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腰痛・片マヒのリハビリに最適!姿勢を正してインナーマッスルを強化し歩行機能を向上させる最新機器

ニッポンを元気に!情熱人列伝

東洋大学ライフデザイン学部人間環境デザイン学科教授 東京大学医学部附属病院22世紀医療センター運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座特任研究員 勝平 純司さん

研究者として「人のために役立つこと」を常に考えているという勝平先生。シルバーカーから得られたヒントを頼りに試行錯誤の末に作られた「トランクソリューション・コア」は病院や介護・デイケアなどの施設で導入され、注目を集めています。

コルセット・腰痛ベルトで腹筋が衰えネコ背や腰痛が悪化しやすい

[かつひら・じゅんじ]——2004年、国際医療福祉大学大学院博士後期課程修了。同大学保健学部助手、同大学保健医療学部講師、新潟医療福祉大学医療技術学部准教授を経て、2020年4月より現職。東京大学発ベンチャー企業・トランクソリューション株式会社非常勤取締役を兼務。専門分野は人間工学、バイオメカニクス。著書に『介助にいかすバイオメカニクス』(医学書院)、『腰痛借金 痛みは消える!』(辰巳出版)など。日本義肢装具学会、バイオメカニズム学会、日本人間工学学会の会員。

「ネコ背や腰痛を改善するためにコルセットや腰痛ベルトを使っているという方は多いことでしょう。コルセットや腰痛ベルトは姿勢の修正ができるものの、腹部の筋肉を衰えさせることが分かっています。特に〝天然のコルセット〟といえる(ふく)(おう)(きん)(腹部の深層にある筋肉)が衰えるとよい姿勢を保持することが難しくなり、ネコ背や腰痛を悪化させてしまうおそれがあります」

そのように(けい)(しょう)を鳴らすのは、(とう)(よう)大学ライフデザイン学部人間環境デザイン学科教授の(かつ)(ひら)(じゅん)()先生です。勝平先生は「ネコ背は万病の元」と危惧しています。

「ネコ背の原因は、加齢に伴う筋力の低下や背骨の老化です。筋力の低下に伴って骨盤が後ろに倒れている状態(骨盤後傾)になります。すると、バランスを取ろうとして上半身が前傾になり、背中が丸くなる——つまり、ネコ背の姿勢になるのです。ネコ背の姿勢では、視界を保つために必然的にあごが上がる状態になります。このように体に偏った負荷がかかることで、さらに体がゆがんでしまうという悪循環に陥ってしまうのです」

ネコ背を治すためには、体幹を構成している「(ふく)(しゃ)(きん)(腹部側面の筋肉)」「腹横筋」「(ちょう)(よう)(きん)(上半身と下半身をつなぐ筋肉)」「()(れつ)(きん)(背骨を支える筋肉群)」を鍛えることが大切と勝平先生は話します。特に、腹横筋はおなかに力を入れながら(よう)(つい)を安定させる役割のある重要な筋肉なのです。

「腹横筋は『深層筋』と呼ばれるインナーマッスルに分類され、意識して鍛えることが難しい筋肉といわれています。さらに、通常のウォーキングなどの運動を行っても腹横筋にかかる負荷は少なく、鍛えるにはコツが必要なんです」

〝天然のコルセット〟である腹横筋を鍛え、ネコ背や腰痛を改善する新たな装着型機器。それが(かわ)(むら)()()株式会社と共同開発した『トランクソリューション・コア(以下、TSと略す)』です。「トランク(体幹)」を「ソリューション(解消する、整える)」という意味で名づけられたそうです。

背すじが伸びた美しい姿勢になるだけでなく、インナーマッスルの活動が促され、歩行機能を向上させるトランクソリューション・コア

TSは「胸パッド」「腰パッド」「リンク機構(ばね機構)」「鋼製フレーム」の4つから構成されています。胸パッドと腰パッドはリンク機構を持つ鋼製フレームで連結され、リンク機構でばねの張力を胸を押す力に変換します。胸を押す力を簡単に調節することができ、動力源はばねのみです。TSを装着すると、次のようなしくみで体に働きかけます。

①TSを装着すると胸パッドが胸を押す力を与えて上体が起き上がる(体幹が伸展する)

②胸パッドが前に押し出される力は銅製フレームとリンク機構を通して、腰パッドを前方に回転させ、骨盤の前傾を促す

③体幹の伸展と骨盤の前傾を促すことで、歩行時に脚の振り出しをスムーズにする

④胸パッドが胸を押す力の抵抗力を生み出すため、インナーマッスルの活動が促される

「TSの形状は独自のもので、コルセットや腰痛ベルトとは異なります。TSを開発するきっかけとなったのは、シルバーカーを使って歩行時に腰にかかる負担を分析しているときのことでした。シルバーカーは手で上半身を支えることができるので、腰にかかる負担が軽くなると考えていたんです。実際に研究を進めると、腰にかかる負担が軽くなるだけでなく、腹部にも力が入りやすくなっていることが分かり、歩きやすくなっているのではないかと考えました。ただ、シルバーカーを使って歩くと姿勢が前かがみになりやすいばかりでなく、脚を前に振り出すのにシルバーカーがじゃまになってしまうという問題がありました」

よい姿勢を保ちながら、シルバーカーを使用したときと同じように腹部の力が入りやすくなる装着型機器を作ることができれば……。そうすれば、高齢者をはじめ、ネコ背・腰痛などに苦しんでいる方や片マヒなどの障害がある方の歩行機能を改善できるのではないかと考えた勝平先生。その結果、背すじが伸びた美しい姿勢となるだけでなく、インナーマッスルの活動が促され、歩行機能を向上させるTSが開発されたのです。

TSで片マヒや運動器疾患の歩行機能が有意に改善した

「TSは、東京都リハビリテーション病院や東京都健康長寿医療センター、(はつ)(だい)リハビリテーション病院などの病院以外に、介護施設やデイケアでリハビリの一環として使われはじめています。さらに、学校や企業でも腰痛予防のために導入されています」

TSを導入した病院や介護施設では多くの方に使用してもらい、さまざまな興味深い効果が報告されていると話す勝平先生。介護施設には脳卒中の後遺症である片マヒの患者さんが多く、リハビリに悪戦苦闘しているそうです。片マヒの患者さんに対して、TSを装着してもらったところ、TSを外した後の歩行時の歩幅が有意に広くなり、歩行機能が改善することが分かっています。

さらに、(たん)()()(そう)()(ひざから足首までの装具)をつけた28人の片マヒの患者さんを対象にして、TSを使用したグループとコルセットを使用したグループに分けて比較した試験の結果、TS群では脚で床をける力が有意に増加して歩行機能が改善することも判明しています。

「TSは、骨折や変形性関節症、腰痛などの運動器疾患がある患者さんにも有効であることが分かっています。運動器疾患がある61人の高齢者に対して、20分間の理学療法の直後の歩行と、その後にTSを装着した5分間の歩行を比較した結果、TSを装着した歩行では10㍍歩くのにかかる時間(10㍍歩行時間)が短縮し、片足で立っている時間(片足立位時間)も延長したんです」

10㍍歩行時間や片足立位時間は、転倒するリスクを評価する指標として用いられています。そのため、TSを装着した歩行訓練は転倒リスクの低下をもたらすと考えられています。

「TSを装着することで、ネコ背の原因になっている腹横筋が強化されるという効果も報告されています。13人の健康な若年者を対象にしてTS装着の有無を比較した結果、TSを装着すると腹横筋厚が増加することが分かっています。さらに、健康な若年者を対象にして、4週間にわたって週3回ほどTSを装着して歩行してもらったところ、試験前に比べて腹横筋が有意に強化されていることも分かったんです」

リハビリの〝密〟はTSで解消しながら身体機能を鍛えられる

新型コロナウイルスによって、介護施設でリハビリが思うようにできていないと憂慮する勝平先生。新型コロナウイルスの感染を防ぐためには「密閉・密集・密接」の〝三密〟状態を回避する必要があります。しかし、介護施設のリハビリは、どうしても〝密〟な状態になりやすいという課題があります。

「介護施設のリハビリは基本的に屋内で多くの患者さんが集まり、理学療法士や介護士に介助してもらいながら行います。そのため、必然的に密接してしまうのです。リハビリに取り組まなければ、体の回復はおろか、身体機能が低下してしまうため、転倒や寝たきりの危険性を高めてしまいます」

TSはリハビリの〝密〟な状態の解消にも有効だと話す勝平先生。TSを使用したリハビリは、体に装着して歩行してもらうだけなので密接する必要がありません。ただし、TSに新型コロナウイルスが付着する可能性があるため、使用前後には消毒をしっかり行いましょう。

「身体機能を取り戻すためにリハビリを行っているのにもかかわらず、新型コロナウイルスに感染しては本末転倒です。ただし、リハビリで体を動かさなければ筋力は衰える一方です。そのため、TSを装着してリハビリを行うことで、新型コロナウイルスの感染を回避しながら筋力を鍛えることができます」

「世のため、人のためになる研究にチャレンジしなさい」という恩師の言葉を胸に、TSの研究・改良に励んでいる勝平先生。TSが一人でも多くの方の身体機能の改善と生活の質の向上に役立つのであれば、望外の喜びだと笑顔で語ってくれました。