プレゼント

目の前の仕事や遊びに全力を注ぎ、体が動くかぎり俳優を続けます

私の元気の秘訣
俳優 藤 竜也さん

大島渚、北野武、黒沢清といった日本を代表する映画監督の作品に多く出演し、主演男優賞など数々の受賞歴も誇る藤竜也さん。デビューから55年たった現在も元気に役者として活躍する藤さんに、元気の秘訣や人生に対する考え方を伺いました。

いいときもあれば悪いときもある。人生は風まかせです

俳優になったのは偶然でした。大学1年生のときに銀座で映画会社・日活の方にスカウトされたんです。映画を見ることは好きだったので、軽い気持ちで話を受けました。あまり深く考えずに俳優という仕事に就いたといっていいでしょう。当初は通行人などその他おおぜいのエキストラのような役ばかりで、セリフもほとんどありませんでした。

すでに大学を中退してしまっているにもかかわらず、端役を続ける毎日。このまま俳優として芽が出ないのはまずいと感じて、ちょっとした役でも何とか監督さんに自分の存在を知ってもらい、次の作品ではもっと重要な役で使ってもらいたいと努力を重ねました。

撮影前から現場を下見したり、役作りのヒントになる情報を集めたりして本番の撮影に備える。いざ本番になったら、全身全霊で役に魂を捧げる。こうした努力を続けていたら、しだいに重要なポジションの役をいただき、映画に限らずテレビドラマにも出演することができるようになりました。おかげさまで、2017年にはデビュー55周年を迎え、現在も俳優として仕事を続けさせていただいています。

僕らはあくまで監督やプロデューサーが「○○という俳優を使いたい」という言葉から始まる職業です。ですから、どうしても仕事に波はあります。実際、若いころに半年~1年ほど仕事がない時期もありました。でも、その間にアルバイトで別の仕事をやったことは一度もありません。みずから監督に売り込むような営業活動もしたことがありません。何をしていたのかというと、「人生はいいときもあれば悪いときもある」と開き直り、大いに遊んでいました(笑)。

人生の運気は風のようなものです。いい風が吹くまでジタバタしないで待っていようと覚悟を決めていました。この遊んでいた時期が、後の俳優としての成長の糧になったと思っています。ドライブや旅行で訪れた各地で見た景色や出会った人、これまで知らなかった文化や食事。遊びを通じて体験したことは、俳優・藤竜也の器や人間性を大きくしてくれたと思っています。

若いころから体を鍛えることが好きでした。筋肉トレーニングが大好きで、現在もスポーツクラブに週に3~4日は通っています。若いころのようにハードなトレーニングはあまりしません。腹筋や背筋運動、ストレッチがメインです。ただし、ウォーキングだけは別です。真冬でも真夏でも、スポーツクラブの近くにある公園を2時間ほどかけて、約11㌔㍍を歩きます。ウォーキングは同年代の友達といっしょにすることも多く、仲間との会話も楽しんでいます。

『東の狼』
2月3日(土)全国順次公開
©Nara International Film Festival & Seven Sisters Films

ふだんから体を鍛えていますが、老いは感じます。2018年2月から全国の劇場で公開される映画『東の狼』では、オオカミは絶滅していないと信じ、深く山中に入ってオオカミを探しつづける猟師を演じました。

当然、撮影場所はほんとうにオオカミが出てもおかしくないと思えるような山奥。山の急斜面での撮影が1日続いた日は、撮影終了後に足がいうことをきかないほど疲労し、下山のさいは近くの木を手でつかみながら、何とか宿までたどりつくような状態でした。厳しい撮影だったのは間違いないのですが、若いころはこんなに疲れなかっただろうと思わずにはいられません。

睡眠は毎日きっちり8時間取るようにしています。19時~20時までには寝て、朝の3時半~4時ごろ、遅くても5時半までには起きます。食事は1日2回。夕食は晩酌のおつまみ程度ですが、朝はしっかり食べるようにしています。間食はほとんどしません。料理が好きなこともあり、撮影で家を離れたときは自分で食事を作ることも多いです。『東の狼』の撮影中も毎朝欠かさず、同じ宿に泊まっていたスタッフの分も含め、朝食を手作りしていました。

じっくりと30分ほど炒めたタマネギと鶏のだしを混ぜ合わせた野菜スープに、スープのだしで使った鶏をほぐしたチキンサラダ、目玉焼き、ベーコン、フランスパンなどをよく食べます。メニューの好き嫌いもありません。

魚よりも肉を食べることが多く、クセのある料理が好きです。くさや、タイ料理でおなじみのパクチーといった香草(ハーブ)をふんだんに使った料理も好物です。海外旅行で東南アジアに行ったさいは、現地の地元料理を現地の人が食べている屋台で食べるのが楽しみです。

遠い先ではなく近い未来を充実させるため刺激を求めています

[ふじ・たつや]——1941年、中国・北京生まれ。1976年に映画『愛のコリーダ』で第1回報知映画賞主演男優賞を受賞。映画『愛の亡霊』、TBS系ドラマ『時間ですよ』、NHK大河ドラマ『北条時宗』、NHK連続テレビ小説『風のハルカ』、テレビ朝日『やすらぎの郷』など数多くの作品に出演。2018年2月から全国で公開の映画『東の狼』では、オオカミを追い求める猟師役として主演を務める。

12年ほど前に心臓のバイパス手術を受けました。手術をきっかけに、病院には3ヵ月ごとに通い、手術の予後はもちろん、全身の健康状態をチェックするようになりました。

日々、体を動かし健康診断も受けているからか、ビールやウイスキー・ソーダを1日3~4杯、タバコも1日40本ほど吸っていますが、いたって健康です。病気になったことは不運でしたが、一病息災だといまでは思っています。

僕はこれまで、仕事でもプライベートでも過去を振り返ったことはありません。もちろん記憶に残る作品はありますが、よかったとか悪かったとかは考えない。常に未来だけを考え、先の人生を見て歩んできました。とはいえ、遠い先を見ているわけでもありません。今日や明日といった、近い未来をいかに充実させるか。このことを意識して日々を送っています。

70歳を超えれば誰でも老いは感じます。一歩ずつ死に向かっていることもわかっています。でも、その日がいつ訪れるのかは誰にもわかりません。いつ吹くかわからない、風のような人生の運気と同じだと僕は思っています。だから仕事も遊びも若いころとまったく変わらず〝いま〟を全力で楽しむようにしています。

仕事では、これまでしたことのない役を演じてみたい、という欲望がまだまだあります。俳優という仕事の魅力は、善人も悪人も演じられること。撮影中は別の人間になりきれるんです。正直、本物の自分とかけはなれている役を演じると体も心も疲れますが、この疲労感が心地いいんです。

日々の生活でも同じだと思います。クラゲのように海中をプカプカと漂っているだけの刺激のない毎日では、生活に〝ハリ〟が出ません。だから常に刺激やハリを求めています。体が動くかぎり、セリフを覚えられるかぎり、仕事の依頼をいただけるかぎり――。

俳優という仕事をこれからもずっと続けていきたいと考えています。そんな僕の姿を映画館やテレビで見て、気づきや感動を届けられれば幸せです。