カシスはアントシアニンをブルーベリーの4倍も含む
ヨーロッパ原産のベリー類「カシス」はフランス語です。カシスは英語では「ブラックカラント」、和名では「黒房スグリ」と呼ばれ、ヨーロッパやニュージーランドなどの 冷涼な地域で栽培されています。
日本では1965年に弘前大学の望月武雄教授(当時)がヨーロッパからカシスの苗木を取り寄せたのが始まりといわれています。その後、1975年から本格的に栽培が開始されたカシスは、青森市の夏季冷涼な気候が栽培に適していたことから市内全域へと栽培地域が広がり、いまでは11.4㌧と日本一の生産量を誇っています。長い歴史の中で、品種改良などの人の手を加えていない青森産のカシスは、カシス本来の姿と味そのままに栽培されています。
カシスは、熟すと直径1㌢程度の黒色になる果実で、野趣あふれる酸味と独特の香りが特徴です。カシスには抗酸化物質のポリフェノールの一種であるアントシアニンが、ブルーベリーの3~4倍も含まれています。特にカシスに含まれる「カシスアントシアニン」には、さまざまな健康効果が報告されています。
● 末梢血流改善作用
ふだんから冷え症の自覚症状を持つ女性4人(22~34歳)にカシスアントシアニン50㍉㌘を摂取してもらい、冷水に1分間手を漬けた場合の体温の上昇ぐあいを測定した結果が報告されています。
カシスアントシアニンを摂取していない場合は、15分たっても体温が戻らなかったのに対し、摂取した場合は10分後に体温が戻りはじめました。これはカシスアントシアニンによって血流が改善されたことを示しています。肩こりや冷え症、目の下のクマの解消にもカシスアントシアニンの効果が期待できる試験結果といえるでしょう。
● ピントフリーズ現象の抑制作用
ピントフリーズ現象は、目の中の毛様体筋というピントを合わせるための筋肉が凝った状態になると起こります。目の焦点の調節がきかなくなって、一時的な近視状態になる現象です。
ピントフリーズ現象がカシスによって抑制されるという効果が報告されています。弱度近視のある21人(平均年齢20.9歳)にカシスアントシアニン50㍉㌘を含むドリンクと、含まないドリンク(プラセボ)を飲んでもらいました。その後、被験者の目が一時的な近視状態になるような強度の視覚負荷作業として、パソコン作業を2時間行ってもらいました。
作業前後の屈折度数(正視に近い状態にするためのレンズの度数)の平均値を比較してみると、カシスアントシアニンを飲んだグループに比べてプラセボグループの変動は大きく、両者間には有意差が認められました。この結果は、パソコン作業時にカシスアントシアニンを摂取してから作業した場合、摂取していないときに比べて、一時的な近視化が抑制されることを示しています。
● 肌の老化改善作用
カシスアントシアニンには、女性の更年期障害の不定愁訴を緩和する食品成分である「フィトエストロゲン」の作用があることが近年報告されています。フィトエストロゲンは植物由来で、女性ホルモン(エストロゲン)と似た作用を示します。
カシスアントシアニンは肌のシワ・たるみも改善
女性は加齢によるエストロゲンの体内の濃度低下に伴い、動脈硬化(血管の老化)や骨粗鬆症の発症リスクが高まります。また、エストロゲンは皮膚の細胞に作用し、弾力性に関係するコラーゲンやエラスチンの調節をすることから、シワやたるみの形成にも関与しています。
更年期のモデル動物として卵巣を摘出したラットにカシスアントシアニン3%を含む飼料を3ヵ月間投与した結果、皮膚のコラーゲン層の厚みやエラスチン、ヒアルロン酸の蓄積が改善することが示されています。この実験結果から、カシスアントシアニンには、エストロゲン不足による肌の老化に対する改善効果が期待されています。
青森県産の「あおもりカシス」は、2015年に農林水産省の地理的表示保護制度(GI)登録の記念すべき第1号の農林水産物に認定されました。GIは、地域で長年育まれた特別な生産方法によって、高い品質や評価を獲得している農林水産物・食品の名称を品質の基準とともに国に登録し、知的財産として保護する制度です。
GIに認定されたことを機に、大手食品企業による「あおもりカシス」を使用したチューハイやパン、ジャムなどの加工品の開発が盛んになっています。また、アントシアニンの機能に着目したサプリメントも販売されています。
青森県は、カシス以外にも特産品が多く存在します。カシスのように機能性を明らかにすることで青森県の地域活性化に貢献できれば、研究者としてこれほどうれしいことはありません。