日本先進医療臨床研究会理事 小林 平大央
腸内の土壌を改良するシンバイオティクス療法が21世紀病の改善に有効と注目を浴びる
今回のテーマは第56回の後編です。今世紀を席巻する発症率の高い病気群である「21世紀病」(アレルギー疾患や自己免疫疾患、消化器疾患など)が注目を浴びつつあり、腸から始まる不調や腸内細菌叢の荒廃が原因であることが分かってきたのです。
そうなると解決策は、腸内細菌叢のバランスを元どおりの協調的な状態にしてあげればいいということになります。腸内の土壌改良に最もよい方法が「シンバイオティクス療法」です。
シンバイオティクス療法とは「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」を組み合わせた食事療法です。腸内に有用菌を届けるのがプロバイオティクス、腸内の有用菌を育てるのがプレバイオティクスです。
シンバイオティクス療法の肝は「小腸内で腸内細菌の多様性を維持すること」と「大腸で短鎖脂肪酸を産生する細菌の活躍を促すこと」です。
実は、今から2500年も前に、医学の始祖とされるヒポクラテスは「すべての病気は腸から始まる」と語っていました。そして、「人は自然から遠ざかるほど病気に近づく」ともいっていました。
これは栄養学的にも真実で、「あなたはあなたが食べたものでできている」とも、「あなたはあなたの微生物(腸内細菌や常在菌)が食べたものでできている」ともいわれています。現在では、人が食べたものは腸に住む腸内細菌の力を借りて吸収・代謝されていることが分かっています。もう少し詳しく説明しましょう。
プロバイオティクスは、合計12000人が参加した63ヵ所の臨床試験でも効果が確認されています。プロバイオティクスは抗生物質起因性の下痢の発生率を下げることが分かりました。抗生物質の治療で100人中30人に下痢が発生するとして、プロバイオティクスはそれを17人に抑えたのです。
プロバイオティクスは、まだ小さな赤ん坊にも有用です。早く生まれすぎた小児は腸が急速に壊死していくことがあります。そうした赤ん坊に予防的にプロバイオティクスを投与しておくと、死亡リスクが60%低下します。感染性の下痢になった赤ん坊には「ラクトバチルス・ラムノサスGG株」を投与すると症状の持続時間を短縮できることが分かっています。
プロバイオティクスは免疫系の働きを有利なほうに向かわせるなんらかの効果があることが分かっています。もともとプロバイオティクスは治療よりも予防で力を発揮する方法です。残念ながら、プロバイオティクスは十分に進んだ深刻な病態には遅すぎます。
一方、プレバイオティクスは、主に大腸に生息する常在細菌のエサとなる食品を多くとる食事法です。大腸では、これらの食材をもとに短鎖脂肪酸が作られます。主に植物に含まれる多糖類などで、代表は水溶性食物繊維やオリゴ糖、難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)、難消化性たんぱく質(レジスタントプロテイン)などです。
これらの成分は、野菜や海藻、豆類、種子類、穀類、果物など、主に植物性の食品に含まれます。人では分解できませんが、大腸まで届いて腸内細菌のエサとなります。これらを組み合わせたり、両方を満たす優秀な食品を日々食べたりすることで、腸内の土壌が改良されていきます。
なお、動物性たんぱく質は小腸にたどりつく間にしっかり消化され、アミノ酸という素材にまで分解されて、腸から吸収されるのが理想です。大量に食べすぎて、未消化の動物性たんぱく質が大腸まで届いてしまうと、腸内の腐敗の原因になります。
動物性たんぱく質に含まれる大量の窒素や少々の硫黄は、腸内細菌に食べられると、アンモニアや硫化水素、ニトロソアミンなど、悪臭のある毒ガスを発生させ、腸壁や体内の細胞を傷つける原因になります。そのため、食べすぎは肥満の元になるだけでなく体調不良の原因にもなるのです。
さて、シンバイオティクス療法を実践するうえで、毎日の食事に追加するために非常に有用な素材があります。さまざまな野菜や果物などを発酵させて大量の酵素を含ませてから、低い温度で乾燥させて粉末にした生きている酵素を含む「生酵母パウダー」です。
発酵は微生物による錬金術です。ビタミンやミネラル、アミノ酸、有機酸が増えて、栄養もうま味も、元の食材より格段にアップしています。吸収しづらい栄養素も、このプロセスによって吸収しやすくなるのです。
プロバイオティクスとプレバイオティクスの両方の特性を兼ね備えた生の酵母や、酵母が生む酵素がたっぷり含まれる生酵母パウダーは、カプセルタイプや錠剤タイプの酵母製品より含まれる酵母の量や酵素の量が多く、一回の摂取で多量の酵母と酵素が取れるためおすすめです。
また、納豆菌も非常に優れたシンバイオティクスです。納豆菌は、もともと土壌を豊かにする枯草菌の仲間で、偏西風に乗って大陸から日本にやってきたといわれます。繁殖力が強いうえに酸にも熱にも強く生きて腸まで届きます。ビフィズス菌や乳酸菌をサポートするだけではなく、土壌菌の仲間である多くの腸内細菌を元気づけてくれます。腸内の土壌を活性化する最高の味方といえます。通常の食品としての納豆以外に、納豆の10倍以上の納豆菌が含まれる粉末タイプの納豆菌ふりかけや、納豆が苦手な人向けに三カプセルで10パック分の納豆菌がとれるサプリメントなどもあります。
そのほか、日本は世界有数の発酵食品大国で、みそやしょうゆなど、さまざまな発酵食品があります。みそやしょうゆ、みりん、酢、甘酒、日本酒、焼酎などの伝統的な発酵食品は麹菌がいないと作ることができません。最近では塩麹も人気ですね。さらに、大腸で直接働く酪酸・酢酸・プロピオン酸などの短鎖脂肪酸のサプリメントもおすすめです。
日本先進医療臨床研究会では、21世紀病の治療・予防に向けて、生酵母パウダーや納豆菌サプリ、酪酸エキスなどを使用した治療結果の積み上げによる症例収集研究を、主旨に賛同してくださる全国の有志医師と多施設共同で開始する予定です。参加希望の方は、ぜひ当会までご連絡ください。
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