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目と脳が引き起こす大混乱!「カフェウォール錯視」に挑戦

Dr.朝田のブレインエクササイズ!

メモリークリニックお茶の水理事長 朝田 隆

今回のテーマは「錯視」です。「目の錯覚」という意味ですが、実は錯覚の多くは目ではなく、脳で起こると考えられています。あなたは目と脳が引き起こす混乱に負けずに、解答にたどり着けるでしょうか?

幾何学的錯視は目だけでなく脳機能のテーマでもあり複数の要因が重なって起こる

まずは、次の問題に取り組んでみましょう。10棟並んでいる建造物の中から、傾いている建物を数える問題です。解説は問題を解いた後に読んでください。

10棟の建物

10棟の建物が並んでいます。ゆがんでいる棟はいくつあるでしょうか。

[あさだ・たかし]——筑波大学名誉教授。1982年、東京医科歯科大学医学部卒業。同大学神経科、山梨医科大学精神神経科講師、筑波大学精神神経科学教授などを経て現職。数々の認知症の実態調査に関わった経験をもとに、認知症の前段階からの予防・治療を提案している。著書に『その症状って、本当に認知症?』(法研)など多数。

さて、今回のテーマは「錯視」です。今回の出題のような錯視は、一般的に「目の錯覚」と呼ばれています。錯視という現象自体は、古代ギリシャ時代から知られていたようです。錯視は目の混乱によって起こると考える人が多いかもしれませんが、実はその多くが脳で起こると考えられています。錯視を脳科学として研究するようになったのは、19世紀の中頃からといわれています。

錯視の解説を進めるために、まずは今回の問題の解答をお伝えしましょう。答えは、なんと0棟。すべての棟が垂直に立っているのです。

今回の問題に使った錯視は、カフェウォール(カフェの壁)錯視と呼ばれます。幾何学的錯視と呼ばれているグループの一つで、名前はイギリスのブリストルにあるカフェの壁で発見されたことに由来するそうです。

カフェウォール錯視では、傾いていない線がなぜ傾いて見えるのでしょうか? 残念ながら、正確なメカニズムはまだ分かっていないのです。ただ、現在では「脳の働きの誤作動」や「目のとらえ方のミスにより、誤って見える」といった単純な考え方は否定されています。

カフェウォール錯視は、いくつかの要因が複雑に絡み合って生じているようです。例えば、入力される視覚情報そのもの、次にその情報を目が取り入れる過程、さらに見えた情報を脳が判断する過程など、複雑な過程で錯視が起こると考えられます。

カフェウォール錯視の問題を作るうえでは、描かれた線に「ゆがみ」が起こるように図形を調整しています。まず、棟の内部にある正方形は、隣の棟にある正方形と少しずつ高さが異なるように配置されています。不思議なもので、この正方形が同じ高さに並んでしまうだけで錯視は起こりにくくなります。

もう一つポイントになるのが、棟と棟の間にある縦の境界線です。境界線の色と明るさも、錯視の生じやすさと関係します。皆さんは目と脳が引き起こす混乱に惑わされずに解答までたどり着けたでしょうか。

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