プレゼント

究極の善玉菌が生産する健康長寿の要「酪酸」

がん治療の進化を目撃せよ!

日本先進医療臨床研究会代表 小林 平大央

〝長寿菌〟と呼ばれる究極の善玉菌である「酪酸生産菌」が健康長寿の要だった

[こばやし・ひでお]——東京都八王子市出身。幼少期に膠原病を患い、闘病中に腎臓疾患や肺疾患など、さまざまな病態を併発。7回の長期入院と3度死にかけた闘病体験を持つ。現在は健常者とほぼ変わらない寛解状態を維持し、その長い闘病体験と多くの医師・治療家・研究者との交流から得た予防医療・先進医療・統合医療に関する知識と情報を日本中の医師と患者に提供する会を主催して活動中。一般社団法人日本先進医療臨床研究会代表理事(臨床研究事業)、一般社団法人ガン難病ゼロ協会代表理事(統合医療の普及推進)などの分野で活動中。

腸内細菌が人間の免疫機構や心身の活動に影響を及ぼし、健康長寿にも大きく関係することは、近年の研究から明らかになっています。腸内細菌には、これまで「善玉菌」と呼ばれて健康長寿に寄与する乳酸菌やビフィズス菌などが知られていました。

ところが、近年の研究から善玉菌が生育して(ちょう)内細菌叢(ないさいきんそう)(腸内フローラ)が良好なバランスを保てるのは、実は「究極の善玉菌・長寿菌」と呼ばれる酪酸生産菌(らくさんせいさんきん)(酪酸菌)が腸内にいるからということが明らかになってきました。酪酸生産菌が生産する「酪酸」という短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)が腸内を善玉菌が優位な状態に保ち、免疫力を増強して健康や長寿に対して非常に重要な役割を果たしていることが分かってきたのです。

日本の研究でも、酪酸が長寿に関係していることが明らかになりつつあります。京都府北部に位置する(きょう)丹後(たんご)市は人口に占める(ひゃく)寿者(じゅしゃ)(百歳以上の人)の割合が全国平均の約3倍と際立って長寿者が多い地域です。京丹後市では長寿者を対象とした研究が開始され、2018年に日本腸内細菌学会で辨野(べんの)義己(よしみ)先生(理化学研究所イノベーション推進センター特別(しょう)(へい)研究員)が健康長寿者の腸にはビフィズス菌と酪酸生産菌が非常に多いことを発見したと発表し、ビフィズス菌と酪酸生産菌を「長寿菌」と呼ぶことを提唱しています。

このほかにも酪酸によって症状が軽減・改善・解消したという報告は多くあります。酪酸の増加は体内の制御性T細胞(Tレグ)を増やすことで、膠原(こうげん)(びょう)や自己免疫疾患、消化管に慢性的な炎症が起こるクローン病や潰瘍性大(かいようせいだい)(ちょう)(えん)、花粉症やアレルギー疾患、関節リウマチ、過敏性腸症候群やSIBO(小腸内細菌増殖症、別名「おなら病」)など、多くの疾患で改善報告が相次いでいるのです。さらに、中国での研究で新型コロナウイルスに感染して重症化した人の腸内では、酪酸生産菌が軒並み減少していることが判明しました。

酪酸生産菌は、ノリやワカメ、漬物などの発酵食品を多くとると増えることが分かっています。日本人の食生活は、腸内の酪酸生産菌とその生産物である酪酸を増やすうえで理想的といえます。こうした事実から、世界で猛威を振るった新型コロナウイルス感染症が日本では発症率も重症化率も非常に低かった要因とされる「ファクターX」が腸内の酪酸であると指摘する研究者もいます。

『長寿菌まで育てる最高の腸活』辨野義己 著(宝島社)

ところで、腸内細菌叢を良好な状態に保つ「腸活」という健康法がありますが、腸活ではこれまで「プロバイオティクス」や「プレバイオティクス」などの方法が一般的でした。プロバイオティクスの「プロ」とは「共生」という意味で、体外から有用な善玉菌を飲用することで腸内の善玉菌を増やそうとするアプローチです。また、プレバイオティクスの「プレ」は「前に」という意味で、すでに腸内にいる善玉菌の主要なエネルギー源であるオリゴ糖や食物繊維などを摂取することで腸内の善玉菌を増やそうとするアプローチです。ところが、これらのアプローチは、実はあまり効果的でないことが近年の研究によって明らかになってきました。

腸内細菌叢ではヒトの誕生とともに勢力争いが始まり、3歳の時にはほぼバランスが決まってしまいます。そして、一度決定した腸内細菌叢のバランスは、後から変更することが非常に困難なのです。そのため、飲用によって体外から有用菌を腸内に入れるプロバイオティクスでは、ほとんど腸内に生着できずに排出されてしまうことが判明しました。また、プレバイオティクスでも、エサを与えて腸内の善玉菌の自助努力に頼るだけでは一度決定された勢力圏を広げるのは難しいことが分かり、効果的なアプローチではないことが判明しました。

そこで、今最も注目されている腸活のアプローチが、東京大学名誉教授の光岡知足(みつおかともたり)博士によって提唱された「バイオジェニックス」という手法です。バイオジェニックスは腸内細菌が作り出す最終物質(代謝産物や菌体成分など)を直接摂取することで腸内細菌叢の影響を受けずに体に直接働きかける手法です。バイオジェニックスは当初乳酸菌の生産物質によって実現しましたが、近年の研究によって酪酸が腸内細菌のバランスを良好に保ち、健康長寿に大きな効果をもたらすことが明らかになったのです。

『すごい酪酸菌―病気になる人、ならない人の分かれ道』江田 証 著(幻冬舎)

ところが、酪酸そのものを摂取できる形で大量生産するのは非常に難しく、酪酸の大量生産法は近年まで存在しませんでした。これまで酪酸を安価に大量生産する方法が世界中で研究されてきましたが、数年前に世界で初めて酪酸の大量生産法の開発に成功したのが日本のメーカーなのです。酪酸そのものを大量に含む酪酸エキスを開発する特許技術によって実現しました。こうして安価に大量生産できるようになった酪酸エキスによって、今後、健康長寿の(かなめ)となる究極の腸活素材である酪酸は世界的に需要が拡大されることが予想されています。

ところで、これまで腸で重要な臓器は栄養素やビタミンなどを吸収する小腸だと思われてきました。ところが、その後の研究によって、健康長寿にとって最も重要な栄養素は、免疫酵素や代謝酵素など、多くの酵素を活性化させるミネラルであることが判明しました。次いで、ミネラルを多く吸収する大腸がより重要な臓器であり、腸活の主役であることが分かってきたのです。

大腸の状態を善玉菌優位にする立役者こそ酪酸です。酪酸は主に酪酸生産菌によって腸内で生産され、(だい)(ちよう)粘膜(ねんまく)(じょう)()細胞を活性化して、蠕動(ぜんどう)運動を促進して便秘を解消します。また、酸素を消費して大腸内を低酸素状態にすることで嫌気性(酸素を嫌う性質)の善玉菌である酪酸生産菌やビフィズス菌、乳酸菌などを増やし、好気性(酸素を好む性質)の大腸菌などの悪玉菌の生育を妨げることが分かってきました。酪酸が腸内環境を整えてくれているからこそ、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌が生きていけるのです。