海洋研究のためにスリランカを出て日本への留学を決意
私が初めて日本へやって来たのは1961年のことです。文部省(現・文部科学省)の国費留学生として、大学で海洋生物学を学ぶのが目的でした。
私はスリランカの出身です。地元のセイロン大学を卒業した後、日本でいうところの水産庁で働いていました。ところが、ほんとうは海洋生物学の研究をしたかったのに、入庁するなり小さな船と50本の縄を与えられ、「マグロを獲ってこい」と、はえ縄漁に行かされたんです。でも、大学を出たばかりの素人ですから、何をどうしていいのか分かりません。このとき、はえ縄漁について細かく指導してくれたのが、当時国際連合に在籍していた日本人の方でした。
素人なりに2~3ヵ月はえ縄漁を続けると、どうにか1匹だけマグロを獲ることができたものの、その他はサメばかり。その日本人の方からは、「海のことや漁の基礎を知らないんだから、しょうがないよ」といわれました。海が大好きな私は、「それならもっと本格的に勉強をしたい!」と思いました。それがスリランカを出るきっかけになったのです。
具体的な留学先としては、当時マグロの水揚げ量で上位だったソビエト連邦(現・ロシア)、カナダ、日本が候補になりました。ただ、ソビエト連邦で暮らすのは想像がつかなかったので、私はカナダと日本のそれぞれの大使館で、奨学金をもらうための試験を受けることにしました。
正直なところ、この時点では日本に対して特別な関心はなく、留学先はカナダでもいいと思っていたんです。たまたま、先に合格通知が届いたのが日本だったので、行く決意をしました。
来日してから過ごした2年の留学期間中に、いまの妻と出会って結婚しました。その後も何十年にもわたって日本に住むことになるのですから、縁というのは分からないものですね。
トラブルから始まった朝の国民的人気コーナー「ワンポイント英会話」
日本での留学期間を終えた私は、妻を連れてスリランカへ戻ることになりました。ところが、生活環境が合わなかったのか、妻がひどいアレルギーを発症したため、私たちは再び日本へ戻ることになったんです。
今度は研究生として大学に通うかたわら、英会話スクールの講師として働きはじめました。その英会話スクールの生徒の中に、テレビ局のプロデューサーの奥さんがいたことから、テレビとの出合いが生まれます。
最初は生徒である奥さんのご主人の通訳として収録に参加する程度でしたが、やがて日本テレビで『ズームイン!!朝!』という朝の情報番組が始まることになりました。番組は朝7時台から始まります。あるとき、番組スタッフの会議で「通勤や通学途中の会社員や学生に、外国人が突然英語で話しかけたらおもしろいんじゃないか」という企画が出されたそうです。
テレビ局側としては、ほんとうは美しい金髪の女性に話しかける担当をやらせたかったようですが、手頃な人が見つからなかったようで、お試しで私にお鉢が回ってきました。
忘れもしない、試験的に行った収録日は1979年2月15日。ちょうど所得税の申告提出が始まる日でした。そこで私は、道行く人を捕まえては、次のように声をかけたのです。
「Where should I pay taxes?(税金はどこで払えばいいですか?)」
しかし、いきなり外国人からこんなことをいわれても、みんな逃げ出すばかりで収録になりません。それでも必死に声をかけつづけると、ようやく反応してくれる人が現れました。ところが、あろうことか「tax(税金)」と「taxi(タクシー)」を聞き間違えて、私を無理やりタクシーに押し込んだのです。
タクシーに押し込まれて大慌てする様子が大ウケしたことで、晴れて私がこのコーナーを担当することになりました。その後、15年も続くことになる「ウイッキーさんのワンポイント英会話」の始まりです。
一介の英会話講師だった私の生活は、番組コーナーの担当になって一変。月曜から金曜まで、連日朝から生中継の収録に臨まなければなりませんから、自己管理が求められます。
82歳になったいまも、仕事の前に固形物はいっさい口にせず、好きなコーヒーやヨーグルトをとる程度です。また、1週間のうち50時間くらいは断食をしています。断食は内臓を休ませるために必要な時間と考えていて、特に70歳以降は断食の習慣によって体調が快適に保たれていると実感しています。
15年ほど前に1度、クモ膜下出血で倒れたことがあります。しかし、幸いにして後遺症もなく、英会話講座の仕事を毎日こなしています。
この年になっても元気に働けるのは、日頃の節制もさることながら、仕事を通していろいろな人に会えることに大きな喜びを感じているからでしょうね。2歳のお子さんから92歳のお年寄りまで、ほんとうに幅広い人たちと会って話せる日々が、楽しくてしかたないんです。
これからも英会話講座や講演を通して、一人でも多くの方と出会っていきたいですね。