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脊柱管狭窄症で起こる腰痛の強さは糖毒物質AGEsの量と関係し喫煙や揚げ物には要注意

整形外科

和歌山県立医科大学医学部整形外科学講座講師 寺口 真年

脊柱管狭窄症は乱れた生活習慣による老化現象で長年の喫煙や座り仕事の人に多発

[てらぐち・まさとし]——和歌山県立医科大学医学部卒業。医学博士。同大学医学部博士研究員・助教を経て、香港大学留学後、2023年から現職。医学博士。日本整形外科学会専門医、日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄病指導医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、骨粗鬆症認定医。日本整形外科学会、日本脊椎脊髄病学会、中部日本整形外科災害外科学会、日本低侵襲脊椎外科学会、日本MIST学会、日本成人脊柱変形学会、日本骨粗鬆症学会に所属。

私は現在、和歌山県立医科大学整形外科学講座に所属し、附属病院で患者さんの治療にあたっています。私の専門領域は脊椎脊髄(せきついせきずい)外科です。脊椎は首(頸椎(けいつい))からお(しり)(尾骨)に向かって伸びる背骨を指し、椎骨(ついこつ)と呼ばれる骨が椎間板(ついかんばん)靭帯(じんたい)によって連結することで構成されています。脊椎の中には、重なった椎骨がトンネル状になった「脊柱管(せきちゅうかん)」と呼ばれる管があります。脊柱管の中を通っているのが、脳と連動して運動神経と感覚神経をつかさどる脊髄で、下半身の機能を維持するうえで欠かせない馬尾(ばび)も通っています。

脊椎・脊髄に関する代表的な疾患として挙げられるのが、腰部(ようぶ)脊柱管(せきちゅうかん)狭窄症(きょうさくしょう)(以下、脊柱管狭窄症と略す)です。さまざまな原因によって脊柱管が狭くなると、中を通っている神経(神経(こん)・馬尾)が圧迫されるようになります。その結果、神経が傷つけられて痛みやしびれといった症状を引き起こすのです。

近年において脊柱管狭窄症は、加齢に伴って起こる老化現象の一つと考えられるようになりました。実際に、私のもとに来られる脊柱管狭窄症の患者さんのほとんどは中高年の方です。社会の高齢化が急速に進んでいる日本において、脊柱管狭窄症の患者さんは今後も増えていくと予想されます。

脊柱管狭窄症によって足腰の痛みやしびれが起こっている患者さんには、生活習慣の見直しをはじめ、痛みを取る治療薬や痛みを感じる神経回路を遮断するブロック注射を使って治療を行います。一定の治療や生活習慣の改善を図っても痛みの軽減が見られなかった患者さんには、外科手術がすすめられます。現在、脊柱管狭窄症の手術は、患者さんの体にかかる負担を軽減した(てい)侵襲(しんしゅう)手術と呼ばれる方法が主流です。

私が脊柱管狭窄症の手術を行う場合は、主に直径16㍉ほどの内視鏡を患部に挿入し、モニターに映し出される映像を見ながら手術を行います。脊柱管狭窄症の手術は1時間~1時間半程度かかることが多く、慎重かつ繊細な手技が求められます。低侵襲手術は患者さんの体に残る傷が小さく済むのが利点で、手術後は患者さんの生活の質が大幅に向上します。

脊柱管狭窄症は老化現象の一つと述べましたが、同じ年齢でも見た目が若い人とそうでない人がいるように、老化の程度には個人差があります。いずれにしろ、毎日の生活習慣が老化と大きく関係していることは明らかで、脊柱管狭窄症も例外ではありません。

例えば、生活習慣の一つとして姿勢を考えてみると、脊柱管狭窄症は事務職をはじめ、バスやタクシーの運転手さんなど長時間にわたって座り仕事をしている人や、腰に負担がかかる農業に従事している人が発症しやすいと感じています。一般的に私たちの姿勢は、立っている姿勢(立位)よりも座っている姿勢(座位)のほうが腰に負荷がかかりやすくなります。座り仕事をしている人は椎骨の間でクッションの役割を果たしている椎間板がつぶれやすくなっています。ほかにも、座り仕事をしている人は血流の悪化などから脊柱管の近くにある黄色(おうしょく)靭帯という器官が肥厚(ひこう)して、脊柱管の中を通る神経が圧迫されやすくなるのです。

喫煙や油で揚げた食べ物は終末糖化産物のAGEsがたまりやすく腰の痛みが加速する

AGEsは体の中で糖とたんぱく質が結合して作られる物質。皮膚や血管、骨にたまるとしなやかさや弾力性が失われてもろくなってしまう

姿勢のほかにも、脊柱管狭窄症と生活習慣の関係を考えるうえで私が注目しているのが「AGEs」です。「終末糖化産物」とも呼ばれるAGEsは体の中の過剰な糖とたんぱく質が結合した際にできる物質で、皮膚や血管、骨の老化の原因となって全身の老化を引き起こします。

AGEsが特に作られやすいのは喫煙です。喫煙は体の酸化を引き起こします。酸化を分かりやすくいうと、体がサビた状態です。AGEsは骨、筋肉や血管、さらには神経までサビさせてしまう悪玉物質として知られています。

そのほか、キツネ色がつくまで揚げられたフライや天ぷらなどの揚げ物にはAGEsが多く含まれています。油っこい揚げ物が好きな人は、体の中でAGEsがたまっている可能性が高いといえます。

脊柱管狭窄症は老化現象の一つといえるため、全身の老化を招くAGEsも、脊柱管狭窄症の発症や悪化に関わっていると考えられます。そこで私たちのグループでは、脊柱管狭窄症とAGEsの関係を調べる試験を実施しました。

試験の対象者は、脊柱管狭窄症を含む脊椎疾患と診断され、腰痛や下肢(かし)の痛み・しびれを訴えて保存療法や手術を受けた患者さん計116人(男性46人、女性70人。平均年齢73歳)です。今回の試験では、AGEsとの関連が強い傾向にある糖尿病の患者さんは除外しました。

116人の患者さんには特殊な機器を使って体内のAGEs量を計測し、VASスケールという痛みの程度を測る指標との関係を調べました。その結果、体内のAGEs量と痛みの程度には相関関係があり、体内のAGEs量が多い人ほど脊柱管狭窄症の腰痛が強くなる傾向があると分かったのです。AGEsと痛みの相関関係を実証した研究は、私たちのグループが初めて解明した事実です。

また、私たちのグループが行った別の研究では、AGEsの量は男性において筋肉量の低下と関係し、女性は脂肪の増加と関係していることが分かりました。つまり、AGEsが体内にたまっている男性は筋肉が落ちて()せやすく、女性は肥満になる傾向があるのです。

AGEsによる影響には個人差があり、遺伝的な要素も指摘されています。しかしながら、AGEsが老化を加速させる事実に変わりはありません。脊柱管狭窄症と診断されている人はもちろん、発症を防ぐ目的でもAGEsを作らない生活習慣を心がけましょう。