メモリークリニックお茶の水理事長 朝田 隆
数十年ぶりに学生時代の旧友に会った時でも、多くの人はすぐに誰か分かるはず。それは、脳内にある「顔細胞」の働きによるものです。今回は、顔細胞の記憶力に働きかける問題です。
脳には顔を記憶する専門の細胞があり赤ちゃんの頃から目・鼻・口に注目
何十年も会うことがなく、名前すら記憶にない人と同窓会で会った時、一目見た瞬間に、「自分が知っているあの人だ!」とすぐに思い出した経験はありませんか? 私の知人は小学校時代の友人と60年ぶりに会った時、「おーい、○×!」と正しい名前で呼ばれたそうです。記憶力のよさに関心していると、その友人は知人が連れていたお孫さんの顔を見て小学生時代の面影を思い出し、すぐに友人と分かったとのことでした。
今回は顔に関する記憶がテーマです。早速、問題に取り組んでみましょう。皆さんの記憶の中にある顔として、歴史上の人物・聖徳太子の顔を用意しました。かつて1万円札に描かれていた聖徳太子の顔を、皆さんは正確に思い出すことができるでしょうか。
人間の脳には、顔の記憶を専門的に引き受けている「顔細胞」という細胞があります。目の網膜に入った視覚情報は後頭部の視覚一次野に行き、視覚前野を経て頭頂葉と下部側頭葉に伝わります。この回路の「下部側頭葉」を主として、人間の顔に反応する「顔細胞」があります。
顔の認識とは、顔の形を把握して個人を特定することです。私たちが人の顔を記憶する際に優先するのは、「目→鼻→口」の順といわれています。この順番で顔の特徴が脳に刻まれる理由は、顔細胞が、目・鼻・口に敏感に反応するからです。
顔細胞の記憶に関する研究をご紹介しましょう。研究では、誕生直後の赤ちゃんに人の顔を単純化して描いた絵を見せ、赤ちゃんの視線の動きを観察しました。その結果、赤ちゃんが最も注視したのは、目と口でした。続けて、口を描いていない顔を見せると、最初の絵に対するほどの関心を示さなかったそうです。
顔細胞は、生後2週間頃から働きはじめるといわれています。生まれたばかりの赤ちゃんの視力は0.03程度で、20㌢以上離れた場所はぼんやりと見える程度。しかし、生まれたばかりでも、母親の顔を好んで見ることが報告されています。また、自分の母親と見知らぬ女性の顔を区別するともいわれています。
聖徳太子の顔クイズ
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