横浜南共済病院整形外科人工関節センター長 柁原 俊久
女性は男性の8倍も変形性股関節症になりやすく軟骨がすり減ることで発症
変形性股関節症は、股関節の関節軟骨がすり減ることによって起こる病気です。患者数は120万~500万人に上り、女性が男性の8倍も多いといわれています。
股関節は、両脚のつけ根にある、人体で最も大きな関節です。上半身と下半身をつなぎ、体の要ともいえる中心部分です。体を曲げたり反らしたりするほか、立ったり座ったり、歩いたりする際の起点になって、全身のバランスを保つ重要な役割を果たしています。
股関節は、骨盤の左右にあり、骨盤にあるおわん状の寛骨臼と呼ばれる受け皿に、太ももの骨の先端にある球状の大腿骨頭がはまり込む構造になっています。寛骨臼は大腿骨頭に丸い屋根のようにかぶさり、正常な股関節では大腿骨頭の直径の約80%を覆っています。
寛骨臼と大腿骨頭の表面は、関節軟骨という厚さ2~4㍉の弾力のある柔らかい組織で覆われ、関節液で満たされた関節包に包まれています。股関節の滑らかな動きは、関節軟骨というクッションと、関節液という潤滑油のおかげで可能となるのです。
変形性股関節症の主な原因は股関節の形態異常で、股関節の軟骨がすり減って痛みや炎症が生じます。歩くと脚のつけ根が痛むだけでなく、慢性的な腰痛や原因不明のお尻・ひざの痛み、脚の部位が特定しにくい違和感などがあるという方も、変形性股関節症の疑いがあります。
変形性股関節症が悪化しやすい股関節の構造はすでに分かっていて早期対応が大切
変形性股関節症の病期は4つに分けられ、「①前股関節症→②初期→③進行期→④末期」と徐々に症状が悪化していきます(図参照)。関節軟骨の破壊が進むと骨と骨が直接ぶつかるようになり、股関節が変形していきます。治療せずに放置すると症状が不可逆的に進行し、慢性的な痛みのために歩行が困難になったり、股関節の可動域(動かすことができる範囲)が制限されたりして、生活の質(QOL)が著しく低下してしまうおそれもあります。
注目していただきたいのが、変形性股関節症の病期には前股関節症の段階があることです。つまり、変形性股関節症が悪化しやすい股関節の構造がすでに認知されているのです。「将来変形性股関節症に苦しむ可能性がある」と明確に予測することができることは、病気の発症を未然に防いだり、進行を抑制したりするうえで大きな利点といえるでしょう。股関節に負担のかからない生活を心がけ、周辺の筋肉を強化することで、たとえ高齢になっても自分の脚で歩くことが可能なのです。
変形性股関節症は、股関節への負担をできるだけ減らし、自分自身の股関節をいかに大事に長く使えるようにするかを意識して治療に臨むことがとても重要です。すべての病期を通じて、股関節の可動域と周囲の筋肉の維持、さらに体重の管理が重要なポイントになります。
変形性股関節症は治療期間が長い疾患の1つです。だからこそ、痛みを軽減して生活の質を向上させることを目標に据え、治療に根気強く取り組む必要があります。もし痛みによって生活の質が著しく低下している場合は、関節温存や人工関節などの手術療法も検討すべきです。信頼できる専門医の説明を受け、いくつかある選択肢の中から自分に合った治療法を上手に選ぶようにしてください。