株式会社エフエム西東京 制作室制作室長 飯島 千ひろさん
全国にあるコミュニティFMラジオ局の中でも、医療・健康情報に関する番組が多いといわれるFM西東京。東京都の郊外から放送される「ここだけの話」は、インターネットを使えば全国どこでも聴取できるため、健康情報に関心が高い人たちから高い支持を集めています。みずからも「番組に助けられた」という制作室長の飯島千ひろさんに、番組作りの原点を伺いました。
番組の制作を通じて多くの医師や治療法とご縁をいただきました
東京都の郊外にある西東京市を中心としたエリアでラジオ放送事業を行う「FM西東京」。テレビと比べてリスナー(聴取者)との距離感が近いラジオ放送は、いまでは多くの局がインターネットや専用アプリを使って、いつでもどこでも番組を聴けるようになっています。そのため、これまでラジオを聴かなかった人にも情報がより届きやすくなったとされています。
全国にあるラジオ局の中でも、FM西東京は「医療・健康番組が充実したラジオ局」として、健康情報に敏感な層から支持を集めています。番組制作の中心となっているのが、制作室室長の飯島千ひろさんです。
幼少期からときおり、アトピー性皮膚炎の症状があり、徐々に悪化していったという飯島さん。さまざまな治療を受ける中で、西洋医療の限界を感じるようになったといいます。そんな飯島さんは、FM西東京に勤務後、番組制作を通じて出合ったさまざまな療法を試しながら、やがてアトピー性皮膚炎を克服。その経験や学びを番組作りに活かし、医療の本質に基づく情報をリスナーに届けています。そこで今回の「情熱人列伝」では、医療・健康番組を作るようになったきっかけと印象的なエピソードについて、飯島さんに伺いました。
「私は大学を卒業後、リゾート開発でまちおこしのコンサルティングを行っている企業に就職しました。出産休暇を取った後に復職するつもりでしたが、ブラックマンデー(1987年に起こった世界的な株の大暴落)の影響で会社がなくなってしまい、その後は家庭中心の生活を送っていました。子育てが落ち着いた2003年に、何か仕事をしたいと思って見つけたのが、FM西東京が募集していた事務職の求人広告でした。大学時代は放送研究会に所属していたので応募してみると、幸いにも内定をいただきました」
FM西東京で働きはじめた1年後、アトピー性皮膚炎が急激に悪化した飯島さん。頭から足まで、全身が腫れ上がったそうです。
「当時は、アトピー性皮膚炎の治療で皮膚科に行くと、ステロイド剤しか選択肢がありませんでした。症状の悪化に伴って、どんどん強い薬が処方されましたが、いっこうによくなりません。これ以上強い薬はなく、『このまま皮膚科では治りようがない』と諦めて、西洋医学とお別れをしたんです」
ステロイド剤使用の中止とともに全身から浸出液が出て、はがれ落ちる皮膚の強烈な痛みとかゆみが始まった飯島さん。もとの西洋医学の治療には戻りようがないと直観した飯島さんは、東洋医学をはじめ、自然医療や心理学、思考のとらえ方など、さまざまな分野の本を読みあさったといいます。
「大きな転機となったのが、鍼灸師の松田博公先生が書いた『鍼灸への挑戦・自然治癒力を生かす』という本でした。上司にすすめられたので読んでみると、世界的な免疫学者として知られる安保徹先生と医師の福田稔先生が共同で治療体系を構築した『自律神経免疫療法』について詳しく書かれていたんです。子どもの頃から西洋医学しか知らなかった私にとってその内容は衝撃的で、『世の中には治療法の選択肢がたくさんある』ことを教えていただきました」
自律神経免疫療法とは、「自然治癒力を高めるカギは自律神経のバランスにある」と考える治療法で、爪の生え際にあるツボや全身の経絡を磁気針で刺激することで自律神経のバランスを整えていきます。飯島さんの場合、自律神経免疫療法を実践している医療機関に通いながら、体を温める温熱療法を組み合わせることで、いったんはアトピー性皮膚炎が治癒に向かったといいます。
「その頃にご縁をいただいたのが、医師の石原結實先生です。地域で行われた石原先生の講演会の後、局が番組の出演依頼をすると、先生からご快諾をいただいたんです。本を出版すればベストセラーになる石原先生とのお仕事は緊張しましたが、番組を通じて勉強させていただきました」
その後、飯島さんは石原医師が新潟県で講演した際に、念願の安保徹博士と対面。著書だけでしか知らなかった安保博士の考えにあらためて感銘を受けた飯島さんは番組出演を依頼し、快諾を得ます。その後は安保博士とともに自律神経免疫療法の権威として知られる福田稔医師との番組も始まり、好評を博すようになったのです。
「ところが、その頃にアトピー性皮膚炎が再発して、みるみる悪化したんです。最悪な症状でしたが、これまでの経験から、『人には治る力がある』と信じて番組制作を続けました」
以後も、飯島さんには新しい医師との縁が続々と生まれていきます。自然流の子育てを提唱する真弓定夫医師や、“寄生虫博士”として知られた藤田紘一郎医師、若返りダイエット健康法などで知られる南雲吉則医師、石原結實医師のお嬢さんの石原新菜医師、内海聡医師、ホリスティック医療を実践されている帯津良一医師など、独自の治療を実践している医師たちの番組を次々と立ち上げたのです。
番組を通じて、さまざまな療法に出合い、自身でも実践しながらリスナーに紹介していた飯島さん。しかしながら、再発したアトピー性皮膚炎は、依然として治まらない状況が続いたといいます。
「そんなときにご縁をいただいたのが、がん治療の権威でもある白川太郎先生です。講演会場で先生に挨拶をしたとき、先生は私をじっと見ながら、『今度、クリニックに来なさい』とおっしゃったんです。クリニックを訪れると、先生は十数種類もの生薬を配合した漢方生薬を出してくださいました。効果はてきめんで、信じられないほど症状がよくなりました」
当時は番組で放送していた多くの医師たちのアドバイスから、腸内環境を整えることに熱心だったという飯島さん。白川医師が出した漢方生薬には、体内で肝臓と腎臓に働きかけて解毒を促す作用がありました。飯島さんはこの体験から、アトピー性皮膚炎の体質改善には「解毒」という選択肢も効果的であることを学んだそうです。
漢方生薬によってアトピー性皮膚炎の症状が劇的に改善した飯島さんですが、気温が下がる11~3月は、どうしても症状が悪化しやすかったといいます。この悩みを解決に導いたのが、2017年に始まった番組での新しい出会いでした。
「睡眠に関する番組を展開する中で、飯田橋内科歯科クリニックの五十嵐俊彦先生とご縁をいただいたんです。このクリニックは内科と歯科を併せ持つ治療方針で、特に五十嵐先生は噛み締めによる全身への影響を重視されています。五十嵐先生によると、噛み締めは自律神経やホルモンバランス、免疫力と密接に関係していて、就寝中の無意識な噛み締めは全身に悪影響を及ぼすとのことでした」
飯島さんは早速、五十嵐医師からすすめられた噛み締めを防ぐマウスピース療法を開始。オーダーメイドのマウスピースを装着して就寝するとアトピー性皮膚炎の症状が治まり、肌の質感も変わる衝撃的な体験をしたそうです。
「五十嵐先生のもとでマウスピース療法を続けていると、目立ちはじめていた白髪が黒くなっていきました。今年の冬は湿疹が出ませんでしたし、アトピー体質の娘もマウスピース療法で薬いらずの体になりました。ほかにも、五十嵐先生のもとでは、パーキンソン病の患者さんがマウスピース療法で車の運転ができるようになったり、うつ病の患者さんが外出できるようになったりするなど、多くの奇跡が起こっているそうです」
西洋医学のほかにも多くの治療法がある事実を番組で伝えたい
アトピー性皮膚炎の症状が深刻なときはマスクで顔を隠し、卒業式などのお子さんの大切な学校行事では、周囲に気づかれないように身を潜めていたという飯島さん。「どうしてこんなにボロボロでつらいのに、体は滅びない、死なないのだろう……」と、道路を走る車に飛び込みたくなる衝動に駆られるときもあったと振り返ります。
「服を着替えるときは、患部から浸出液が流れ落ちるのを防ぐために片手しか使えず、着替え終わるまでに30分以上かかりました。皮膚が裂けて全身がバキバキと割れるように痛く、正座もできません。激烈なかゆみから神経がマヒして、頭がボーッとするのは日常茶飯事。夜はかゆくて熟睡できず、反動で昼間は居眠り運転をしてしまうこともありました」
そんな飯島さんを見て、「絶対に治そう!」と惜しみない力を貸してくれたのが、番組を通じて知り合った多くの医師たちでした。自律神経のバランス、腸内環境や血流の改善をはじめ、解毒・睡眠・温熱・断食・良質な食事・体の中の汚れた血液を出す瘀血療法など、飯島さんのもとには医師の数だけ治療の選択肢が寄せられたのです。
「多くの先生方といっしょに番組を作って実感しているのは、『治療の選択肢は一つだけじゃない』『人体には治そうとする力がある』ということです。対症療法を中心とする西洋医学の治療法は限られますが、枠を外せば多くの選択肢が存在します。そのときどきで体からのサインを感じ取り、治す力を応援することの大切さを学びました。私自身は先生方が日々の診療で実践されているさまざまな療法を学び、試した結果として、自分に合う治療法にたどり着くことができたんです。病気や不調に悩んでいる人たちに、番組を通じて一つでも多くの選択肢を届けることが私の役割だと思っています」