メモリークリニックお茶の水理事長 朝田 隆
高齢者の約3割が予備群といわれている認知症は、誰にでも発症する可能性があります。「物忘れが増えた」と不安を感じたら、できるだけ早く対策を取ることが大切です。この連載では、認知症の予防に役立つトレーニングを、認知症研究の第一人者として知られる朝田隆先生にご紹介していただきます。
認知症の対策には運動が有効でフレイル全体の改善にもおすすめ
超高齢社会に突入した日本では、認知症が社会問題となっています。私が厚生労働省の研究班の班長としてまとめ、内閣府が発表した『平成29年度高齢社会白書』によると、2012年における国内の認知症患者数は約462万人で、高齢者人口の15%にも上りました。2025年には高齢者の5人に1人、20%が認知症になるという推計もあります。
認知症は原因によって、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などに分けられます。認知症の症状としては、次の3つに大別されます。
①認知機能障害…記憶力や注意力、推理力といった知能に関する障害
②BPSD(周辺症状)…周囲に迷惑と感じられてしまう行動
③生活動作における症状…あたりまえだった生活動作に支障が出る状態
認知症を根本的に治療できる方法は現在も確立されていません。400万人いる認知症の前段階(MCI)の頃から進行を止めるための治療を行うことが最善といえます。
認知機能の維持や向上に有効と明らかになっているのが運動です。ウォーキングやサイクリングなどの有酸素運動のほか、筋肉を強化する筋力トレーニングも効果的です。有酸素運動や筋力トレーニングは、〝フレイル〟の対策としてもおすすめです。
フレイルとは、日本老年医学会が2014年に提唱した概念です。身体的機能や認知機能の低下が見られ、介護が必要になる前の状態です。フレイルは、認知症やうつなど精神的・心理的要素、筋力低下や運動器の障害などによる身体的要素のほか、独り暮らしや経済的困窮などの社会的要素も含まれます。
フレイルの最大の問題点は、悪循環に陥ってしまうことです。社会的要素の質が低下すると外出の頻度が減り、精神的・心理的要素や身体的要素の低下につながります。認知機能の低下やうつなどがあった場合、運動量が低下して社会的な活動にも支障をきたします。筋力低下や運動器障害が生じると寝たきりにつながり、認知機能や社交性が低下してしまうのです。
フレイルの予防は運動が最適です。心と体は自転車の両輪のように考えてください。心と体を同時に鍛えることが、認知機能はもとより、生活の質全体の向上につながるのです。
認知機能を高めるトレーニングにはさまざまな方法がありますが、この連載では「ブレインエクササイズ」と題したトレーニングを紹介していきます。今回は「指」を使った運動を2つ紹介しましょう。手の指は繊細な動きを必要とする場合が多く、運動をつかさどる脳の領域の広い範囲を刺激することができます。
認知機能が低下している人は、「何かを回転させる」という動きを難しく感じる傾向にあります。今回紹介する指の運動は、回転を生かしたもので、認知症の早期発見にも役立ちます。1つ目に紹介する「チューリップ&回転」は、レベル3の動きが難しく感じられたら認知機能の低下を疑いましょう。2つ目に紹介する「指くるくる」は、最初は難しく感じるかもしれません。その「難しい」状態こそ、脳が刺激されている証拠。難しいと感じている状態を楽しむことが大切です。
ブレインエクササイズを実践するときは、ほかの動きと合わせて行うと、より高い効果が期待できます。テレビを見ながら、歌いながら、ウォーキングをしながら挑戦するのもおすすめです。早速今日からブレインエクササイズを始めてみましょう!