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やけどによって皮膚が変色しましたが、メイクで私の人生は変わりました

ニッポンを元気に!情熱人列伝

NPO法人メディカルメイクアップ アソシエーション・インストラクター 長尾 陽子さん

白斑や太田母斑、血管腫といった病気や、やけど・手術などで起こる皮膚の変色。顔や手など目立つ部分に変色が起こった場合、精神的に大きな負担になることがあります。皮膚の変色を補うメイクを指導する団体・NPO法人メディカルメイクアップアソシエーションに所属する長尾陽子さんご自身も、皮膚の変色を専用のメイクでカバーしているそうです。皮膚に変色が起こった経緯と、現在の活動についてお話を伺いました。

20代で顔や上半身をやけどして鏡を見ることすら止められた

[ながお・ようこ]——福島県生まれ。大学生の時に大きなやけどを負う。やけどで生じた皮膚の変色を補うメイクについて学び、2002年、化粧品会社に就職。2016年、NPO法人メディカルメイクアップアソシエーションのインストラクターとして活動を開始。

「私の人生はメイクで一変しました。今、肌の変色に困っている多くの人に、メディカルメイクアップの魅力を知ってもらいたいと思っています」

そう話すのは、NPO法人メディカルメイクアップアソシエーション(以下、MMAと略す)のインストラクターを務める長尾陽子(ながおようこ)さんです。今では元気に活動している長尾さんですが、大きなやけどを負って入退院を繰り返していた時期があったそうです。

「大学3年生の冬、教師を目指していた私は、翌日に控えた大切な試験のために徹夜で勉強をしました。朝になって朝食を食べようとしたんですが、コンロに火がつかなかったんです。コンロの電池が切れていたのですが、当時一人暮らしを始めたばかりだった私はしくみが分からず、マッチで火をつけようとしてしまったんです」

コンロからガスが漏れ出ていることに気づかず、マッチに火をつけた長尾さん。その瞬間に左手から火が駆け上がり、服に燃え移ったそうです。火が上半身に及ぶ様子は、今も目に焼きついているといいます。

「慌てて服を脱ぎ捨てたら、今度は火がコタツに燃え移りました。無我夢中で『火事だッ!』と叫ぶと、通勤途中だったご夫婦が助けてくれたんです。救急車で搬送されている時、試験のことをぼんやりと考えていましたが、事態はそれどころではありませんでした」

幸い命は助かったものの、上半身のほとんどにやけどを負ってしまった長尾さん。搬送直後に麻酔をかけて救急処置を取らなければならないほどの状態だったそうです。その後、頭と(でん)()の皮膚を移植する手術が数回にわたって行われたといいます。

「やけどなので上半身は()れて膨らみ、しばらくは全身が包帯で覆われていました。鏡を見せてもらえない期間が長かったので、見た目はひどい状態だったのだと思います。治療が進むと、傷が治る時に生じるかゆみに苦しむようになりました。かゆみが絶える時はなく、眠れない夜もありました」

救急救命の治療の後は、再建の治療が行われることになった長尾さん。当時は、動かせるはずの首回りやわき、ひじ、指といったあらゆる部分の皮膚が収縮し、動かせなくなっていたそうです。そのため、形成外科に入院し、何度も手術を受けることになったといいます。

「幸いにも冬だったので、肌の露出部分を少なくすることができました。とはいえ、すべてを服で隠せるものではありません。見えている部分をメイクで補うことができないかと考えたのですが、母が使っている化粧品を試してみても、顔の赤いケロイド状の痕を補えるものは見つかりませんでした」

MMAでは、皮膚の変色を補うメディカルメイクアップの指導を行っている

メイクでやけどの痕を補えるという希望を抱いて技術を習得

体を自由に動かせないことに加え、やけどの痕から「人前に立つのは難しい」と判断し、教師の道を諦めた長尾さん。「命があればなんとかなる」と考え、前向きに治療に取り組んだそうです。長尾さんの人生に大きな転機が訪れたのも、主治医のひとことがきっかけでした。

「形成外科の先生から、メイクで傷痕や皮膚の変色をカバーする方法があると教えてもらったんです。でも、実際にメイクをしてもらった時は、あまりいい印象をえられませんでした」

メイクを受けたものの、「自分のためのメイク」というよりも、「同席している人に見せるためのメイク」という印象を受けた長尾さん。さらに、大きなショックを受けたのは、自然とは程遠いメイクの厚さだったといいます。

やけどによる変色がある長尾さんは、当事者として相手に寄り添った指導を心がけている

「やけどを負った当初に比べ、私の肌は日に日に改善していました。でも、それは私だけの感覚で、多くの人から見れば、それほどメイクを重ねないといけないほどの肌だという現実を突きつけられたんです。一方で、『メイクをもっとうまくすれば、やけどの痕を目立たないようにできるかもしれない』という大きな希望を抱くきっかけにもなりました」

肌の色を補うメイクの技術を学ぶとともに、一般的なメイクについてもメイクスクールで学ぶようになった長尾さん。日々、試行錯誤を重ね、やけどの痕を隠しながらも、自然に見えるメイクの技術を模索していったそうです。

「命があるだけで十分で、やけどの痕はしかたがないとずっと考えていました。見た目は意識していないつもりだったのですが、実際には思ったよりもコンプレックスに感じていたようです。肌の色をメイクでうまく隠せるようになるとともに、自信が高まっていくことを実感しました」

メイク技術の習得に没頭するようになった長尾さん。メイクの勉強会に参加した時、さらなる転機が訪れました。現在、MMAの事務局長を務めている小井塚千加子(こいづかちかこ)さんと出会ったのです。

MMAの特長はインストラクター全員が皮膚変色の当事者

「まだMMAの影も形もなかった頃です。小井塚さんは生まれながらに青あざがある太田母斑(おおたぼはん)で、長年メイクに携わっている方でした。当時、小井塚さんは、皮膚変色のあるたくさんの人にメイクを指導したり、広めたりする団体を立ち上げようとしていて、ありがたいことに、私の経験とメイクの技術に注目してくれたんです」

化粧品会社で経験を積んだ後、MMAに参加した長尾さん。MMAの指導するメイク〝メディカルメイクアップ〟のインストラクターとしての活動が始まりました。メイクを学びに訪れる人たちの「こんなに見た目が変わるなんて思わなかった」「もっと早くメディカルメイクアップに出合いたかった」という声が、なによりもうれしいと長尾さんは話します。

「教師の夢はかなえられませんでしたが、図らずも指導をする仕事に就いたのは運命のようなものを感じます。ほかにも皮膚の変色を補うメイクを指導する団体は複数ありますが、MMAはインストラクターの全員が皮膚変色のある人なんです。私を含めた全員が当事者なので、相手に寄り添った指導ができるのだと思います」

メディカルメイクアップなど、皮膚の変色を補うメイクで大切なのは、専用の化粧品を使用することだと話す長尾さん。皮膚の色を補うメイクは、まずは皮膚の色に近づける必要があり、一般の化粧品では皮膚変色を完全にカバーすることが難しいそうです。

「現在、MMAではオンラインカウンセリングも行っています。これまでは東京、大阪の二ヵ所だけでの活動でしたが、これでもっと多くの人にメディカルメイクアップを知ってもらえると思います。私たちは皮膚変色のあるすべての人に『メディカルメイクアップをしたほうがいい』とはいいません。ただ、なんとかしたいけれど方法が分からないという人に、メディカルメイクアップがあることを知ってほしいんです。皮膚変色で悩んでいる人の助けになりたい——メイクによって人生が変わった私の経験が、誰かの笑顔につながればと願っています」

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