雨野 千晴
「うっかり女子でも大丈夫」をモットーに七つの肩書で〝多動な活動〟を展開する雨野さん。うっかりしても自分を嫌いにならず、前向きに生きられる〝雨野流ちゃっかり生活〟のヒントをお届けします。
ADHDな私が寝坊じゃないのに遅刻する理由
私を含め、ADHD傾向のある方は時間を守るのが苦手な人が多いようです。しかし、意外に思われるかもしれませんが、私はほとんど寝坊をしないんです。毎朝5時か6時には目が覚めています。それでも遅刻してしまうことが多いのは、家を出るまでに「あ、まだ時間があるから洗濯機を一回まわしちゃおうかな」とか、「この本の続きをちょっとだけ読もうかなぁ」とか、やりたいことを突発的に始めてしまい、結局ぎりぎりになって家を飛び出す……という感じなのです。時間に合わせて予定を進めることが苦手なんですね。「今、目の前にある自分の関心事」に意識が向いてしまうことが多いので、なにかをしている途中で別の作業を始めてしまったり、集中しすぎて時間がたつのを忘れてしまったりするのかなと思います。
そんな私は、小学校の教員を退職した後、企業コンサルタントの会社で3年間コンサルタントとして働いていました。お客様と約束した訪問時間にうっかり遅刻してしまっては、信用問題になりかねません。そこで私は、「絶対に遅刻しない方法」を編み出しました。お化粧もせず朝ご飯も食べず、とにかく着替えてすぐに家を出る。道に迷いがちなので、目的地には2時間前に到着するように出発する。早めに最寄り駅に着いた後は近くのカフェに入り、身支度を整えて朝ご飯を食べ、約束の時間までそこで仕事をすることで遅刻を防いでいたのでした。しかし、この作戦は特別な約束の時には効力を発揮しますが、毎日となるとなかなか大変ですよね。
今年に入ってから、久しぶりに歯科医院へ通っていたのですが、通院の日にちを間違えてしまったり、時間に遅れてしまったりを多発してしまいました。私は毎回、申し訳なさから消え入りそうな声で歯科医院におわびの連絡を入れていました。何回目かの通院時に、先生が「雨野さんは朝が弱いのかな?」と声をかけてくれました。「ええ、朝に起きる時間は早いのですが、家を出るのが毎回遅くなってしまって……申し訳ありません!」と答えると、先生は「え! そうなの!? なになにどういうこと!? 詳しく聞かせてよ」と興味津々、前のめりで「早起きなのに遅刻しがち」な私の実態を聞いてくれました。
実はこの歯科医院には、自閉のある長男も通っています。彼は4~5歳の頃、障害者専用の歯科医院で身体拘束をされてギャン泣きで検診を受けたことがあります。その後、一般向けの歯科医院であるこの先生に相談したところ、イスに座る→口を開ける→10秒だけ歯磨きをする→そして終わった後は毎回ガチャガチャでおもちゃができる——そんなスモールステップと楽しい雰囲気でずっと寄り添ってくれました。12歳になり、今年初めて虫歯ができてしまった彼は以前のように拘束されることもなく、自分で口を開けて治療を受けることができたのでした。
まさか先生に自分のことも相談するとは思ってもいませんでしたが、先生は「おもしろいなぁ」といいながら、「時間が遅れても大丈夫な平日夕方の予約にしてみましょう。雨野さんは待つことが気にならないみたいだから、もし遅れちゃった時は別の患者さんを先に治療するから大丈夫だよ」と提案してくれました。さらに私も、「先生! 予約時間より30分早く予定表を入れてみます」とお伝えすると、「いいね! じゃあそれもやってみよう!」と、すてきな受付のお姉さんと一緒に笑って答えてくれたのでした。
その後、この二本立ての工夫が功を奏し、私は一度も予約時間に遅れることなく1ヵ月間治療に通うことができました。それには、具体的な工夫はもちろん、先生がどうやったらクリアできるかを一緒に楽しみながら考え、応援してくださったことが大きかったのではないかなと思います。先生のように、子どもにも大人にも、それぞれが持つ特性に対して、どんな工夫をしたらいいかを楽しみながら考えられる自分でありたいなと思っています。