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地域医療の専門医不足を解消する「E-コンサル」に注目!

ニッポンを元気に!情熱人列伝

株式会社Medii代表取締役 医師 山田 裕揮さん

医療や福祉の分野でオンラインを利用したサービスが増える中、地域の医師と専門医をつなぐ「E-コンサル」が注目を集めています。医療環境に恵まれない地方在住の難病患者でも専門的な治療が受けられる社会の実現を目指す「E-コンサル」を構想したのは、医師の山田裕揮さん。立ち上げまでの道のりと、今後の展望について伺いました。

中学2年で体調をくずし医大生の時に難病であると分かりました

[やまだ・ひろき]——和歌山県和歌山市出身。和歌山県立医科大学卒業。大学在学中に難病の自己免疫疾患を発症。卒業後は聖路加国際病院、慶應義塾大学病院などで勤務。医師・難病患者の立場から、地域における専門医不足・専門医格差の問題を痛感し、専門医の知見を地域医療に生かす「医師専用オンライン専門医相談サービス」を構想。2020年にMedii社を設立し、「E-コンサル」を立ち上げる。日本リウマチ学会専門医・指導医としても活動。

難病といわれる疾患の治療では、通常の医療現場では対応し切れない「専門医」ならではの経験や知見を求められることがあります。しかしながら、地方を中心に専門医が少ない、あるいは存在しない地域があることも事実です。地域間における専門医格差の問題は、受けられる医療の質と直結します。とりわけ、難病の患者さんにとっては切実な問題といえるでしょう。

地域間における専門医の格差問題を解決する事業を展開しているのが、株式会社Medii(メディ)代表の山田裕揮(やまだひろき)さん。医師であり、みずからも難病患者でもある山田さんに、クラウドホスピタル化を実現し注目を集めている「E-コンサル」への想いについて伺いました。

「E-コンサルのように、専門医の知見を必要としている地域の医師へ届けるしくみの必要性を痛感しているのは、私自身が難病患者であることも大きな理由になっています。私の持病である自己免疫疾患は、本来なら自分の体を守ってくれる免疫細胞が自分自身の細胞を攻撃することで起こる難治性の疾患です」

山田さんが自己免疫疾患を発症していることが分かったのは、和歌山県立医科大学に通っていた時。体調に異変を感じるようになったのは、中学2年までさかのぼると振り返ります。

「それまでは健康な体でしたが、中学入学後から倦怠感(けんたいかん)に襲われたり、頻繁に下痢(げり)が起こったりするようになりました。県内にあるさまざまな病院を巡って診察を受けても原因が分からず、結果的に病名が分かるまで9年間もかかりました」

正式な病名がついたものの、当時は山田さんの周辺に自己免疫疾患を治療できる専門医が存在しませんでした。そのため、山田さんは治療を受けるために和歌山県から大阪府まで通院することもあったそうです。

「医学生時代に診断を受けた時は、『まさか自分が……』という思いでした。その後、治療を受けるために大阪へと通いながら、『全国には私のような難病患者さんがおおぜいいる。診断や治療にあたり、時間的・経済的な負担をかけさせない方法はないだろうか』と考えるようになりました」

その解決にあたって山田さんがキーパーソンと考えたのが、「専門医」の存在。難病に対する豊富な知見と治療経験を持つ専門医は、難病の治療に不可欠といえます。しかしながら、現実問題として専門医の多くは大都市の大学病院や総合病院に在籍しています。当時の山田さんのように、地方在住の難病患者さんは、専門医の診察や治療を直接受けにくい状況といえるのです。

自己免疫疾患の患者でもある山田さん。過剰な白血球を取り除く白血球除去療法を定期的に受けている

「医科大学を卒業後、私は医師として大学病院や総合病院で研修を受けました。その後、自分と同じ境遇にある難病患者の力になりたいと考え、リウマチ膠原(こうげん)(びょう)の専門医にもなりましたが、私一人で()ることができる患者さんの数には限界があります。医師の立場で難病の患者さんを治療するよりも、地域間の医療格差を解消するしくみ作りをすることで、より多くの難病患者さんのお役に立てると考えました」

山田さんは短期間ながら、研修医として鹿児島県の奄美大島(あまみおおしま)での地域医療も経験しています。過疎化が進んで社会的なインフラの整備不足が目立つ島嶼(とうしょ)地域は、地域住民が受けられる医療の質も決して満足度が高いとはいえません。

「過疎地域における不十分な医療体制は、住民の皆さんが地域を離れてしまう大きな原因の一つです。離島を例にすれば、不十分な医療によって住民不在の島が増えることは、日本の国防を考えるうえでも避けなければなりません。地域医療の格差問題は患者さんの健康問題のみならず、過疎化対策や安全保障といった日本全体の問題でもあるのです」

そこで山田さんは、難病治療の専門医が持つ知見と経験を、オンラインのネットワークによって地域医療に生かす「E-コンサル」の事業を構想。インターネットのクラウド上に専門医が集結する「クラウドホスピタル」の事業構想が立ち上がったのです。

専門医が持つ知見を主治医に伝えて地域の難病治療に生かしたい

山田さんは講演会や学会を通じて、地域間における専門医の格差問題の改善を提案している

山田さんが立ち上げた「E-コンサル」とは、専門医と主治医をオンラインでつなぎ、難病や特定疾患に関する知見を専門医に無料で質問できるオンラインサービスです。主治医が質問する場合は、Medii社が開発したアプリケーションにアクセスして患者に関する情報を提供。主治医から寄せられた質問や情報は、内容に応じて適切な専門医に提供され、回答を促します。主治医は専門医から届いたアドバイスを患者の治療に生かすというのが基本的な流れです。E-コンサルは、医師のための専門医によるセカンドオピニオンといっていいでしょう。

「現在、専門医の先生方による専門領域は、私の専門であるリウマチ膠原病内科をはじめ、感染症内科や呼吸器内科、血液内科、神経内科などすべての専門分野に対応しています。主治医が質問してから専門医の回答が届くまで、全専門領域/夜間の時間も含めて平均約一時間程度です。ほぼすべての回答を、24時間以内に受け取ることができます」

山田さんによると、専門医のアドバイスを実際の治療に生かすかどうかは、主治医の判断に任されているとのこと。主治医の質問に対して、専門医からは複数の治療案が提示されることも多く、主治医と専門医の間で治療に関する意見の相違が出ることはほとんどないそうです。

「主治医にとって専門医とのコミュニケーションは、治療薬の知識を深めるうえでも役に立ちます。難病の治療結果を高めるには新薬の開発が欠かせませんが、新しい治療薬が開発されても、地方にいる医師の先生方まで情報が届きにくい現実があります。E-コンサルを活用すれば、地方にいながら専門医に新薬の情報を尋ねたり、実際に服用した患者さんの症例を確認したりすることができます」

どこに住んでいても良質な医療を受けられる社会作りを目指します

「E-コンサルの着想自体は、決して新しいものではないと思います。ほかの医師の先生方の中には、日々の診療の中でE-コンサルの必要性を感じている人は多いはずです。ただ、医師というキャリアを犠牲にしてまで取り組みたいと思う方がいなかったのだと思います。私は医師でありながら難病の患者でもありますから、『どこに住んでいても専門的な知見が届く医療を受けたい』という患者さんの切実な願いがよく分かるんです。E-コンサルは、私自身が人生を懸けて取り組むべき事業だと確信しています」

医師どうしのコミュニケーションツールとして活用されている「E‐コンサル」

現在、E-コンサルには1000人以上の専門医が登録されています。全国の医師から質問が寄せられ、専門医が回答する医師どうしのコミュニケーションは、山田さんが「クラウドホスピタル」と呼ぶにふさわしい医療の姿です。

「まずは国内における専門医の先生方のネットワークを構築していくのが当面の目標です。その後は、数千~数万人の医師が在籍する世界的なクラウドホスピタルとしての機能を果たすことも夢ではないと思っています。離島を含む地域医療は、志のある一人の先生にすべての治療領域を任されている面もありますが、E-コンサルによって、同じ一人の先生でも高度な専門医療の知見を発揮することが可能になるのです」

山田さんによると、E-コンサルを利用している全国の医師からの評判は上々とのこと。実際に、ある離島にある診療所の医師と患者さんたちから感謝の声が届いているそうです。ほかにも、ある地方の総合病院からは、E-コンサルによってコストを抑えながら専門医の知見が得られ、より広範囲の疾患の患者さんを診ることができるようになったという報告を受けているとのこと。一方、アドバイスを送る専門医側からは、「積み上げた高い専門性を全国各地の難病治療に生かせることに大きな社会貢献性を感じる」という声が届いているそうです。

「一昨年からのコロナ()以降、テレワークの普及によって地方へ移住する人が増えています。生活や仕事環境の多様化は、自分らしく生きるために望ましい傾向ですが、地域によって受けられる医療の格差は明らかです。どこに住んでいても質の高い医療を受けられる社会のしくみを、E-コンサルを通じて実現させたいと思っています」