プレゼント

心筋梗塞・狭心症は早期発見が大切! 胸の痛みだけでなく首や背中、左腕の痛みにも要注意

循環器科

岡崎医院院長 岡崎 大武

冬は心臓病が増える季節で心筋梗塞や狭心症は早期発見・早期治療が大切

[おかざき・ひろたけ]——2005年、日本医科大学卒業。医学博士。博慈会記念病院、同愛記念病院、日本医科大学千葉北総病院勤務を経て、2021年より現職。日本内科学会認定内科認定医・総合内科専門医、日本循環器学会認定循環器専門医、日本集中治療医学会認定集中治療専門医、日本心血管インターベンション治療学会認定医。日本内科学会、日本循環器学会、日本心臓病学会、日本心不全学会、日本高血圧学会、日本動脈硬化学会などに所属。

冬は、心臓病の発症が増える季節です。心臓の壁は心筋(しんきん)という筋肉で構成され、収縮によるポンプ作用で全身に血液を送り出しています。この心筋に酸素と栄養を供給している冠動(かんどう)(みゃく)に異常が起こって発症するのが虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)です。

冠動脈は心臓を囲むように巡っている血管で、心臓が正しく働くために絶えず酸素と栄養を送っています。生活習慣病などのするさまざまな原因によって血管が狭くなったり((きょう)(さく))血管が詰まって閉塞(へいそく)したりすることで致死的な病気を発症することがあります。その狭窄や閉塞の主な原因は、動脈硬化(動脈の老化)だと考えられています。動脈硬化が進行すると、傷ついた血管壁の中にコレステロールなどの脂質成分が蓄積して血管の内側が隆起します。血管壁の中にできた隆起はプラークと呼ばれ、進行すると血管が狭くなり、血液の流れが悪くなります。激しく動いた時などに血液が不足して心臓が酸欠状態となり、胸に痛みが生じる状態が「狭心症」です。

さらに病状が進行してプラークが破れると、そこに血液成分の一つである血小板が集まります。血小板は破れたプラークから漏れ出た脂質成分と反応し、血管内に血栓(けっせん)という血液の(かたまり)を作ります。その血栓により、冠動脈が完全にふさがり、血流が途絶えて心筋の細胞が壊死(えし)した状態が「(きゅう)性心筋梗塞(せいしんきんこうそく)」です。一方で、血栓は生じるものの多少の血流が残っており、壊死には至っていない状態を「不安定狭心症」と呼びます。

急性心筋梗塞が起こると死に至らしめる危険のある「不整脈」が生じたり、心筋が壊死することで心臓の収縮力が低下して「心不全」が引き起こされたりしてしまいます。

急性心筋梗塞を発症した場合、早期に異変を発見し、できるだけ早く治療を受けることで救命率が高まります。通常、急性心筋梗塞の治療は冠動脈の血流改善を目的として行われ、主なものとして「カテーテル治療」「バイパス手術」「薬物療法」があります。

カテーテル治療は、カテーテルという管を使った心臓の治療法です。カテーテルを手や脚の動脈から挿入し心臓の冠動脈の入り口まで到達させ、ガイドワイヤーを血管の狭窄している部分に通過させます。先に通過させたガイドワイヤーに沿ってバルーンという器具を血管の狭くなっている部分に送り、膨らませて内側から広げます。必要に応じて血栓を除去し、バルーンで広げた病変部位に、ステントと呼ばれる金属でできた網状の筒を留置して再び血管が狭くならないような処置をします。

カテーテル治療はバイパス手術に比べて患者さんの体にかかる負担が少なくすむ利点があり、軽症の患者さんや、体への負担をできるだけ減らしたい高齢の患者さんにすすめられます。

バイパス手術は、狭窄や閉塞がある血管の代わりに、体の中の別の部位の血管を使って新しい血液の通り道を作る治療法です。体への負担が増す欠点はありますが、カテーテルでは治療が困難な場合や治療箇所が複数ある場合に有効な治療法です。

急性心筋梗塞の入院後や狭心症などでは、医師の指導のもとに必ず薬物療法が行われます。使用されるのは、主に以下の3種類の薬剤です。

①ステント植え込み後の血栓の形成を防ぐための抗血小板薬(アスピリン、プラスグレルなど)

②動脈硬化の進行を予防するため、高血圧、糖尿病、脂質異常症などに対する薬

③病気による経年的な心臓の質的変化(リモデリング)を生じにくくする治療薬

心筋梗塞や狭心症の典型的な症状として、胸の中心部の圧迫されるような痛みが挙げられます。狭心症の症状は、典型的には労作によって増悪し、安静にすると治まるのが特徴です。心筋梗塞の症状は20分以上、時には数時間に及び、冷や汗や吐き気、意識が遠のくこともあります。ただし、糖尿病の患者さんは、合併症の神経障害によって痛みに気づかないこと(無痛性心筋虚血)があるので注意しましょう。

気をつけたいのは、首や背中、左肩から腕にかけて起こりやすい「放散痛」と呼ばれる痛みがあることです。データは取っていないものの、私が診察してきた患者さんでも、10人に1~2人程度の患者さんに見られます。

心臓以外の部位に痛みが起こる理由は、〝神経の勘違い〟です。心臓の神経が脳に痛みの信号を伝える際、同じ神経の経路を使っている肩や腕、あご、背中の神経まで刺激されてしまい、痛みとして認識されることがあるのです。ただし、前述の通り虚血性心疾患を発症する患者さんの多くは、胸に痛みや圧迫感を自覚します。肩や腕、あご、背中だけでなく胸にも痛みがある方は、心臓病を警戒して専門医を受診しましょう。

冬に心血管疾患が起こりやすくなる理由は、正確には判明していません。すでに動脈硬化が進んでいる血管が冬の寒さで収縮し、プラークにも刺激が与えられて破れてしまうという説もあります。すでに生活習慣病の治療を受けている人は、「自覚症状がないから大丈夫」と甘く見ずに、心臓病を発症する前に生活習慣を見直すようにしましょう。