機器も登場!乳がんの早期発見に役立つ「ブレストエイド活動」

ニッポンを元気に!情熱人列伝

一般社団法人ナイチンゲールスピリット連盟 池本 ゆうさん
ユー・ディー・コーポレーション代表取締役 岡本 敏秀さん

30代から急増し、40~50代で発症のピークを迎える乳がんは、いまやAYA世代(10~30代後半)の患者も増えています。人生に大きな影響を及ぼす乳がん対策のカギは早期発見。乳房のセルフチェックを手軽にできる器具も登場する中、看護師さんを中心とした「ブレストエイド活動」が話題を集めています。

日本の乳がん検診率は欧米に比べて低く患者数が増える要因

一般社団法人ナイチンゲールスピリット連盟 池本ゆうさん(左)と「ブレスト・アイ」の開発者であるデイビッド・ジョン・ワトモフ博士(右)

「私が所属する一般社団法人ナイチンゲールスピリット連盟は、子育てやご家族の介護などによって医療現場から退いている看護師たちに、キャリアを生かした活動の場を提案している組織です。“潜在看護師”と呼ばれる現場を離れた看護師の数は、全国で約70万人といわれています。医療に関する知識と経験が豊富な潜在看護師は、現在の逼迫した日本の医療を支えるうえで大切な存在と考えています」

そのように話すのは、ご自身も潜在看護師の池本ゆうさん。所属するナイチンゲールスピリット連盟では、キャリアを持つ看護師を地域医療の活性化に役立てる新しい試みを展開し、大きな注目を集めています。現在、特に力を入れているのが看護師+αの新しい専門性を生かした職域の開拓で、女性のがん問題では乳がん予防活動として「ブレストエイド活動」に注目が集まっています。

「ブレストエイド活動は、その名のとおり“乳房を救う”をキャッチフレーズとした、乳がんの早期発見を促す啓発活動です。さまざまな部位に発症するがんの中でも、乳がんは日本の女性がかかる割合(罹患率)が1位で、9人に1人が発症しています。乳がんの発症者は30代から増えはじめて40~50代でピークを迎えますが、最近では10~20代の乳がん患者さんも増えているんです」(池本さん)

日本の乳がん検診に関する政策は欧米諸国に比べて著しく遅れているといわれています。国内で乳がん検診が始まったのは2004年。検診そのものの歴史が浅いだけでなく、いまも若年層に対する乳がん検診は実施されていません。

日本国内で乳がん検診の受診率が上がらない背景として、池本さんは以下のような理由があると分析します。

「中高年のみならず、若年層にも『乳がんは怖い』『乳がんは早期発見・早期治療が大切』であることは周知されていると思います。ただ、『検診の際に乳房を見られたくない』といった恥ずかしさや、『マンモグラフィー検査の機器で乳房を挟まれるのが痛い』、『少なからずも検査による被ばくのリスク』などといったことを気にする方が増えている理由もあるのでしょう」

確かに、欧米人に比べて乳房が小さめの日本人女性の場合、乳房を押しつぶすマンモグラフィー検査は痛みを伴います。検査の際の痛みは、乳がん検診にとって大きな壁となっているようです。また、コロナ禍において検診率がさらに下がっているのも気になるところです。

「さらに最近では、マンモグラフィー検査や医師による触診を受けていても乳がんの発見が見落とされることも多く、必ずしも早期発見につながらないことが指摘されるようになってきました。実際に、乳がん検診の際に触診の項目を外す自治体も増えています。医師でも早期発見が難しい触診が、一般女性にとって唯一のセルフチェック法なのです」(池本さん)

そこで池本さんは、世代を問わず誰もが簡便にできる、触診のほかにも乳がんのセルフチェックをする方法を探しはじめました。

ブレスト・アイを使って透過させた乳房の様子

正常な乳房は血管と乳輪、乳首がきれいに映し出されている
触診では分からない小さなしこりが原因で、モヤモヤとした新生血管の影が生じている

皮膚を透過させて乳がんの早期発見に役立つツールが話題

ユー・ディー・コーポレーション代表取締役 岡本敏秀さん(右)と「ブレスト・アイ」の開発者であるデイビッド・ジョン・ワトモフ博士(左)

赤ちゃんの産声をCD化するサービスや、写真アルバムを製作する事業、医療用サプリメントの製造販売を展開している、ユー・ディー・コーポレーションの岡本敏秀さん。岡本さんが経営する会社では、産婦人科医の経営支援事業も展開していることから、日本人女性の乳がん検診率の低さについて医師から話を聞いていたそうです。

「急速に増えている乳がんの患者さんを少しでも減らすために、自分も何か役に立ちたいと思いました。海外の情報も含めて調べていたときに目に留まったのが、ブレスト・アイという機器だったのです」(岡本さん)

岡本さんが注目したブレスト・アイは、スコットランド人のデイビッド・ジョン・ワトモフ博士が開発した、乳がんの早期発見を補助するスクリーニングツールです。乳がんの患者が世界的に増えていることを危惧していたワトモフ博士は、世界各地の中でも乳がんの発症率が高いアフリカの状況を特に心配していました。実際に西アフリカにあるガーナ共和国では、女性の死亡者の大半を乳がんが占めていたそうです。

そこでワトモフ博士は、みずからの手で、誰もが簡便に乳がんのセルフチェックができるツールを開発。アフリカを中心に慎重なテストを重ね、ついに完成に至ったのです。

「国境に関係なく、乳がんの患者さんを減らしたいというワトモフ博士の想いが詰まったブレスト・アイの存在を知った私は、乳がん検診率が低い日本でぜひ普及させたいと思いました。すぐにワトモフ博士にメールを送って日本で広めたい気持ちを伝えると、博士からご快諾をいただいたのです。2016年のことでした。そのとき博士から、海外でのブレスト・アイの普及のカギは、優秀な看護師によるサポートがあったことを伺いました」(岡本さん)

ブレスト・アイの使い方は、とても簡単です。本体が発光する特殊な赤い光を乳房の下から当てると、透過された乳房の皮膚や組織を見ることができます。痛みやかゆみを伴わないため、マンモグラフィー検査を受けるときのような不安や心配もありません。ブレスト・アイを使った乳がんのセルフチェックのしくみについて、岡本さんはこう話します。

「私たちの体にできたがん細胞は、新生血管と呼ばれる新しい血管を増やして酸素や栄養素を取り込もうとします。ブレスト・アイは、乳房に赤い光をあてることで、新生血管の異常な影を映し出します。赤い光を当てたときに新生血管が映し出されたら、乳がんを発症している疑いがあります」

日本人の女性の乳房には乳腺が多く、マンモグラフィー検査では乳がんと同じように白く映し出されます。そのため、日本人女性の乳房は乳腺とがんの見極めが難しく、早期発見を妨げてしまうこともあるそうです。

「その点、ブレスト・アイは乳腺を白く映すことがありません。新生血管だけを映し出すので、早期発見の確率向上に役立ちます。ブレスト・アイは医療機器ではないので、がん細胞を見つけるための機器とは明言できない段階です。あくまでもセルフチェックをする補助的な機器ですが、痛みなどのストレスを感じずに手軽に使えるので、海外では高い評価を受けています」(岡本さん)

全国の潜在看護師の力を借りて乳がんの早期発見率を高めたい

オリジナルTシャツの作成など、ブレストエイド活動を普及させる活動が広がっている

ブレスト・アイの普及方法に看護師の力が必須であることをワトモフ博士から聞いた岡本さんは、普及のサポートを池本さんに依頼。池本さんは博士のもとを訪れて、開発秘話や現地での苦労、今後の日本での活動の展望などの話をしたそうです。池本さんは、当時の様子をこのように振り返ります。

「現地でワトモフ博士からブレスト・アイに関する歴史やエビデンスを直接お聞きし、実際に私も試してみました。操作がとても簡単なうえ、視覚的にも見やすいので、一般の方でも使いこなせると思いました。ブレスト・アイは、毎日できるセルフチェックとして、被ばくに不安を抱く女性にも安心して使ってもらえます。乳がんの怖さを知りながらも検査に前向きになれない女性たちに、乳房の違いを見える化することで検査を受ける動機づけをし、背中を押すことができます。乳がんの早期発見につながる新しい行動を提案できると思いました。そして、女性たちとブレスト・アイをつなげる役割を、潜在看護師の新しい職域の一つにしたいと思い、ブレストエイド活動を考えたのです」

ナイチンゲールスピリット連盟では、乳がんの予防として、被ばくしない、痛くない、Tシャツを着たまま受けられる「ドゥイブス・サーチ」という新しいMRI検診の推進にも力を入れています。池本さんは、ブレスト・アイやドゥイブス・サーチを普及させながら、「乳がん検診は痛くない、怖くない、恥ずかしくない」という「ブレストエイド活動」を展開していきたいと考えています。

さらに池本さんは、「ブレスト・アイを親娘で使う」ことも推奨しています。ママナースが多い潜在看護師ができる大きな役割の一つとしてとらえているそうです。

大切なのは早期発見!

「娘さんがいるご家庭なら、お母さんが娘さんといっしょにブレスト・アイを使ったセルフチェックを習慣化するといいと思います。ともに多忙でなかなかお互いの健康を気遣うことができない家庭内でのコミュニケーションツールとしても力を発揮すると感じています」

この話を受けた岡本さんは、数字の“3”を乳房に見立てて、毎月3日と13日、23日、30日を“ブレストエイドの日”として乳房のセルフチェックをすすめるアイデアを提案しています。

「乳房を触診しても、がん組織がある程度大きくならないと乳がんの発見はできません。多くの乳がんは、セルフチェックでしこりを感じて見つかることが多いのですが、そのときはすでに大きくなっていることがほとんどです。ブレスト・アイは1㌢大のしこりも映し出すので、触診より異変を見つけやすいというエビデンスが海外で出ています。定期的なチェックを習慣化することで、乳房の小さな変化に気づきやすくなるでしょう」(岡本さん)

「女性が100人いれば、乳房も100通りあるほど、1人ひとりの乳房には個性があります。そこで、全国の潜在看護師を乳がん予防のセルフチェックの推進活動に参加していただくことからスタートをしたいと考えています。自分をケアする習慣であるブレストエイド活動が、日本の検診率を高める大きな力になると信じています。ブレストエイド活動を通じてセルフチェックの文化を広めていきたいと思っています」(池本さん)