清水整形外科クリニック院長 清水 伸一
高齢化に伴い急増中の脊柱管狭窄症は足腰の痛み・しびれによる坐骨神経痛が主症状

高齢化に伴って増加傾向にある病気の1つが、腰部脊柱管狭窄症(以下、脊柱管狭窄症と略す)です。脊柱管狭窄症は50代以降になると急増し、患者数が約580万人と推定されています。
脊柱管狭窄症の患者さんは、腰椎椎間板ヘルニア(以下、椎間板ヘルニアと略す)を併発していることがまれではありません。医師の私が診ても、脊柱管狭窄症と椎間板ヘルニアが混在していて診断が困難な場合があります。
一般的には、脊柱管狭窄症と椎間板ヘルニアは、姿勢による症状の変化で判別できます。上体を反らした時に痛みやしびれが悪化する場合は脊柱管狭窄症、上体を前屈した時に悪化する場合は椎間板ヘルニアと考えられます。
脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアの患者さんたちが、神経の圧迫によって発生する足腰の痛みやしびれなどの症状を「坐骨神経痛」といいます。坐骨神経は人体で最も長くて太い末梢神経で、腰から骨盤、お尻、太もも、ひざ裏辺りを通って足先まで伸びています。
脊柱管狭窄症の場合、神経が全体的に狭窄していて、左右に枝分かれした神経の分岐部が圧迫されます。そのため、坐骨神経痛が左右両方の足腰に同時に出る場合もあれば、左右どちらかにだけ出る場合もあります。一方で、椎間板ヘルニアの場合は、飛び出した椎間板が神経の片側を圧迫するため、坐骨神経痛が片側だけに出るのが特徴です。
椎間板ヘルニアは、背骨の椎骨と椎骨の間でクッションの役割を果たす椎間板の中央にあるネバネバとした髄核が外に飛び出し、神経を刺激することで足腰に強い痛みやしびれなどの症状が生じる病気です。椎間板はとても繊細な組織で、老化は20代から始まるといわれています。
一方、脊柱管狭窄症は、背骨の中を通る脊柱管が狭くなり、神経を圧迫して起こります。背骨は24個の椎骨が首から腰にかけて積み重なって構成されています。椎骨の中央には穴が開いており、つなげるとトンネルのように管状になることから「脊柱管」と呼ばれています。
脊柱管には脳からつながる神経の束(脊髄や馬尾神経)が通っており、椎骨と椎骨は椎間板や椎間関節、前縦靭帯、後縦靭帯、黄色靭帯によって連結されています。脊柱管狭窄症は、加齢などが原因で脊柱管周辺の骨や関節が変形したり黄色靭帯が肥厚したりして、脊柱管が狭くなることで発症します。
脊柱管狭窄症と診断された患者さんは、痛みやしびれといったつらい症状を抑えることが優先されます。そのため、治療の初期は鎮痛薬をはじめ、血管を拡張させて間欠性跛行(一定の距離を歩くと痛みやしびれで歩けなくなり、休息を取ると再び歩けるようになる症状)を和らげるための薬物療法が行われます。その際に医師から運動をすすめられることがあるものの、具体的な運動法(運動療法)を提案される患者さんは少ないと感じています。
薬物療法だけで脊柱管狭窄症の症状が改善に向かう患者さんがいる一方で、改善が見られない、もしくは症状が悪化する場合も少なくありません。薬はあくまでも痛みを抑えるだけで、神経の圧迫や脊柱管の狭窄を治すことができないからです。そこで私は患者さんに「薬を反対から読むとリスクです。薬には副作用というリスクもあります」と伝え、頼りすぎはよくないと説明しています。

運動療法は狭窄症に対する根治治療で日常生活の姿勢で脊柱管の状態が変化
また、薬物療法で改善しない場合は、医師から手術をすすめられる場合もあります。手術によって狭窄した脊柱管を物理的に広げ、神経への圧迫を取り除けば痛みやしびれの軽減は期待できるでしょう。しかし、手術を急ぐ必要がないのであれば、手術を検討する前に運動療法を試していただきたいと思います。なぜなら、脊柱管の状態は、体の動かし方や姿勢によって大きく変わることが確認されているからです。
例えば、腰を反らすと脊柱管の背中側にある黄色靭帯がたわんで神経を圧迫します。ふだんから腰椎が過度に反った「反り腰」のクセがついていることが多い脊柱管狭窄症の患者さんは、立っているだけで脊柱管を狭めているといえます。つまり、反り腰のクセを正して脊柱管を広げた姿勢を保つことができれば、神経への圧迫を軽減でき、症状が大きく改善するのです。
対症療法である薬物療法や手術では、姿勢や体の動かし方を変えることはできません。姿勢や体の動かし方を変えることで症状の改善につなげる根治治療は、自分で体を動かす運動療法によってかなえられるのです。
では、脊柱管狭窄症の患者さんに多く見られる反り腰を直すには、どうすればいいのでしょうか。腰を反らさずに丸めたほうがいいといっても、脊柱管狭窄症の患者さんは、第四・第五腰椎が折れるように曲がってしまう人も多く、うまく丸められないことがあります。そこでポイントとなるのが「骨盤の傾き」です。
清水式体操で神経の圧迫を除圧すれば脊柱管狭窄症の症状が和らぐと大評判

腰椎を丸める際になぜ骨盤が重要かというと、腰椎の動きは骨盤と連動しているからです。
腰椎と仙骨(骨盤の中央に位置する骨)は、椎間板と椎間関節でつながっています。そのほかにも仙骨は、腸骨(骨盤の左右両側に張り出した骨)ともつながり、「骨盤」を構成しています。
骨盤を構成する骨(仙骨・腸骨・恥骨・坐骨)が一体となって動く際、動きに伴って腰椎も動きます。骨盤が前傾すれば腰椎は反り、後傾すれば丸まります。つまり、「反り腰の人」は、「骨盤が前傾している人」といい換えることもできるのです。
そのような理由から、脊柱管狭窄症の患者さんは、「骨盤を後傾させて腰椎を丸めること」で脊柱管が広がるようになります。骨盤の後傾によって圧迫されている神経が解放され、脊柱管狭窄症のつらい症状を和らげることができるのです。そこで紹介したいのが、[清水式体操]です。
清水式体操の目的は、神経の圧迫を取る「除圧」です。体操をすることで、筋肉や関節、血管の硬直をほぐし、反り腰に代表される乱れた姿勢を改善します。清水式体操で背骨の状態が適切に整うと、痛みやしびれを引き起こす神経の圧迫が解除されていきます。清水式体操は、「伸ばした際に緩める(脱力する)」ことが重要で、次のような効果が期待できます。
●ストレッチ効果による硬直した体の緩和
●血流の改善
●椎間孔や脊柱管の狭窄の改善
●脳脊髄液の流れが促され、発痛物質の排出が促進
●リラックス効果による自律神経の調整
脊柱管狭窄症や関節痛などの痛みやしびれは、医師まかせにするだけではなかなか改善しません。そのため、私が患者さんに清水式体操を指導する際は、『きづくの法則』についても伝えています。きづくの法則とは、「傷つく→気づく→築く」と表現するように、患者さんが痛みやしびれを改善するための段階をいいます。私のクリニックでは、体が「傷ついて」不調を訴える患者さんに、問診を通じて不調を招いた原因に「気づいて」いただきます。その後、どうすれば痛みやしびれの少ない体に近づけるのかを私と一緒に考え、清水式体操も選択肢にした新たな生活習慣を「築いて」いただくのです。私のクリニックでは、『きづくの法則』によって薬やブロック注射に頼らずに痛みやしびれの少ない体を手に入れた患者さんがおおぜいいらっしゃいます。
脊柱管狭窄症の痛みやしびれに悩まされている患者さんの中には、「この症状は一生続くのだろうか」「なにかあったらと思うと怖くて出かけられない」「どうして自分だけがこんな思いをするのか」と不安や怒りの感情でストレスが強くなり、うつ状態になってしまう人も少なくありません。うつ状態は心身を緊張させて知覚神経が過敏になるため、痛みやしびれの症状を強めることが分かっています。痛みやしびれを改善に導くためには、心の状態にも目を向ける必要があります。
うつ状態は痛みやしびれを悪化させる原因で「STRESS」を使ってストレス解消
気持ちが晴れないと家に閉じこもりがちになり、抑うつも進んでいきます。さらに、体を動かさないと筋力も低下してしまいます。つらい症状から早く回復するためには、負の感情やストレスから気持ちを切り替えることが大切です。
私は患者さんに「ストレスはSTRESSで解消しましょう」と伝えています。STRESSとは次の言葉の頭文字をつなげています。
●S……スポーツ(運動・散歩)
●T……トラベル(旅行・外出)
●R……レクリエーション(娯楽)・レスト(休息)
●E……イーティング(食事)
●S……スリーピング(睡眠)・スマイル(笑顔)
●S……シンギング(歌)・スピーキング(話す・会話)
痛みやしびれが続いて気持ちが落ち込んだ時は、自分に合った項目の「STRESS」に取り組むと気持ちが前向きになりやすくなります。楽しく穏やかな日々を過ごせれば、痛みやしびれの症状も早く改善されやすくなるのです。
今回は、清水式体操の中から「3方おじぎ」をご紹介します。ほかにも、脊柱管狭窄症の患者さんに効果を上げている体操には、さまざまな種類があります。清水式体操を実践すれば誤った姿勢が改善され、体幹の筋肉をうまく使えるようになります。その結果、腰椎の安定性が高まり、筋肉や関節への負担を減らす効果が期待できます。脊柱管狭窄症の新しい運動療法として、ぜひ今日から取り組んでみてください。私の治療に関心を持たれた方は、連絡先までお問い合わせください。
整形外科医考案!脊柱管狭窄症の痛みが改善する[清水式体操]
脊柱管狭窄症の対症療法である薬物療法や手術では、症状の根治を望むことは難しいとされています。生活の質が高まる痛みやしびれの改善は、「姿勢や体の動かし方を変える運動療法」によってかなえられます。整形外科専門医の清水院長が考案した[清水式体操]で脊柱管狭窄症の痛み・しびれを解消して快適な日常生活を取り戻しましょう!

