365カレッジ リニューアルのお知らせ

本州最西端の平戸市生月町から介護の世界を変えていきます!

ニッポンを元気に!情熱人列伝
いなほグループ代表、社会福祉士、介護福祉士 塚本 吉弘さん

超高齢社会が急速に進む日本で深刻化する認知症の問題。新しい認知症治療薬の開発が待たれる中、本州最西端の地・長崎県平戸市生月町で「介護の世界を変える」ための活動を展開している情熱人を取材しました。

「認知症の人の気持ち」の話を中心とした、認知症に関する勉強会を地域で展開しています。

[つかもと・よしひろ]——長崎県生まれ。社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、SBT1級コーチ、きらめき認知症トレーナー。大学卒業後、身体障害者施設や老人保健施設に勤務。26歳のときに高校時代から抱いていた介護施設を設立。現在は、いなほグループ代表として、グループホームやデイサービスなどを運営するほか、 認知症の人との関わり方のセミナーや認知症サポーター養成講座も開催。

私が施設代表を務める「いなほグループ」は、長崎県平戸ひらど市の西端にある生月いきつき町で介護施設を運営しています。現在は、認知症の方が入所されているグループホームいなほ、地域密着型の通所施設・デイサービスいなほ、短期間の入所ができる、ほうゆうショートいなほを経営しています。

平戸市内で代々、神社の神主をしてきた家に生まれた私は、高校生の頃から「老人ホームを作る」という夢を抱いていました。祖父母に愛情を注がれて育った私は、「お年寄りが笑顔で暮らす社会を作りたい」という想いが自然に芽生えていたのだと思います。佐賀県にある福祉系大学で学んだ後、障害者施設や介護老人保健施設で経験を積み、26歳のときにいなほグループを設立しました。いなほの命名は、私の好きな言葉である「実るほどこうべを垂れる稲穂かな」を参考にしています。「組織が大きくなっても慢心することなく学びつづけよう」という誓いの気持ちを表現するとともに、私たち職員が入所者さんたちと、いつも・なかよく・ほがらかな関係でいられるようにという願いもこめています。

介護施設の設立という夢をかなえたものの、資金繰りや入所者さん集めなど、立ち上げ当初は苦労の連続でした。心が折れそうになるときもありましたが、「本州最西端の町から介護の世界を変える!」という想いを胸に乗り越えてきました。

いなほグループの設立から約15年がたちました。その間、私は社会福祉士や介護福祉士、介護支援専門員、認知症介護実践リーダー研修修了、介護プロフェッショナルキャリア段位アセッサー、介護技能実習評価試験評価者といった資格を取り、認知症の方と関わるための知識を積んできました。手前みそではありますが、認知症に関する勉強量と知識量は、平戸市内で誰にも負けないと思っています。

いなほグループを設立した当時、認知症は痴呆症ちほうしょうやボケといわれていました。設立当初は周囲から「あそこに行くとボケになるから行くな」など、心ない言葉をいただいたこともあります。社会の高齢化とともに、認知症問題は一段と深刻になっていますが、患者さんやそのご家族以外の人にとって、認知症に対する関心はまだまだ低いと感じています。

塚本さんは地域住民を対象にした勉強会など積極的な活動をしている

そこで私は、認知症をもっと身近な問題と捉えていただくために、認知症への偏見を変えることや認知症予防の大切さ、認知症を患った方の気持ちや家族の心構えなどを、地域センターや公民館で伝える活動をしています。平戸市の委託事業になっている「にんかふぇいなほ」では、認知症やその人の気持ち、認知症ケアに関する基礎知識を伝えるだけでなく、次のような脳を活性化させるトレーニングも紹介しています。

シナプソロジー

シナプソロジー
昭和大学医学部の藤本司名誉教授と民間企業が共同開発をした脳活性プログラムです。「2つのことを同時に行う」「左右で異なる動きをする」といった、ふだんの生活ではあまり行わない動きをすることで脳に刺激を与えます。

スクウェアステップ

スクウェアステップ
25㌢四方の正方形を横に4個、縦に10個並べたマットを使った運動です。リーダーが披露したステップを記憶して、マットの上で同じステップを踏みながら前に進んでいきます。

集まった参加者どうしでシナプソロジーやスクウェアステップに挑戦してみると、会場はとても盛り上がります。できた人は喜び、できなかった人は悔しがって再挑戦。感情を表したり、運動中に助け合ったりすることで参加者どうしの関わり合いが深まり、脳が刺激されます。

言動の個性に応じた適切な関わりをすることで認知症の人は穏やかになれるんです。

いなほグループの施設内でも、私たちは関わりを重視しています。施設内で過ごされている認知症の入所者さんとの関わりに欠かせないのが、入所者さんの行動や様子の変化を職員が記録して作る「24時間行動記録」です。

行動記録は細かくつけるほど、入所者さんごとに異なる特徴が見えてきます。「夜になると暴言が出る」「昼食後にイライラしやすい」といった、入所者さんの特徴に合わせた関わりをすることで、入所者さんとの信頼関係を作るようにしています。

介護の世界を変えるためにこれからも全力投球していきます

職員たちはほんとうによくやってくれています。入所者さんの行動記録を私たちよりも詳細につけている介護施設は、全国でもほとんどないと思います。行動記録をつけはじめる頃は手間がかかりますが、入所者さんの個性を早く知ることで、結果的に職員の負担軽減につながっていると感じています。

とはいえ、認知症の入所者さんとの関わりは容易ではありません。「認かふぇいなほ」でもよく話すテーマですが、認知症の人と関わるときに大切なことは、「認知症の人の気持ちを理解しているかどうか」なのです。

認知症の人は常に不安感を持っています。施設の職員と言葉を交わしてもすぐに内容を忘れてしまいますし、毎日顔を合わせている職員の顔も忘れてしまいます。例えば、見ず知らずの人がいきなりあなたの自宅に入ってきたらどうされますか?怒って追い出しますよね。同じように、認知症の人にとって職員は、毎日自分に話しかけてくる“見ず知らずの人”なんです。入所者さんは、私たち職員が「世話をしてくれる人なのか、自分の行動を止める嫌な人なのか」どうか分かりません。その不安が大きくなると怒りだしてしまうのです。

そのように、認知症の人の言動には一つひとつ理由があります。家族や職員にとっては困った言動でも、認知症の人にとっては自分を守るために意味のある言動なのです。24時間行動記録は、認知症の人が発した言葉や起こした行動を理解するためにとても役立ちます。実際に私たちの施設では、行動記録に基づいた適切な関わりによって、入所者さんの周辺症状を軽減することができています。

認知症の方との適切な関わりは、私たち職員にとっても大変なことですが、介護の世界を変えるためにこれからも全力投球していきます。

塚本吉弘さんドローン動画