山下 克博さん
スーパーマーケットに足を運ぶと、旬を迎えた数多くの野菜が並んでいます。色とりどりの野菜は、それぞれ栄養価が異なりますが、40年以上にわたる〝春菊愛〟を貫いているのが北海道旭川市に住む元春菊農家の山下克博さん。難病と向き合いながら春菊の健康効果を発信している情熱人の物語です。
春菊の栽培農家として活動中に難病を発症し農業の継続を断念
北海道旭川市に住む山下克博さんは長年、葉物野菜を中心とした農家として活動をしてきました。山下さんは地元の農業高校を卒業した後、家業の水稲栽培農家を継承。養豚事業も兼業するようになった山下さんは、ブタの糞からできる堆肥を活用するために葉物野菜の栽培を始めたそうです。
「当時、栽培していたのは、春菊を中心に、ほうれん草、小松菜、パセリといった葉物野菜でした。農家として順調に事業を展開していた私は、JA旭川青果物出荷組合連合会の摘み取り春菊部会長に就任し、農家仲間たちと春菊の勉強会を重ねるようになったんです。勉強会の一環として、当時、春菊栽培の先進地といわれていた福島県の農家を視察で訪れた私は、栽培されていた春菊を見て衝撃を受けました。福島県産の春菊は葉幅が広くて色が濃く、見事な出来栄えだったのです。私たちはその春菊を取り入れて北海道で普及を図り、現在も旭川市内の農家で栽培されています」
JA旭川青果物出荷組合連合会の摘み取り春菊部会長として、地元農業の発展を考えていた山下さんを病魔が襲ったのは、53歳の時だったといいます。
「稲作と野菜栽培の農家として脂が乗っていた時に、パーキンソン病と診断されたのです。その3年後には、原発性側索硬化症(PLS)という難病を発症していることも分かりました。この病気は、100万人に1人の割合で発症し、言語障害を起こしながら全身の筋肉が徐々に硬くなっていくんです」
国の難病に指定されている原発性側索硬化症の進行とともに、農業を続けることが体力的に難しくなった山下さん。経済的にも農業の経営が厳しくなったことから、2011年に廃業を決断するに至りました。
「農業の継続は諦めましたが、生きていかなくてはなりません。体の動きを少しでもらくにしたいと願った私は、2013年から下腹部に薬入りのポンプを埋め込むITB療法を始めました。ITB療法は、筋肉を柔らかくする薬剤が入ったポンプを手術で埋め込んで行う治療法です。ポンプに入れた治療薬の効果は約3ヵ月間で切れるため、薬の交換や調整のために2週間ほど入院しています」
ITB療法を始めてから、望んでいた治療効果を実感しているという山下さん。治療と合わせてリハビリテーションに専念していた時に出合ったのが、かつて栽培していた春菊を用いた「春菊エキス」でした。
春菊風呂とエキスを飲む「春菊習慣」を続けたら体が丈夫になりました
「春菊エキスを飲みはじめたのは、原発性側索硬化症を発症した11年後の2017年です。その数年前にある書物を読んでいたら、『ポリフェノールが多く含まれるワインを飲んでいるフランス人は、他国に比べて心臓病を発症する人が少ない』という記事に目が留まりました。私が長年栽培してきた春菊もポリフェノールが豊富ですし、ほかにもさまざまなミネラルが含まれています。春菊はワインに負けない——そう思ったんです」
偶然にも以前、テレビの健康情報番組で春菊の茎を乾燥させて使う入浴法を知ったという山下さん。廃業したとはいえ、春菊の栽培に携わってきた農家として、春菊を生かした健康法を提案したいと思い立ったといいます。
春菊を使った健康法の実践にあたり、山下さんが最初に試したのが、健康情報番組で知った春菊の乾燥茎を入浴剤として活用することでした。乾燥させた春菊の茎を湯に入れ、春菊風呂に入る習慣とともに、乾燥春菊を水出しや煮出して抽出したエキスを飲みはじめたそうです。
「春菊エキスを飲む量は、1日100~200㍉㍑程度です。春菊風呂と春菊エキスの飲用を続けていると、驚いたことに3ヵ月後からハゲ上がっていた頭皮から産毛が生えはじめたんです。続けて体感したのは、老眼の解消でした。新聞や雑誌、スマートフォンを見る際に手放せなかった老眼鏡が不要になり、小さな文字もくっきりと読めるようになったので驚きました」
春菊風呂と春菊エキスという〝春菊習慣〟を毎日実践していた山下さんの変化は、その後も続きます。
「私は昼間にデイサービスで過ごしているのですが、施設内で入浴した後、職員さんのご厚意で全身に春菊エキスを噴霧してもらうようになりました。すると、職員さんたちから『肌がきれいになってきましたよ』と驚かれるようになったんです」
そのほか、山下さんが強く実感しているのが、「春菊エキスを飲んでから体が丈夫になったこと」だといいます。
「以前の私は、冬になると毎年1~2回は風邪を引いて病院のお世話になっていました。そんな私が春菊エキスを飲みはじめてから今日まで6年間、一度も風邪を引いていないんです。デイサービスに通っている80代の男性も、毎年のように風邪を引いていたそうですが、私がすすめた春菊エキスを飲んでから風邪知らずになったと、ご家族みんなで大喜びしています」
山下さんによれば、春菊は古くから「食べる風邪薬」といわれているとのこと。高齢者は風邪をきっかけに肺炎を起こす可能性が高まり、時に命取りになるおそれもあることから、山下さんは高齢者こそ春菊の力を風邪予防に生かしてほしいと話します。
「春菊の力に魅せられた私は、春菊の健康効果をもっと広めることが元春菊農家としての使命と考えるようになりました。春菊はてんぷらやおひたしで食べるだけではなく、あらゆる生活シーンで心身の健康増進に生かしてほしいと思います」
そんな山下さんが試みたのが、春菊の魅力をあますところなく紹介した本の出版でした。『春菊は凄い!3つの宝』と題した単行本を2017年に自費出版。植物としての春菊の解説から栽培法、春菊エキスのもとになる乾燥茎の作り方、観賞用の花として春菊を愛でる方法など、40年にわたる〝春菊愛〟のすべてを詰め込んだ1冊を完成させたのです。
「出版後の反響を心待ちにしていたのですが、本の売れ行きはさっぱりでした。本の中で紹介しているさまざまなハウツーの中でも、私が20年間実践してきた『リレー移植栽培法』は、春菊の美しい花を観賞するために考案した独自の栽培法です。食べるだけでなく、愛でる春菊の魅力も多くの人に知っていただきたいと思います」
春菊は多目的・多様性を発揮する優れた植物。今後も春菊愛を貫きます
山下さんが春菊の栽培を始め、その健康効果に魅了されてから約半世紀。山下さんは、春菊に関する新しい知識を得るたびに、ほかの野菜とは異なる「多目的・多様性を持った野菜」であることに気づかされるといいます。
「春菊は、鍋物や揚げ物、和え物といった和食に欠かせない食材でありながら、乾燥茎を入浴剤として用いれば、体の外から健康増進に働きかける健康素材にもなります。海外では春菊の食用栽培は珍しく、地中海沿岸とアメリカの一部では観賞用に栽培されています。春菊は、花として目を楽しませてくれる存在でもあるんですよ」
難病と闘いながら、ご自身の人生とともに歩んできた春菊にもっと光を当てたいと話す山下さん。体の自由は徐々に利きにくくなっているそうですが、40年来の〝春菊愛〟に衰えはないと断言します。
「私の代わりに春菊を栽培しているのは妻です。春菊は無農薬で栽培し、ビニールハウスのまわりは防虫ネットを施して大切な春菊を害虫の被害から守っています。栽培と収穫は妻の担当で、収穫後に葉を取り、茎を切って乾燥させるのが私の仕事です。肥料や移植などの作業は体力勝負なので、若くはない妻にとっては大きな負担です。私の春菊愛を支えてくれる妻には、感謝の気持ちでいっぱいです。この記事を読まれた『健康365』の読者の皆様が、春菊を毎日の健康増進に役立てていただくことが、今の私の願いです」
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