プレゼント

「不可能図形」と「心的回転」の難易度高めの問題

Dr.朝田のブレインエクササイズ!

メモリークリニックお茶の水理事長 朝田 隆

高齢者の約3割が予備群といわれている認知症。「物忘れが増えた」「大切なことが思い出せない」といった不安を感じたら、できるだけ早く対策を取りたいものです。認知症研究の第一人者として知られる朝田隆先生が考案したトレーニングで、脳の老化を防ぎましょう。

エッシャー技法を使った不可能図形と鏡に映った図形の心的回転で脳を刺激

[あさだ・たかし]——筑波大学名誉教授。1982年、東京医科歯科大学医学部卒業。同大学神経科、山梨医科大学精神神経科講師、筑波大学精神神経科学教授などを経て現職。数々の認知症の実態調査に関わった経験をもとに、認知症の前段階からの予防・治療を提案している。著書に『その症状って、本当に認知症?』(法研)など多数。

今回紹介するのは、美容室の風景と題した作品です。手前に実風景があり、向こうには鏡の中の風景が描かれています。実はよく見ると「あり得ない部分」が5ヵ所あります。まずは、右側に注目しましょう。違和感を覚える部分はないでしょうか。

今回のテーマの1つは、以前にも紹介した不可能図形です。永遠に降りられない階段であるペンローズの階段は、エッシャーという画家が絵画に取り入れたことで有名です。

エッシャーは「永遠」「無限」というテーマを持ちつづけた作家です。建築不可能な構造物の絵や平面を次々と変化するパターンで埋め尽くした絵など、非常に独創的な作品を多数発表しました。その技術には、だまし絵のような錯視を利用したものから、数理工学的なアプローチを応用したものまで幅広くあります。エッシャーのような図形を描くのは難し過ぎると思われがちですが、一部のエッシャー図形の作り方は簡単に描けるような工夫がなされており、いまでも小学校や中学校などの教育現場でも紹介されています。

さて、今回のイラストでもエッシャーの技法を応用しています。鏡の右側に映っている男の子が降りようとしている階段に注目してください。男の子が降りてくる階段が、途中から階段の側面に変わっていることに気がついたでしょうか。さらに不可解なのは、階段を降りる女性が左に回って出口に向かうと、ここがもと来た階段の上のほうにある踊り場の高さと同じになっているところです。

頭の中で図形を回転させてイメージする能力のことを、心理用語で〝メンタルローテーション〟と呼び、日本語では〝心的回転〟と訳されます。回転した図形が元の図形と同じかどうかの判断は、回転する角度が大きくなるほど難しくなります。今回のイラストで表現されている鏡の状態は、まさに心的回転が必要な問題といえるでしょう。

次は、鏡の左上をご覧ください。よくよくご覧いただくと、時計が反転せずに描き込まれていることに気がつくはずです。

最後に注目するべきは、美容師さんです。本物の美容師さんと鏡の中の美容師さんをじっくりと見比べましょう。すると、腕と髪の位置がおかしいことに気がつくのではないでしょうか。本物の美容師さんは右腕が上がっているのですが、鏡の中でも反転せずに彼女の腕は左側の右腕が上がっていて髪も反転していません。

鏡の問題はよく考えないと、不可思議さを感じづらいかもしれません。いま目の前にある風景が鏡に映ったらどうなるか考えるだけでも、脳のエクササイズにつながるでしょう。

不可解な美容室

ある美容室の風景です。現実的にはありえない部分が5カ所あります。それはどこでしょう。

答えは次ページです。

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