「お帰りなさい!」の声が返ってくる、行きつけの居酒屋「亀勢」(神奈川県川崎市中原区)には、青森県弘前市にある六花酒造が造る日本酒『白藤』が置いてあります。弘前市内の店以外に置いてあるのは亀勢だけだそう。白藤は冷やでよし、燗でよしの酒なのです。
居酒屋の料理と酒の味、雰囲気を楽しむには一人がいい。おおぜいの仲間といっしょだと、料理や酒が中心ではなくなってしまいます。居酒屋は、常連さんや店主の親父や女将さんとの会話を楽しんだほうがいいのです。
日本にはいろいろな銘酒がありますが、私にとっての双璧は『黒龍』と『十四代』でしょう。ともに入手困難なお酒ですが、JR南武線・武蔵新城駅近くにある居酒屋「五味鳥」では、飲み比べることができます。『くどき上手』『豊盃』『出羽桜』『而今』『飛露喜』『あぶくま』なども、私の好みのお酒です。
お酒の好みは人それぞれ。「冷やで飲むか、燗をして飲むか」など、飲み方も人によって好みが異なります。燗酒に向いているのはコハク酸などの有機酸が多く含まれている日本酒で、冷やすとすっきりした味でなくなる気がします。
日本酒は発酵する過程でコハク酸などの有機酸が作られます。ワインと日本酒の醸造は、アルコール発酵という点で共通しているものの、根本的に原料の性質が異なります。ワインの原料になるブドウの果汁は、含まれるブドウ糖や果糖はそのまま発酵できますが、日本酒では原料(酒米)のデンプンをブドウ糖に変える必要があります。
居酒屋文化に関する著書が多い太田和彦さんが書かれた『居酒屋百名山』という本では、酒と料理、雰囲気がいい居酒屋が全国から選ばれ、紹介されています。百名山(居酒屋)の1つ、大阪玉造にある「ながほり」は、阪神大震災で被害を受けたものの、いまではミシュランの星を獲得した名店になっています。東日本大震災で被災した気仙沼の「福よし」も復活しているようです。地元の食材を使ったおいしい料理と酒を楽しむことは、地域の活性化につながります。居酒屋は地域を興し、盛り上げる核となる存在といえるでしょう。
居酒屋ではなく、酒屋の店内でお酒を飲むことを「角打ち」といいます。最近では、角打ち好きのお客さんも増えてきているようです。酒屋近くに住む酒好きが1杯やる場所は、まさに究極の社交場といえるでしょう。最近では、大きな駅の構内でも、角打ちスタイルで日本各地の地酒を楽しむことができるようになりました。
日本酒離れが進み、日本酒の生産量が減少しています。日本酒ファンを増やす対策の1つとして、新しいタイプの日本酒が続々と造られています。その代表が、スパークリングタイプの日本酒『獺祭』です。栓を開けたときは天井まで飛んで驚いたことを覚えています。
兵庫県西宮市では日本酒の普及を図るために、ハレの日は清酒で乾杯することを条例で定めています。海外でも日本酒が飲まれるようになり、日本酒文化はますます深化すると思います。健康に乾杯!