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帯状疱疹はワクチン接種と早期治療が重要で秋は後遺症の神経痛が悪化しやすい

皮膚科
外山皮膚科院長 外山 望

水痘ウイルスが原因で起こる帯状疱疹はワクチンの普及で発症の季節性が消失

[とやま・のぞむ]——1946年、宮崎県日南市生まれ。熊本大学医学部卒業後、同大学同学部附属病院麻酔科、宮崎医科大学医学部附属病院皮膚科、宮崎県立宮崎病院勤務を経て、1983年に外山皮膚科を開院。1997年から帯状疱疹の疫学調査「宮崎スタディ」に取り組み、現在も継続中。

帯状疱疹たいじょうほうしんは、主に体の片側に赤い発疹ほっしんが帯状に広がり、チクチクとした強い痛みが起こる疾患です。帯状疱疹の原因は、子どもの頃に感染した水痘すいとう(水ぼうそう)ウイルスで、水ぼうそうが治った後も、ウイルスは体内の神経節(神経の中継所)に潜伏しています。加齢や過労、過剰なストレス、他の病気などによって免疫力が低下すると、ウイルスが活発化して帯状疱疹を発症するのです。

悪化すると服が触れるだけでも痛みが起こる帯状疱疹ですが、通常は発症から3週間~1ヵ月程度で皮膚症状は治まります。帯状疱疹のやっかいな点は、皮膚症状ではなく後遺症です。帯状疱疹後神経痛と呼ばれる後遺症が残ると、数ヵ月から数年にわたって激しい痛みが続く場合もあるのです。

私が所属する宮崎県皮膚科医会は「宮崎スタディ」という疫学調査に取り組んでいます。1997年から始めた調査は現在も進行中で、宮崎県全域で帯状疱疹の患者さんのデータを集めて解析しています。

水痘ワクチンが定期接種になる前は、10代と70代の発症率が高かったが、水痘ワクチンの定期接種化以降は、20~40代の帯状疱疹発症率が上昇するようになった

2017年に私たちが新たに発表した宮崎スタディの内容によると、宮崎県の人口は107万9000人で、21年前と比べて8.3%減少しています。一方、帯状疱疹の患者数は1年間で4243人から6555人と、54.5%も増加していることが分かりました。発症率も、年間1000人当たり3.61人から6.07人と、68.1%も上昇しています。患者数と発症率は50歳以上から急増し、男女ともに60代に多いことも判明しています。

20年以上にわたる宮崎スタディの調査から、これまで「帯状疱疹は夏に起こりやすい」とされてきました。水ぼうそうが流行する12~1月は水痘ウイルスと接触する機会が増えるため、水痘ウイルスに対する免疫力が強化されます。一方、夏はウイルスとの接触が少ないことに加え、暑さで免疫力が低下しやすいことから、帯状疱疹の発症が多くなると考えられていたのです。

ところが、2014年に水痘ワクチンが定期接種となってから、帯状疱疹の動向にも変化が現れるようになりました。水痘患者さんの激減に伴って、冬に水痘ウイルスに接する機会が減ったことから、2014年まで存在していた季節と発症の関係がなくなったのです。帯状疱疹は夏だけでなく、年間を通して注意しなければならない疾患となりました。

帯状疱疹は、皮膚科などで早期に治療を受けなかった人や、発症初期に強い症状が現れた人が後遺症を残しやすくなります。帯状疱疹は、早期に治療を受けることで症状悪化や神経痛への移行を抑えることが可能です。皮膚に症状が現れて3日以内に治療を受けられるかどうかで、予後は大きく異なります。帯状疱疹は発症する1週間ほど前から体の片側に痛みが起こります。異変を感じたら、すぐに医療機関を受診しましょう。

帯状疱疹の予防にはワクチン接種が著効で後遺症の神経痛は温めることで和らぐ

帯状疱疹後神経痛には湯たんぽやカイロで体を温めることが効果的

帯状疱疹の発症や後遺症の神経痛を防ぐには、水痘ウイルスに対抗する免疫力の強化が欠かせません。有効な対策はワクチンの接種です。欧米ではワクチンによって帯状疱疹の発症率が下がり、重症化も抑えられて帯状疱疹後神経痛の患者数が減少したという報告があります。2016年から、日本でも帯状疱疹のためのワクチンの接種が導入されました。50歳以上から受けることができるワクチンは発症予防の観点から、着実に成果を積み重ねています。

治療の遅れなどが原因で、帯状疱疹後神経痛が残ってしまった人は、秋の寒暖差に注意しましょう。酷暑だった夏から急に気温が下がる秋は、体が冷えて血流が悪くなり、神経痛が悪化しやすい季節です。痛いからといって、水や氷で患部を冷やすのは帯状疱疹後神経痛には逆効果なので要注意です。

家庭でできる帯状疱疹後神経痛の対策として、患部を温めることをおすすめします。体を温めることによって血液の流れが改善されると、酸素や栄養が全身の細胞に行き渡ります。さらに、痛みを生じている物質の排出が促され、傷ついた神経の修復も速まることが期待できます。

患部を温めるには、入浴が最適です。入浴の可否は事前に医師と相談する必要があるものの、基本的には問題ありません。入浴の他、湯たんぽやカイロで患部を温めてもいいでしょう。患部に直接当てるよりも、タオルを挟むことで、強い刺激を与えずに済みます。低温ヤケドを防ぐため、就寝中は体に湯たんぽやカイロが触れたままにならないようにしてください。