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変形性ひざ・股関節症の激痛一掃!

整形外科

東邦大学医学部准教授 中村 卓司

変形性ひざ関節症は立ち上がったときに起こる痛みが特徴で軟骨のすり減りで発症

座っている状態から急に立ち上がったときなどに〝ズキッ〟という瞬間的な痛みがひざに走ることはないでしょうか。ふだんはなんともないのに動きはじめに痛む「スターティングペイン」は、変形性ひざ関節症の特徴的な症状の一つです。変形性ひざ関節症はひざの軟骨がすり減り、関節炎や関節の変形が生じて痛みが起こる病気です。

ひざ関節は、太ももの大腿骨(だいたいこつ)とすねの(けい)(こつ)、ひざの「お皿」と呼ばれる膝蓋骨(しつがいこつ)で構成されています。脛骨のすぐ外側には「腓骨(ひこつ)」と呼ばれる細い骨があり、靭帯(じんたい)によって大腿骨・脛骨と結ばれています。

ひざの関節軟骨は、大腿骨と脛骨の先端部分の表面や、膝蓋骨の裏側の表面を覆って保護しています。さらに、大腿骨と脛骨の隙間(すきま)には、内側と外側に一つずつ「半月板(はんげつばん)」と呼ばれる三日月のような形をした板状の構造物があります。弾力性に富んだ関節軟骨や半月板は衝撃を吸収して分散したり、関節の動きを滑らかにしたりする働きがあります。

ひざ関節は「関節包(かんせつほう)」という袋に包まれ、関節包の内側には「滑膜( かつまく)」という組織があります。滑膜を構成する滑膜細胞は、関節液の分泌(ぶんぴつ)と吸収を行っています。関節液には、関節の動きを滑らかにする(じゅん)滑油(かつゆ)としての役割だけではなく、血管が通っていない関節軟骨に水分や酸素、栄養を運ぶという重要な役割があります。

炎症促進物質や骨に加わる衝撃も痛みの原因となり早期発見・治療が大切

[なかむら・たかし]——1993年、東邦大学医学部卒業。医学博士。米国留学などを経て、2012年から現職。日本関節病学会評議員、日本人工関節学会評議員、日本リウマチの外科学会理事などを兼任。

関節軟骨自体には神経がありませんが、周辺の骨や関節包、滑膜などの組織には神経があります。関節軟骨がすり減って変形性ひざ関節症を発症すると、大腿骨と脛骨の隙間が狭くなったり、関節包や滑膜が変形したり、「(こつ)(きょく)」と呼ばれる骨の突起が形成されたりして関節に変形が生じます。変形した関節によって関節包や滑膜が刺激されると、ひざに痛みが起こるのです。また、変形の過程で生じた関節軟骨のかけらが滑膜に引き起こす炎症も、痛みの原因の一つです。

さらに、滑膜に炎症が起こると、「炎症性サイトカイン」という物質が産生されます。炎症性サイトカインは炎症反応を促進する働きがあ物質で、炎症を悪化させることで痛みが増悪(ぞうあく)してしまいます。

関節軟骨がすり減ることで衝撃を吸収する働きが低下し、骨に直接衝撃が加わることも痛みの原因の一つです。特に、関節軟骨の土台となっている硬い骨(軟骨下骨)が露出するようになると、骨どうしがぶつかり合って強い痛みが生じるようになります。

変形性ひざ関節症の進行度合い(病期)は、骨棘や関節の隙間(関節裂隙(かんせつれつげき))の状態によってグレード0~4の5段階に分類されます。変形性ひざ関節症は早期発見・早期治療によって進行を抑えることがなによりも大切です。ひざに痛みや違和感を覚えている人は、早めに専門医の診察を受けるようにしてください。

階段昇降などはひざの負担が大きく厳禁で曲げ伸ばしのない「セッティング」が有効

変形性ひざ関節症の治療は、大きく分けて保存療法と手術療法の二つがあります。末期になれば人工関節置換術をはじめとした手術も選択肢として検討されますが、ほとんどの患者さんは薬物療法や運動療法などの保存療法によって痛みを軽減できます。薬物療法や運動療法のほか、足底板(そくていばん)(つえ)を使用する装具療法、温熱療法も保存療法の一つです。

痛みが強くない場合は、痛みが悪化しない範囲内で運動療法に取り組むことが大切です。ただし、痛みが強い場合は消炎鎮痛薬を使用し、ひざ関節を安静にしておく必要があります。運動の習慣を身につけるというと「続けなければならない」と意気込んでしまいがちですが、痛みが強くなっているようであれば、回数を減らしたり適度に休んだりするようにしてください。無理のない範囲内で習慣化するようにしましょう。もちろん、痛みを伴う運動は厳禁です。

患者さんの中には、運動療法として階段の昇降に取り組まれる方がいますが、あまりおすすめできません。特に階段を下りる動作はひざへの負担が大きいので、訓練には不向きだからです。

私が患者さんにおすすめしているのは、自転車こぎ運動です。ひざへの負担が少なく、有酸素運動としておすすめです。スポーツジムのエアロバイクはもちろん、「運動である」という意識を持っていれば、実際に自転車に乗るだけでもけっこうです。特に決まりはありませんが、週に2~3回30分間程度であれば、時間を作りやすいかもしれません。

筋力トレーニングとしては、ひざの曲げ伸ばしをしないで行う「セッティング」という方法があります。ひざ関節への負荷が少なくすむ一方で、筋肉への負荷も少ないため、回数をこなす必要があります。根拠となるデータはありませんが、最初は10~15回を1セット、1日3セットを目標に無理のない範囲で取り組むとよいでしょう。最終的には、25回を1セットとして、1日4セットが大きな目標にしやすいと思います。

保存療法の手の限りを尽くしても生活の質の低下が抑えられなくなった場合、最終手段として手術療法が検討されます。手術療法には骨切り手術や人工関節置換術などがあります。手術の方法は、ひざ関節の変形の程度や、患者さんの年齢、また活動量などによって判断されます。基本的に、年齢が70歳以上でひざ関節の変形が中等度以上の場合は人工関節置換術が選択されます。

人工関節置換術は痛みの改善には劇的な効果を発揮するが感染症の危険が伴う

ひざ関節の人工関節置換術は、ひざ関節の表面を削って金属やポリエチレンなどで作られた人工関節に置き換える手術です。具体的には、ひざ関節の人工関節置換術の方法は、変性・損傷した大腿骨(だいたいこつ)脛骨(けいこつ)の軟骨を含めた関節の表面を削ります。削り取った部分は、ひざ関節の表面形状を模倣したインプラント(人工関節の部品)で置き換えます。インプラントと骨は、医療用の(こつ)セメント(人工関節と骨を固定する接着剤)で固定します。

人工関節置換術の最大のメリットは劇的な痛みの軽減です。手術前に比べてひざが曲がるようになることも多く、O脚も矯正されるため、脚がまっすぐ伸びて姿勢がよくなり、ほかの関節への負担も軽減できます。

ひざ関節のすべてをインプラントに置き換える手術は「人工ひざ関節全置換術(TKA)」と呼ばれており、現在行われている一般的な人工関節置換術です。また、近年注目されるようになっているのが、関節の一部のみをインプラントに置き換える「人工ひざ関節単顆( たんか)置換術(UKA)」です。

ひざ関節は、関節の内側と外側、そして前方にある膝蓋骨(しつがいこつ)(ひざのお皿)の三ヵ所で体重を支えています。関節のすり減りが「内側だけ」または「外側だけ」の場合、すり減っている部分だけをインプラントに置き換える方法が人工ひざ関節単顆置換術です。ひざ関節の変形が中等度以上の場合は適応にはなりませんが、全置換術に比べて手術の侵襲が少ないため、手術前と同様の生活レベルが維持でき、入院期間も短くてすむというメリットがあります。今後さらに普及が進んでいくでしょう。

人工関節置換術は変形性ひざ関節症の痛みを改善するすばらしい治療法ではあるものの、残念ながら決して万能ではありません。人工関節置換術には、必ず感染症の危険が伴います。人工物である人工関節は感染症とは相性が悪く、一度感染症を起こすと治療がとても困難になります。

人工関節置換術を選択する前に、まずはしっかりと保存療法に取り組むことが大切です。後ろを振り返るようなひざにひねりが加わる動作や、正座などのひざを深く曲げてしゃがむ動作は、痛みを誘発しやすいため避けるようにしましょう。日常生活でひざにかかる負担を減らす工夫をしながら薬物療法や運動療法に取り組み、変形性ひざ関節症の進行を抑制するよう心がけましょう。