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「セノリティクス」が老化を止める?

がん治療の進化を目撃せよ!

日本先進医療臨床研究会代表 小林 平大央

健康寿命120歳も可能!? 老化制御の切り札と大注目の「セノリティクス」とは?

小林平大央
[こばやし・ひでお]——東京都八王子市出身。幼少期に膠原病を患い、闘病中に腎臓疾患や肺疾患など、さまざまな病態を併発。7回の長期入院と3度死にかけた闘病体験を持つ。現在は健常者とほぼ変わらない寛解状態を維持し、その長い闘病体験と多くの医師・治療家・研究者との交流から得た予防医療・先進医療・統合医療に関する知識と情報を日本中の医師と患者に提供する会を主催して活動中。一般社団法人日本先進医療臨床研究会代表理事(臨床研究事業)、一般社団法人ガン難病ゼロ協会代表理事(統合医療の普及推進)などの分野で活動中。

若返りなど、抗老化効果があるとして、少し前まで「NMN(エヌエムエヌ)(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」というサプリメントが話題でした。しかし最近、欧米で話題となっている老化細胞除去薬(セノリティクス)は、そのNMNの抗老化効果をしのぐのではないかと考えられています。

現在、欧米では「老化は病気の一種で治療が可能である」という考えが広がってきています。こうした風潮の発端は、今から30年以上も前に開始された老化と健康寿命の延伸に関する二つの実験の結果発表によるところが大きいと考えられます。二つの大きな実験とは、米国ウィスコンシン大学(UW)と米国人の健康脳寿命の延伸を目指して1974年に設立された米国立老化研究所(NIA)によって発表されたものです。

UWの論文は2009年に『サイエンス』と2014年に『ネイチャーコミュニケーションズ』の二つの科学誌で発表されました。一方、NIAの論文は2012年に『ネイチャー』に掲載されました。発表された学術誌は、どれも世界最高峰の科学誌です。

ところが、この二つの論文は「3割のカロリー制限によって寿命が延びる」としたUWに対して、「3割のカロリー制限をしても寿命は伸びない」とNIAの結論がまったく反対だったため、世界中で議論が交わされました。そして、最終結論を出すべく、この二つの研究チームで共同研究がなされたのです。

結果として、NIAの研究では対象年齢がバラバラだったことと、カロリー制限をしない自由摂取の群でも実質的に一定の食事制限がなされていたことが判明。両群の差が小さかったため、寿命延伸効果が出なかったことが分かり、「カロリー制限による寿命延伸効果はある」という結論に至りました。この実験結果と相まって現在の老化制御の風潮に影響を与えたのが、寿命延伸や老化防止に関わる長寿遺伝子「サーチュイン遺伝子」の研究や老化制御成分「NMN」の研究です。

サーチュイン遺伝子は、ブドウの種子から発見されたレスベラトロールなどの成分によって活性化させることができ、健康長寿のカギを握る成分として注目されました。そして、レスベラトロールに次いで注目されたのがNMNです。2016年に米国ワシントン大学の今井眞一郎(いまいしんいちろう)教授らが国際的な医学専門誌『セルメタボリズム』で発表した論文がきっかけとなり、世界中にセンセーションを巻き起こしました。

『ライフスパン―老いなき世界』デビッド・A・シンクレア/マシュー・D・ラプラント著(東洋経済新報社)

論文の内容は、生後5ヵ月から1年間、マウスにNMNを飲ませたところ、人間の60代に相当する17月齢になっても、体の代謝が保たれ、人間の20代に相当する若さで活発に活動し、加齢に伴って起こる遺伝子の変化が抑えられるなど、抗老化効果が見られたというものでした。

この研究によって前述したカロリー制限によってなぜ寿命が延びるのかという謎も解明されました。カロリー制限も、NMNやレスベラトロールの摂取と同様にサーチュイン遺伝子を活性化することが判明したのです。さらに、最近の研究では、寿命を延ばすサーチュイン遺伝子の対局にある老化を促進する遺伝子や老化細胞の存在も発見されました。

老化細胞を除去することで寿命を延ばす治療法の研究も世界中で行われており、研究成果も数多く発表されるようになってきました。現在、最も注目されている抗老化や老化制御の分野は、長寿遺伝子の研究と老化細胞除去薬の研究分野です。

こうした一連の発表を受け、2019年にWHO(世界保健機関)では30年ぶりの大改訂として、世界中の医療機関が使用する国際的な疾病・死因の分類規格である「IDC(国際疾病分類)」の第11回改訂版を公表しました。これまでのIDCには〝老化〟という概念が存在しませんでした。しかし、ガンをはじめ、アルツハイマー病や心筋梗塞(しんきんこうそく)、脳卒中などの多くの疾患が老化によって引き起こされ、死因に大きく関与している事実を考えると、老化を示すコードが「IDC」に存在しないのは問題ではないかと、今回の改定にあたって見直しがなされたのです。

しかし、約2年半後の実際の改訂では多くの医学者の反対を受け、〝老化〟という診断名の登録はいったん撤回されました。この動きに対して「老化を治療可能な疾患と定義するすばらしい動きは残念なことに後退した」と米国ハーバード大学医学大学院のデビッド・シンクレア教授はツイッターに投稿しました。

『スーパーエイジャー―老化は治療できる』ニール・バルジライ/トニ・ロビーノ著(CCCメディアハウス)

シンクレア教授は老化研究で大きな影響力を持つ世界的な医学者で、老化細胞除去薬として注目を集めるNMNやケルセチンなどの研究でも有名です。また、世界一の美容医療クリニックとされる米国メイヨークリニックのジェームズ・カークランド博士も、老化細胞除去薬の研究成果を論文発表するなど、その道の専門家です。彼らは、人が老化という病気を克服できたら120歳くらいまで若く元気でいられるという「健康寿命120歳説」を唱えています。

そうした成分の一つとしてケルセチンを高吸収できる「ケルセフィット」を推奨しています。ケルセフィットについては、『健康365』2022年2月号で新型コロナウイルス感染症や間質性肺炎(かんしつせいはいえん)、ぜんそく、肺ガンなどの肺疾患に効果があると説明しましたが、最近では老化制御や寿命延伸の効果も高いのではないかと注目されているのです。

ケルセチンに多くの強力な作用や健康効果があることは以前から分かっていましたが、ケルセチンは水に溶けにくく体内への吸収性が低いため、これまで人間への健康効果は限定的でした。それが大きく進展したのは、通常の20倍以上吸収できるケルセフィットという新成分の開発によってです。

カークランド博士は、ケルセフィットを使用したマウス実験によって老化細胞除去効果の仮説を提唱しています。現在、カークランド博士の研究チームでは、ケルセフィットを使用した老化細胞除去能を検証するヒト臨床試験が進められています。