報告されて以来、患者数は増加しつづけ、10月中旬の段階で感染者数が約9万人、死亡者数が約1600人に及んでいます。患者数は5月上旬をピークにして一時的に減少し、全国での緊急事態宣言は解除されましたが、その後の再増加が見られ、第二波、第三波の到来が疑われています。
従来のコロナウイルスの流行モデルから新型コロナウイルスの流行を推測した研究によると、今年の冬にCOVID-19の大流行が起こることが予想されています。特に、季節性インフルエンザ(以下、インフルエンザと略す)が流行する時期と重なることによって、インフルエンザとCOVID-19の同時流行という重大な事態になることが危惧されているのです。また、中国からブタ由来の新型インフルエンザの発生も報告されており、今後の動向に留意する必要があります。
私が委員長を務める日本感染症学会のインフルエンザCOVID-19アドホック委員会でも、その対処法として「今冬のインフルエンザとCOVID-19に備えて」という提言をまとめました。インフルエンザとCOVID-19の流行が重なった場合、一般の診療所や病院の外来診療の現場は混乱に陥ってしまうおそれがあります。
同時流行への危惧は海外からも発せられており、インフルエンザとCOVID-19の混合感染の症例も相次いで報告されています。つまり、今年の冬は「インフルエンザなのか」「COVID-19なのか」「インフルエンザとCOVID-19の混合感染なのか」「そのどちらでもないのか」など、さまざまな状況に対処しなければならなくなると考えられるのです。
もしインフルエンザとCOVID-19の同時流行という事態に陥れば、両者の識別がとても重要になります。そのため、先の提言では、最新のエビデンスをもとにして症状や潜伏期間、無症状感染、ウイルス排出期間とピーク、重症度、致死率などの項目ごとに両者の臨床上の特徴を明確にしました。
インフルエンザとCOVID-19の大規模な流行に向けて「予防」に勝るものはありません。感染症の代表的な予防策の1つがワクチンです。インフルエンザワクチンは、年齢によって差はありますが、発病・重症化の予防に有効です。医療関係者はもちろん、高齢者やインフルエンザのハイリスク群は積極的に接種することをおすすめします。
一方、新型コロナウイルス感染症には有効性が示されたワクチンがまだありません。現時点で最も効果的な予防法は主に次の六つです。なお、これらの予防策はインフルエンザにも非常に有効です。
①「三密」(密閉・密集・密接)の回避
②身体的距離(フィジカルディスタンス)の確保(できるだけ2㍍以上、最低でも1㍍)
③マスクの着用、咳エチケット(咳やくしゃみをする際、マスクやティッシュ、ハンカチ、袖、ひじの内側などを使って口や鼻を押さえること)の徹底
④手洗い・手指消毒(手洗いは30秒程度、せっけん・消毒薬の利用)
⑤体温測定・健康チェック(熱やカゼの症状があるときは自宅で療養)
⑥発症時やクラスター発生時に備え、いつ誰とどこで会ったかを記録
ただし、日常生活の中で三密の回避やフィジカルディスタンスの確保を守り抜くことは非常に難しいかもしれません。しかし、できるだけ意識をした行動を取ることによって自分自身を守り、ひいては日本の感染拡大の抑制につながるかもしれません。ぜひ、意識した行動を心がけるようにしてださい。