認知症予防はまず立つこと!「ラクラク起立」で第一歩

Dr.朝田のブレインエクササイズ!

メモリークリニックお茶の水理事長 朝田 隆

新型コロナウイルス感染症の流行で外出の頻度が減った方も多いのではないでしょうか。一方で、筋力低下は寝たきりになるおそれもあるため、運動不足には注意が必要です。さらに、歩行などの軽い運動は認知症の予防に有効です。今回は筋力が低下した方でも簡単に立ち上がることができる方法をご紹介します。認知症の予防になるだけでなく、身近な人の介護もらくになるかもしれません。

認知症の予防には動くことが有効で簡単に立ち上がるには重心の移動が大切

[あさだ・たかし]——筑波大学名誉教授。1982年、東京医科歯科大学医学部卒業。同大学神経科、山梨医科大学精神神経科講師、筑波大学精神神経科学教授などを経て現職。数々の認知症の実態調査に関わった経験をもとに、認知症の前段階からの予防・治療を提案している。著書に『その症状って、本当に認知症?』(法研)など多数。

認知症の最大の予防法は運動、特に歩行です。さまざまな研究で認知症に対する歩行の有効性は証明されており、私のクリニックでも患者さんに必ずおすすめしています。

ところが、高齢の方はそもそも立ち上がることすらおっくうになっている人が少なくありません。動かなくなれば筋力が衰え、より動くのがきつくなります。動く頻度が減って認知症になってしまうと、さらに動けなくなり、寝たきりになってしまうおそれもあります。今回は「あなたも理学療法士」というテーマで、イスから立ち上がる簡単な方法をご紹介します。

イスから立ち上がる際には、()()全体を使います。お(しり)から足先までのどこかに問題があれば立ち上がることが難しくなります。下肢には(だい)( たい)()(とう)(きん)(ない)(そく)(こう)(きん)(はん)(けん)(よう)(きん)など、起立動作に重要な役割を担う大きな筋肉がいくつもあります。加齢に伴って立ち上がることが困難になるのは、下肢の筋肉が衰えることが主な原因です。

ラクラク起立

さて、今回ご紹介するのは、「ラクラク起立」です。図中にある縦の線は重心の位置を表しており、①から④の動きの中で移動しているのが分かります。最初はイスの中央付近、最後はイスの少し前にあります。一連の動作は重心を移動させることが目的で、重心を移動させることでらくに立つことができます。

ラクラク起立は②から④のまでの動きが肝になります。②から③にかけて、座っている姿勢から上半身を前に倒します。同時に両方の手をひざの下まで下ろしますが、その際に「両手で大きな石をつかむ姿勢」を意識しましょう。無意識に下肢に力が入る一方で、手はダラリと脱力させることができ、動作がらくになります。

大きな石をつかむ動作を意識するのには、もう一つ理由があります。十分に前屈することが可能になって重心をしっかり前に移せるため、次からの動作がよりスムーズになります。この動作を行うと、お尻が③の絵のように自然とイスから浮き上がっているはずです。体の重心が前に移動したときに足の裏でしっかり体重を支えると、お尻の部分は自然と前に移動して持ち上がるようになっています。

ラクラク起立を行えば、少ない力で立ち上がることができる

この姿勢であれば、少ない力で自然と次の動きにつながります。まず足底に力が入り、下から上への力が自然に入るようになります。また、④の絵にある三つの矢印のようにひざとお尻が前に出ると、()(かん)(せつ)から上の胴体と頭が伸びてしっかりと立つことができます。

最後に転倒の危険についてお伝えしましょう。特に最初の前屈動作で勢いをつけて前のめりになると、前に突っ込んでしまいかねません。前屈動作は極力ゆっくり行ってください。

誰かにラクラク起立を指導する際は、その人の正面に立つようにしましょう。前のめりになりそうな場合は、手のひらを伸ばして額をがっしり受け止めてください。驚くほど簡単に倒れかける動作が止まるはずです。

人の頭の重さは体重の約10%を占めており、重心を移動させる際に(かなめ)となっている場所です。額の動きにストップをかければ、体全体の勢いを止められるのです。ただし、首に過剰な負担をかけてしまいかねないため、緊急時の対応と考えてください。

ラクラク起立を習得すれば、立ち上がることへの抵抗感が減るでしょう。立ち上がることができたらまず一歩を踏み出し、歩く頻度を増やして認知症や寝たきりを回避しましょう。